ベストナイン初受賞者「パは7人、セは0人」の異常事態
11月21日、2013年度のプロ野球ベストナインが発表された。投票数はセ・リーグが275票、パ・リーグが234票。有効投票数はセ・リーグの266票に対し、パ・リーグは228票。選出された選手は以下の通り。
【セ・リーグ】
投手 前田健太(広島/25歳/2回目)
捕手 阿部慎之助(巨人/34歳/8回目)
一塁手 ブランコ(DeNA/33歳/3回目)
二塁手 西岡剛(阪神/29歳/初)
三塁手 村田修一(巨人/32歳/3回目)
遊撃手 鳥谷敬(阪神/32歳/4回目)
外野手 バレンティン(ヤクルト/29歳/2回目)
マートン(阪神/32歳/3回目)
長野久義(巨人/28歳/3回目)
【パ・リーグ】
投手 田中将大(楽天/25歳/2回目)
捕手 嶋基宏(楽天/28歳/2回目)
一塁手 浅村栄斗(西武/23歳/初)
二塁手 藤田一也(楽天/31歳/初)
三塁手 マギー(楽天/31歳/初)
遊撃手 鈴木大地(ロッテ/24歳/初)
外野手 長谷川勇也(ソフトバンク/28歳/初)
内川聖一(ソフトバンク/31歳/3回目)
中田翔(日本ハム/24歳/初)
指名打者 アブレイユ(日本ハム/34歳/初)
日本一に輝いた楽天からは両リーグ最多の4人が選出され、田中将大は投手として24年ぶりとなる満票での選出となった。一方、日本シリーズで敗れた巨人からは3人が選ばれ、7年連続受賞となった阿部慎之助は両リーグ最多の264票を集めた。
今シーズン限りでユニフォームを脱いだ山崎武司氏は、今回のベストナインの印象についてこう話してくれた。山崎氏は現役時代、中日と楽天でベストナインに合計3度選出されている。
「パ・リーグはやはり楽天の選手が中心になりましたね。田中は文句なし。そして藤田が評価されたことが、本当に嬉しい。彼は守備の人と見られがちだけど、いい場面で打っていましたからね。一方のセ・リーグは、外国人選手やベテラン選手の活躍が目立ち、若手選手が彗星のように現れることもなかった。言ってみれば、順当な結果だったと思います。ただ、ピッチャーに関しては、ヤクルトの小川(泰弘)でもよかったのかなと思いますけど......」
今回、ベストナインに選ばれたセ・パそれぞれの平均年齢は、セ・リーグの30.6歳に対して、パ・リーグは27.4歳(指名打者のアブレイユを含めると28.1歳)。セ・リーグにはリーグを代表するベテランが多く並び、西岡も過去にパ・リーグで3度ベストナインに選ばれていることを考えると、実質的に初受賞者はいないといえる。また、捕手の阿部は2年連続最多得票で受賞するなど、ライバル不在の状況が続いている。
「正直、『阿部じゃなければ誰?』というほど、名前が出てこない。これはパ・リーグにも言えることかもしれないですが、安定した力を発揮できる捕手がいない。だから今年、FAした鶴岡慎也や山崎勝己といった、磐石のレギュラーでない捕手にも注目が集まるんです」
それに対しパ・リーグは、初受賞者が7人とフレッシュな顔ぶれが並んだ。浅村は23歳にして西武の4番を任され、打率.317、27本塁打、110打点で打点王を獲得した。また、2年目のロッテ・鈴木は144試合にフル出場し、高い守備力と両リーグ最多となる11の三塁打を放つなど、好守に活躍した。鈴木は「松井稼頭央さんより、(票数が)多いってすごいことですよね」と初受賞を喜んだ。前出の田中も25歳だし、中田も24歳。なぜ、パ・リーグは新鮮な顔ぶれが並び、セ・リーグはおなじみの顔ぶれになったのか。
「今年のパ・リーグはベテラン選手が少なく、若手選手をどんどん起用していた印象があります。ベテラン勢でいうと、例えば日本ハムの稲葉(篤紀)の調子が上がらなかった。そういうのも影響していると思います。セは外国人の活躍が目立ち、若手野手が試合に出られなかったことに尽きる。今年の浅村のようにプロ野球は若い選手が活躍すると盛り上がる。セ・リーグとかパ・リーグとか関係なく、どんどん若い選手には出てきてほしいですよね」
ただ、セ・リーグにも注目したい若手がいる。二塁手では広島の菊池涼介(23歳)。クライマックス・シリーズでの活躍が記憶に新しいが、今回のベストナインでも西岡の155票に次ぐ102票を獲得。近い将来、チームの顔になる可能性は十分にある。また、DeNAの梶谷隆幸(25歳)もシーズン後半戦に大ブレイク。77試合の出場ながら打率.346、16本塁打、44打点を記録。遊撃手部門でも4票を集めた。来季から背番号が「63」から「3」に変わるなど、期待の大きさがわかる。同じく遊撃手ではヤクルトの川端慎吾(26歳)も70試合の出場ながら、打率.311をマースし、フル出場さえすれば面白い存在だ。
「梶谷は、後半戦になってバッティングが開眼したけど、その打撃を1年間継続できるのか。ベストナインというのは、1年間を通して打撃や守備をやり通して初めて評価される賞だからね。極端な話、50試合で60本塁打を放てば、ホームラン王は獲れるけど、その試合数でベストナインは選ばれないでしょう。だから、ベストナインの受賞というのは本当に栄誉なことですよ」
セ・リーグは山崎氏やヤクルト・宮本慎也選手、広島・前田智徳選手など、これまで球界を支えてきたベテラン選手が数多く引退した。だからこそ、来季は若い選手たちの活躍に期待したい。
島村誠也●文 text by Shimamura Seiya