女子高生とゲームが作れるのは福島GameJamだけ! 熱い30時間が今年も南相馬に帰ってきた。

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「君たちは女子高生とゲーム開発したことあるか?私はある」(伊藤周@warapuri)

えーっと、唐突ですみません。プロ・アマのゲーム開発者が即席のチームを組んで、30時間以内にゲームを開発する「東北ITコンセプト 福島GameJam in 南相馬 2012」。第一回目の昨年は、エキレビライターの香山哲さんがレポート記事をアップされましたが、今年は不詳・小野憲史が突撃参加してきました。

本イベントは国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)と福島県南相馬市の主催で、8月4日・5日に開催されたもの。メイン会場の南相馬市市民会館「ゆめはっと」以外に、東京・名古屋・福岡そして台湾台北・台湾台南のサテライト会場も参加。合計170名を数える開発者が、28のチームに分かれてゲームを制作しました。完成したゲームは作品紹介ページにアップされているので、ぜひ遊んでみてください。Ustreamではイベントの模様が特別番組として配信されていますよ。

でもって今年の特徴の一つが、冒頭にも記した地元高校生の参加。事前にNPO法人フロンティア南相馬主催、東京工科大などの協力で、ゲーム開発のイロハが集中講義されました。そこから4人の希望者がGameJamに参加し、一人ずつ各チームに割り振られて、ゲーム作りを体験したんですね。

日頃デスマーチと格闘しているプロのゲーム開発者にとって、女子高生とゲームを作る機会なんて夢のよう。同じく参加した大学・専門学校生にとっても、自分たちよりさらに経験の乏しいチームメイトが参加することで、教わる立場から教える立場にジョブチェンジ! いろいろ刺激に富んだ体験となったようです。

さてさて、GameJamでは特定のテーマに沿ったゲーム開発が行われるのが一般的。開会式では「RISE」と発表されました。辞書では「昇る、上がる、そびえる、向上する」などの訳語が見られます。ところが我々のチームでは、メインプログラマーも兼務したリーダーが、開口一番「我々のチームだけのサブテーマを設けよう!」と切り出しました。

なんでも会場に到着する前、バスで被災地を見学した際に、子供たちが外で自由に遊びづらい現状を改めて知り、心が痛んだのだとか。そのため今回のゲームも、自分たちが子どもの頃に良く遊んだ遊びをモチーフにして、南相馬市の子供たちにプレイしてもらいたいと語ったのです。これには他のメンバーも賛成。たちまち「子どもの頃に遊んだ遊び」のネタだし大会となりました。

その中からゲームにしやすい題材を抽出し、こねくり回して生まれたのが、カブトムシが主人公のアクションゲーム。木をどんどん上がっていき、空をどんどん飛んで、最後は宇宙に飛び出してしまう内容です。とりあえず、世界観やストーリー性はガン無視。開始数時間で、リーダーが木の幹にカブトムシが張り付き、左右に動かせるデモを作り上げると、一気にモチベーションが高まりました。タイトルも「ライズオブビートル」に決定!

企画の方向性が固まったところで、いよいよ本開発に突入です。リーダーはゲームのメイン部分をプログラム。他のメンバーもキャラクターやロゴを描いたり、サウンドを作ったりと、それぞれ忙しそう。みな黙々と作業が進んでいきます。

もっとも僕はというと、こうした実作業ができるわけはないので、ひたすらゴミを捨てたり、お弁当を配ったり、スーパー雑用係に徹しておりました。たまーに「敵にクワガタを出したらどうでしょう」なんてネタを出して、運良く採用してもらえたり。あ、それでも幾つかのステージで、敵の配置を行いましたよ。テキストデータでパラメータを設定すれば、すぐにテストプレイできる環境を用意してもらえたおかげで、僕も少しはゲーム開発の一端に触れられました。

南相馬会場のもう一つの特徴が、開発中のデモ版をロビーに設置し、子供たちに遊んでもらえること。わかりにくいところはないか、後ろから手の空いたメンバーが見守ります。子供たちが笑顔で遊んでいる姿を見ると、それだけで心が癒されて、徹夜の苦労も吹き飛んでしまうほど。我々のゲームも、たまたま昆虫が大好きな子どもが何度も繰り返し遊んでくれて、皆で喜びました。

もっとも、辛辣なコメントを受けることもしばしば。なんたって子どもですからね、容赦ないです。我々のチームでもさっそく「最初のステージが簡単すぎるみたい」と報告が入りました。最初のステージ、それはまさに僕がデザインしたもの。順を追って遊び方がわかるように、思い切って簡単にしてみたいんだけど...。もう少し難しくしようとした矢先、リーダーが

「その子が上手すぎる可能性もあるから、難しくするのではなく、ステージを短くして、すぐにクリアできるようにしよう」

とコメント。なるほどー、と目から鱗が落ちてしまいました。こんな風に、ゲーム作りのノウハウが実際に作りながら体験できるのがGameJamの良いところ。個人的には今回の金言でした。ほったらかしのまま進んだ世界観やストーリーも、みんなでコロコロ転がしていくうちに、テーマに沿ったオチまでついて万々歳。残念ながら時間切れでエンディングは実装できませんでしたが、リーダー曰く終了後もアップデートされるそうですよ。

そんなこんなで、長いようで短かった開発時間も二日目の夕方には終了。各チームの最終プレゼンテーションが行われました。参加者全員の一言コメントもあり、高校生の中には「初めてゲーム開発に参加して、どのように作られるかが分かった。機会があればまた参加したい」と言ってくれた子も。いやいや、僕らも君たちから、いろんなことを学びましたから、はい。

閉会式終了後、東北地方の参加者は終電に間に合うように、バスで一足早く出発。東京からの参加者は、南相馬市からの参加者や、イベントを影で支えてもらった市役所の方々と一緒に、懇親会に出席しました。多くのGameJamでは48時間という制作時間が一般的ですが、今回30時間でほとんどのチームがゲームを完成させたことに、みな自信を深めたよう。今回の感想について、みな熱く語り合っていましたよ。

最後に参加者の一人、ぬめぬめ(@sayunaga)さんのツイートを引用して、まとめに変えさせてもらいましょう。本イベントの趣旨が最も良く表現されていると思うので...。

「何も無い状態から、限られた時間の中で、初めて出会った人びとが協力しながら『何かを産み出す』これが復興と発展に対して我々が発信出来る最も強力なメッセージの一つではないかと思うのです」

はい、まさにそのとおり! 来年度の開催は未定とのことですが、こうした輪がどんどん広がって、大きなうねりになっていくといいですね。
(小野憲史)