『それが声優!』第2巻 サークル「はじめまして。」(三日目西あー20ab)
声優で作家のあさのますみさんと、漫画家の畑健二郎さんによる同人サークル「はじめまして。」が、8月12日(日)のコミケ82最終日に頒布する新刊同人誌。3人の新人声優が主人公の声優あるあるネタの4コマ漫画です。第2巻はWEBラジオ編。パーソナリティとしても人気のあさのさんが、実際に体験した出来事や感じた思いが描かれています。インタビューの中でも語られていますが、作画面でのクオリティも、1巻よりさらにアップ!

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声優として数々の作品に出演しながら、作家、作詞家としても活動しているあさのますみ(声優としての名義は浅野真澄)。
3度目のテレビアニメ化も決定している大人気漫画『ハヤテのごとく!』の作者・畑健二郎。
この異色コンビによる同人サークル「はじめまして。」が、8月10日(金)から東京ビッグサイトで開かれる夏コミ(コミックマーケット82)で、2度目のコミケ参戦! 最終日の12日(日)に、声優あるある4コマ漫画「それが声優!」の第2巻を頒布します。
昨年12月のコミケ81で頒布された1巻のクオリティに驚き、エキレビ!にレビューを寄稿した僕としては、非常に気になるところ。
そこで、2巻の入稿作業終了直後のお二人に、お話を伺ってきました。

●絵の密度もかなり上がっています

――『それが声優。』第2巻の入稿作業、お疲れさまでした。
あさの 入稿は無事に終わりましたね。
畑 あとは、コミケ会場限定でおまけに付く、折り本の作業が残っているんですけどね。
あさの でも、ひとまず、考える作業が終わって、私はほっとしています。畑先生は、私なんかと比べものにならないくらい、大変だったと思うんですけど(笑)。週刊連載に加えて、『ハヤテのごとく!』の新作アニメがもうすぐ始まるという時期の同人誌制作だったので。
畑 いえいえ(笑)。でも、今回は、日本で一番有名かもしれない某アシスタントさんが、ガッツリ入ってくれたおかげで、実は前回の冬コミよりはずいぶんと楽で。絵の密度なども、かなり上がっていると思います。
――先ほど、2巻のゲラを読ませて頂きましたが、1巻よりも、さらにクオリティが上がっていて驚きました。でも、2巻のお話を伺う前に、まずはお二人がご一緒に同人誌を作ることになった経緯から教えて下さい。その前から、お二人は知り合いだったんですよね。
あさの はい。私が『ハヤテのごとく!』のアニメに(朝風理沙役で)出演させて頂いているので。時々、「こういう時はどうしてますか?」とか、物語や作品を作ることについて色々とアドバイスをもらったりして。作家さんの中では、一番最初に仲良くさせて頂いた方で、ツイッターもフォローしあってたんです。
――以前の取材でも少し伺ったお話ですが。あさのさんが、ツイッターで漫画の描き手を募集したら、畑さんが手を挙げられたわけですよね。畑さんは、なぜ、あさのさんの提案に乗ってみようと思ったのですか?
畑 そうですね。少し長くなるんですけど……。今って出版不況じゃないですか。
――そう言われるようになって久しいですね。
畑 漫画全体の売り上げに関しても、一極集中が進んでると思うんですね。例えば、昔は5冊、漫画を買ってくれてた人が、3冊しか買ってくれなくなってる。そうすると、一番売れてるマンガ3冊を買うようになって、残り2冊を買わなくなるんですね。だから、下の2冊はどんどん売れなくなり、上の3冊はガンガン売れる。これってたぶん、産業としては末期的な症状だと思うんですよ。
――これから広がっていく産業の姿ではないですよね。
畑 はい。だから、今後、漫画家というか、マンガ業界が生き残っていくにはどうしたら良いだろうなと思った時。まず、出版社に依存しないコンテンツを持ってみたいと思ったんですね。しがらみがなく実験的な事にも挑戦でき、自由な展開もできるコンテンツが欲しかったんです。そういうものがあれば、そこで得たノウハウや制作システムなどを、商業誌の作品にもフィードバックできるんではないかな、と。
――あくまでも、中心が商業作品という点は変わらない?
畑 そうです。僕は、商業誌でプロとしてやっているので、常に、その雑誌や、その連載が、どうすればもっと面白くなって、もっと伸びていけるかを考えているんですね。その一環として、新しい挑戦もできるコンテンツが欲しかったんです。でも、全部を自分でやるのはきついな、と思っていたんですね。そうしたら、ツイッターで、原作を書くと言ってる人がいるぞと(笑)。
あさの あはは、私です(笑)。
畑 浅野さんの本は、エッセイも絵本も小説も読んでいて、(面白い話を)書ける人だってことは知っていたので。たぶん、漫画の原作も書けるんだろうなって。軽い気持ちで、「絵、描きますよ」って返事しました。

●一気に計画が大きくなりました

――同人誌を出す事については深く考えていたのに、あさのさんへの返事は軽い気持ちだったんですね(笑)。
畑 はい(笑)。そんなに労力はかからないと思ったんですよ。実際は、意外にかかりはしたんですけど。でも、あさのさんが書いてきてくれた1巻目のネームが本当に良くできていたので、頑張って描きました。
――あさのさんは、畑さんから「絵、描きますよ」と返事が来た時、どのようなお気持ちでしたか?
あさの そもそも、声優の友達がコミケで同人誌を出すという話を聞いて、楽しそうだなと思ったのがきっかけだったので。何となく「同人誌がやれたら良いな」くらいの気持ちだったんですけど。畑先生がやると言ってくれたおかげで、一気に自分の中で計画が大きくなりました(笑)。
畑 ははは(笑)。
あさの 週刊連載をしているプロの漫画家さんが手伝ってくれるのだから、面白い原作を書かないと失礼と言うか……。少なくとも自分のできる限りのことをやらないと失礼じゃないですか。だから、その瞬間、遊びじゃなくなったというか(笑)。遊びでもあるんですけど、面白おかしくやるだけっていうよりは。ある程度のクオリティを維持しなくちゃいけないなって。
――絵本や小説など、他の作品作りと同じ感覚ですか?
あさの そうですそうです。それこそ、前回の取材でもお話しましたけど、4コマ漫画を読み漁るところから始めました(笑)。
――そして、『あずまんが大王』のあずまきよひこさんにも教えを請うた、と(笑)。ところで、畑さんがデビュー前にも、同人活動をしていた事はファンの間ではよく知られている話だと思うのですが。先ほどのお話を伺う限り、当時の同人活動と、今の同人活動では、畑さんの中での意味合いは全く違っているわけですね。
畑 あの時の同人誌とは、だいぶ意味合いが違いますね。そもそも、最初に同人誌を出したきっかけって、友達に対するドッキリだったんですよ。
――え? どういうことですか?
畑 僕には同じ年のK君という友達がいまして。彼は13歳くらいから、ずっとコミケで同人誌を出していたんですね。でも、「いつかオフセット本(印刷所で印刷された本)を作る」と言いながら、毎回、3日くらいで作ったコピー誌しか出してなくて。だから、K君に内緒で僕がオフセット本を作り、コミケで出してたら、ビックリするだろうと(笑)。
――そんな動機だったんですか(笑)。
畑 はい(笑)。でも、その同人誌が思いの外、売れたんですよ。それで、自分の漫画をこんなにも買ってくれる人がいるんだと思って、しばらく同人活動を続けていたんです。

●双葉は僕の中には無いキャラ

――では、一緒に漫画を作ると決まってからは、どのような流れで制作を?
あさの 最初に、私が4コマのことを勉強しつつ。何となくこんな感じですっていう4コマのラフみたいな物(ネーム)を描いて。上手く描けない所は、お電話やメールで直接説明しました。それで、色々と困難なことがあるんだけど、最終的には前向きな形で終わる話にしたいっていう、ざっくりとした計画を話して。逆に、畑先生から、「声優さんってこういう時、どうするんですか?」とか質問をされて。
畑 そうですね。
あさの お互いが編集者みたいな形で、相手からアイデアを引き出し合うというか。私は、畑先生から、「声優ファンの人は、どういう話を読みたいと思いますか?」って聞いたりして。私は自分が声優なので、みんなの読みたいものが分からない部分もあって。逆に、畑先生とお話していて、「あ、そこは誤解してるんだ」って事があれば、それをお話に入れたり。二人で話をしながら、段々と物語を大きくしていったような感じです。
畑 あさのさんは、けっこう他の声優さんにも取材をされてるんですよ。それぞれのネタに実際のモデルがいたりするから、面白い。例えば、(萌咲)いちごのツインテールのネタ(1巻P17の「プロの技」)も、実際にそういう人がいたらしいんですよね。
あさの はい。そのネタは、私が実際の現場を見て、これ面白いから4コマにしようって思ったんです(笑)。
――メインキャラの3人、一ノ瀬双葉、萌咲いちご、小花鈴の設定も、あさのさんの方で作ったのですか?
あさの はい。声優って、いろんなタイプの声優がいるんですけど。その中で、読者にとってもキャッチーで、3人一緒にいても相性が良いキャラクターって何だろうと考えました。1人はアイドル声優になりたくて、フリフリの衣装が大好きだったり。1人は子役出身で現役の学生で、みたいな感じに。そういう、まったく違う方向に向かってる3人が、頑張って声優として成長していく話にしたかったんです。
――畑さんは、あさのさんの生み出したキャラクターを描く際、意識したことはありますか?
畑 あさのさんが描いてくれたものを、あまりいじらないようにしようと思っています。あさのさんのネームを読んでいると、僕の中からは出て来ない台詞だなと思う事が、実はけっこうあって。そのあたりが面白いですね。
あさの え、そうなんですか?
畑 新鮮な感覚がありますよ。
――3人の中で、特に描くのが難しかったりするのは?
畑 主人公の双葉ちゃんは、完全に僕の中には無いキャラですよね。
あさの へえ〜。
――それは、ビジュアル的に? 性格的に?
畑 両方ですね。いちごちゃんと、鈴ちゃんは、まあ重なる部分もあるかな、と思うんですが。双葉は、僕の中からは出てこないキャラ。だから、難しいと言うよりも、描いてて面白いなと思いました。
――一番、普通の女の子なキャラクターなので、意外です。3人の中では、やっぱり、あさのさんに一番近いキャラクターは、双葉なんでしょうか?
あさの そうですかねえ……。
――僕は、あさのさん自身の体験や気持ちをそのまま描きやすいのが双葉で、他の声優さんから取材したネタを描きやすいのがいちごや鈴、というイメージで読んでました。
あさの 確かに双葉のキャラクターは、鈴ちゃんやいちごちゃんに比べると、私の成分がたくさん入っているかも。でも、それは私だけではなくて。多くの声優が、自分のことを双葉だと感じると思うんですね。
――そうなんですか?
あさの 3人の中でも、双葉は一番失敗ばかりで悲しい経験もしている。でも、失敗や悲しい事は、声優なら誰もが体験することなんです。だから、どんなタイプの声優の子に見せても、双葉は、自分に重なるところがあるキャラクターだと思います。
(丸本大輔)

(後編に続く)