『女子攻兵』2 松本次郎/新潮社
巨大女子高生たちが、殴る、切り裂く、撃ち尽くす! 操縦しているのはおっさんだけどね! 巨大女子高生型兵器『女子攻兵』に乗った男たちが、妄想と現実の混沌に巻き込まれていく狂気が恐ろしいマンガだ。

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今年の11月に劇場版ヱヴァQが公開になりますね。いやー楽しみ! 待ってましたよ! アスカ大好き!
さてエヴァンゲリオンは搭乗する機体が、映画版になって寸胴体型というか、「かっこいい」から「人間臭い」に変化しました。
TV版を見ている人ならご存知の通り、エヴァはロボットではないからです。
人間を模したものに乗る人間。この設定は90年代に強烈なパンチを食らわせてくれました。

松本次郎の『女子攻兵』は、人間に乗る、という感覚を引き継いで、更に特化した不思議な作品です。
あっ、先に言っておきますね!
女子高生がかわいくて大好き、って人は読むと危ない。
言いましたからね、言っておきましたからね。
ここから先精神汚染されてもしりませんからね。

『女子攻兵』は、巨大な女子高生型の兵器に男たちが乗って戦う、戦争漫画です。
エヴァを女子高生にすればイメージが湧くと思います。
でもなんで女子高生型なの!? どうして制服着て、細部まで若い女の子型なの!?
これが全然わからない。というかその謎自体は二の次なんですよ。
現実的に言えば戦車なわけです。アニメ的にはエヴァやガンダムなんです。
頭にコックピットがあって、ガコーンと開けばそこに男たちが乗っているわけですよ。
となれば、いくら女子高生型とはいえ、ソルジャーとして戦うはずじゃないですか。

ところが違うんだ。
女子攻兵はまるで本物の女子高生のようにキャッキャとおしゃべりしたりケータイいじったりしてるんですよ。
戦場のどまんなかでも、彼氏からのメールを気にしたり、おそろいのストラップ自慢したり、アップルシナモンケーキ食べたりしてるんです。
やってること、まんま女子高生なんですよ。
サイズは当然攻兵なので巨大。立ち上がるとビルサイズの彼女たち……あ、ちがう、彼らの乗っている女子攻兵たち。
ってことはだ。
「ママからだー! もしもしユミだよー」とか「超うける!」とかしゃべっているのはおっさんたち?
いくら女子攻兵に乗っているからといっても、いつ死ぬかわからないような戦場で、女子高生姿でケータイでキャピキャピままごとしているわけ?

実はこのマンガ、戦争アクションものであると同時に、サイコホラーものでもあります。
女子攻兵に乗り続けていると精神汚染されてしまうんです。乗っているのがどんな屈強な男たちであろうとも。
主人公はタキガワという男性なんですが、彼はかろうじて自我を保っており、女子攻兵乗りとして指揮を取っています。
しかし彼の部隊の仲間たちがだんだん、女子攻兵に乗っている状態で女子高生的な行動を取り始めて困惑します。
彼らもまだかろうじて汚染されてはいないので、会話も通じるし作戦も立てられます。ちゃんと戦士しているんです。
しかしかかってくるはずのないケータイで話をしたり、ままごとなのか本気なのかわからない行動を軍事行動中に取り始めるとそりゃ焦りますよ。
「まだだ……俺はまだ感染してないぞ。俺はまだ愚かな人間じゃない……はずだ」

女子攻兵自体が実は異次元兵器。普通の銃弾では破壊できません。
言うなれば、戦争では無敵を誇る凶悪な兵器です。そりゃそうよね、戦車で撃とうがなにしようがきかないんだもの。
倒すには、女子攻兵が直接攻撃するか、次元弾という特殊武器を撃ち込まないといけない。
だからこそ大量投入されるのですが、そのリスクが精神汚染なんです。

この漫画の大半は、女子攻兵がママゴトのように女子高生ライフ的な言動で戦場を駆け回る様子で成り立っています。
女子攻兵は普通に同サイズの椅子に座ったりトイレに行ったり、挙句の果てには鍋までやるので、一瞬これスケールそのまんまじゃないかとすら勘違いさせられそうになります。違うよ、でかいよ。
これは女子攻兵に乗っている人間が幻覚を見ているような光景。
一方女子攻兵を降りた人間目線から見たシーンはそれはもう凄惨極まりないものです。
気がふれてしまった女子攻兵乗りの絶叫、生体兵器なので傷つくと内臓や肉片をまき散らしてしまう女子攻兵のメンテナンス、完全に精神汚染され女子攻兵から降りてこないやつらがゾンビのように女子高生ごっこを続ける様、脱糞に放尿に嘔吐。
戦場ですから一般人も軍人もグッチャグッチャと死にます。臭いそうな死体の山を越えながら、ケータイで笑って知らない誰かとおしゃべりする女子攻兵。
タキガワは狂気と現実の両方を見て、精神汚染された女子攻兵を倒すことで自分の精神を保ち続けます。
俺は狂っていない、俺はまだ正常なんだ。

タキガワの元にツキコという謎の人物からメールが来ることで物語は幕を開けます。
そもそも女子攻兵に標準装備されている巨大ケータイがわけわからないんですよ。誰からも電話やメールが届くはずがないのに持ってるなんて、かえって気が狂うじゃないか……。
でももし本当の女子高生だったらなんていう?こんな時なんて答える?
「どーでもよくね」
だよね。
タキガワの乗る機体は「ラヴ・フォックス」。しかしメールを送ってくる謎の人物は「キリコ」と呼びます。
そもそもこのメール自体実在しているものなのか? 幻覚なのか?
でもキリコという女子高生を演じていれば、ツキコは戦いに有利な情報を教えてくれる。女子高生を演じさえすれば……狂ってない、俺は狂ってないぞ。

鳴らなかったはずなのに鳴り始めるケータイ。
軍事作戦中なのに女子高生のようなママゴトを始めだす仲間たち。
なぜか始まる女子攻兵の生理。
どこまでが妄想で、どこまでが現実か、どんどんわからなくなっていきます。
とうのタキガワは、一切顔が出ません。あくまでも彼の今の顔は、女子攻兵「キリコ」。

松本次郎という作家は、思い込みによる妄想と現実の混沌を、意味有りげなのか意味が無いのかはっきりさせずにざっくり描く作家。
ところどころコメディタッチなコマも交えることで、「これはなぜ?」という論理をあっさり超えてしまいます。
女子攻兵の存在自体細かい設定等まーったくわからないんですが、いいんですよそれで。
ただし現実を描くところでは容赦ありません。狂った男たちの惨状は見られたものじゃないです。
ぐちゃぐちゃに破壊された女子攻兵の残骸は、非常にフェティッシュに描かれています。
はみ出した内臓や骨(のようなもの)、もぎとられた腕や脚、とびちった目玉。「これは女子攻兵だから」と楽しむんでいるかのごとく、これでもかとぶっ壊します。痛くないし治るし、いいよね!
ああ、この感覚。「女子高生」というの幻想をそのまま持ってきたかのようで、なんだか妙に気持ちいいぞ。
以前も21歳で女子高生をエンジョイしようと躍起になる女性を描いたマンガを紹介しましたが、やはり「女子高生」幻想ってあるんです。中身が本当に文字通りおっさん、ってあたりがなんとも皮肉めいてますが。

この漫画の一番こわいところは、女子攻兵乗りの惨状を見ているにもかかわらず、女子攻兵に乗ってみたいと思ってしまうことです。
見方をかえれば、女の子の姿になって一体化して、キャピキャピしながら人をゲームのように殺戮しまくれるという夢の様なマンガなんです。
いやあ、おっかないね。現実と妄想を往復しているうちに、読者自身が女子攻兵乗りみたいに廃人になるんじゃないのこのマンガ。

松本次郎『女子攻兵』1巻
松本次郎『女子攻兵』2巻

(たまごまご)