「ゾンビ・ヘッズ 死にぞこないの青い春」2012年4月14日からシアターN渋谷、5月中旬以降から第七藝術劇場にて公開。監督: ドルー・T・ビアス, ブレッド・ビアス。2011年、アメリカ。(C) 2011 FroBro Films, All Rights Reserved

写真拡大

4/14(土)から公開中の「ゾンビ・ヘッズ 死にぞこないの青い春」(予告編)はタイトルから分かるようにゾンビが出ては来るけど、ホラーでもアクションでもない。アメリカでは「Rom Zom Com」(ロマンス・ゾンビ・コメディの略)と呼ばれている、ゾンビが出てくるラブコメなのだ。ちなみにポスターの中央で一番大きく映っている金髪ではなく、右側で「うひょー」といってるメガネをかけたゾンビが主役だ。

メガネのマイクと金髪のブレントは”半分ゾンビ”。顔は青白くて肌はボロボロで銃で撃たれても死ななくて、外見はどう見てもゾンビなんだけど人間の記憶と知性を持っている。だから性格も生前と変わらない。マイクはマジメで恋人一筋。結婚指輪まで買っていたのにプロポーズできないままにゾンビになってしまったことを後悔している。だけど口下手で引っ込み思案でもあるので、愛してるけど俺ゾンビだし会いに行っても彼女が迷惑するし、とくよくよ悩む。一方で相棒のブレントは「これは第二の人生だぞ!」と脳天気。「行動するものだけが勝利する!」(まさにゾンビのためにあるようなスローガン!)と励まして、マイクに恋人を探す旅を決意させる。

とはいえ見た目はゾンビ。世間の目は冷たい。ゾンビを研究する組織からは追っ手を差し向けられるし、店に入っても「なんかの病気?」と眉をひそめられる(ブレントは「ゴムなしでセックスしたからな 君は気をつけろ」と切り返す)。だから旅の仲間は変人ばかり。細かいことを気にしないベトナム帰還兵の老人クリフ(下ネタ大好き)と、記憶も知性も無い普通ゾンビのチーズ(ホラー映画が苦手)だ。生きていたらきっと接点は無かったに違いない。でも死んでゾンビになって出会えたことで、マイクは変わっていく。口下手だからプロポーズの言葉は手帳に書いてるんだ、とクリフに打ち明けて「口で伝えるんだ」とアドバイスされたり、最初はバカな人食いゾンビと思っていたチーズが少しずつ物事を覚えて危ないときに助けてくれるのを見て、少しずつ前向きになって彼女に思いを伝える意思を固めていく。死んでも治らなかった引っ込み思案が、ゾンビになって治る。ゾンビだって成長できるのだ!

ロマンス部分だけじゃなくてコメディ部分だってすばらしい。特に楽しいのがゾンビ映画のパロディで、ゾンビに囲まれて建物に閉じ込められるというおなじみのシーンでは、人間の中に紛れ込んでしまったマイクとブレントがゾンビとバレると殺されるので必死で人間の振りをしてバリケードを作るし、窓を破られてゾンビに引きずり出されるお約束のシーンでも、二人はゾンビだから食べられることもなく「これちがう…」「これちがう…」とバケツリレーみたいに運ばれて、外にペッと捨てられてしまう。一番好きなのは、組織の追っ手に撃たれても撃たれても何とか彼女の元に辿り着こうとマイクが無様に這いずるシーン。これは銃で足を吹き飛ばしても這いずりながら近づいてくる、ゾンビのおぞましさを描くシーンのパロディなのだ。何を考えてるか分からないゾンビだとおぞましいけれど、彼女への愛から這いずっているマイクならひたむきで美しい。ロマンスとゾンビとコメディが融合した名シーンだと思う。

もし「ショーン・オブ・ザ・デッド」を思い出した人がいたら、この映画はぜひ劇場で観てほしい。もともと「Rom Zom Com」は「ショーン・オブ・ザ・デッド」が劇場公開されたときのキャッチコピーで、映画がおもしろかったため海外のファンの間でゾンビが出てくるラブコメを手早く説明するときの用語になった。「ショーン〜」では無気力な人間をゾンビと同列に置いておちょくりつつ、気力を取り戻して恋人や家族を守ろうと成長していく主人公をほがらかに描いた。「ゾンビ・ヘッズ」も似ている。主人公はゾンビだけど、旅を通じて自分が信じる道を進む覚悟を固めていく。人間とゾンビの間にそんなに大きな差なんてありゃしないよ、というシニカルなユーモアの向こうに、自分で決めた何かに向かって歩いているなら何回死んだって人間だし、何も選び取れないのなら生きていたってゾンビなんだ、という熱い思いが隠れている。ゾンビ映画でもないと、こういうのは素直に観れないんだよなあ。(tk_zombie)