「アポロ18」2011年 アメリカ映画 上映時間87分。2012年4月14日より渋谷TOEI他でロードショー公開。

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夏の定番の遊びのひとつに「キモだめし」がある。夜、ヒト気のない場所に出掛けていって、目印の品をとってもどってくる、というお馴染みのあれ。
ここで重要なのは「ヒト気のない場所」という部分だ。そりゃそうだ。ふつーにひとがたくさんいるところへ行ったって、キモだめしになんかなりゃしない。

夜の公園は薄気味わるい。
でも、飲み会帰りの酔っぱらいが通りかかるかもしれない。

夜の公園よりも、夜中のトンネルのほうが恐ろしげだ。
でも、深夜にジョギングしているランナーが通りかかるかもしれない。

夜中のトンネルよりも、深夜の墓場のほうが不気味に感じる。
でも、刺激を求めたカップルが潜んでいるかもしれない。

深夜の墓場よりも、廃病院のほうが背筋は凍りつく。
でも、地元の不良少年がたむろしているかもしれない……。

こうしてひとは、キモだめしを最高に楽しむ(怖がる)ために、可能なかぎり寂しげな場所を求めていく。ヒト気がなければないほど、何かが出たときのギャップが大きく、恐怖感もまた大きい。そして、ホラー映画の舞台も同じような理由によって選定されている。

では、人類が行くことのできる場所のうち、もっともヒト気のないところはどこかといえば、それはなんといっても「月面」だ。なにしろ地球上じゃないんだから。そりゃ誰もいないに決まってるよな。

でも、そんな月面で何者かの気配を感じてしまったら? 「アポロ18」はそんな映画だ。

1969年7月20日、米国はアポロ11号で人類初の月面着陸に成功した。それから3年にわたって有人宇宙飛行計画を続けてきたが、1972年12月のアポロ17号による月面着陸を最後に、NASAはアポロ計画の中止を発表した。以後、人類は月へ行っていない。

順調に進んでいたはずの宇宙開発が、なぜ急に中止されることになったのか。その理由は長いあいだ封印されていたが、この度、それが解き明かされることになった。なんと、非公式にアポロ18号が打ち上げられており、着陸船とその乗組員によって行なわれた月面探査活動の一部始終が、フィルムに残されていたのだ。

そのフィルムには、信じがたいものが写っていた。誰もいないはずの月面なのに──。

モキュメンタリーという映画の手法がある。事実をフィルムに収めることを「ドキュメンタリー」と呼ぶのに対して、ニセモノを意味する「モック(mock)」という言葉を合成した「ドキュメンタリー風のフィクション」のことだ。
モキュメンタリー映画として有名な作品に『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』というのがある。
映画の撮影で森へ入った三人の大学生が消息を絶ち、1年後に発見されたビデオを編集して映画化したもの、というスタイルが受けて世界的な大ヒットを記録した。

で、この「アポロ18」はようするに月面で「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」をやっている映画、というわけだ。ここですでに、見たいひとはチョー見たくなっているに違いない。映画なら「月に囚われた男」や「イベント・ホライゾン」が、漫画なら山田芳裕『度胸星』が好きというひとにはたまらないはず。
(とみさわ昭仁)