『電波教師』東毅/小学館
やりたいことしかしない筋金入りのオタク引きこもりが、先生に。でも熱血じゃないし適当だ! ただし、この教師「面白い」。「電波教師」は常識をひっくり返す授業で、生徒の個性を引き出す痛快作品。さあつくろう、おもしろい日本

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昔はね。
熱血で力強くて生徒のために涙を流して突進してくれる頼れる先生像がかっこよかったわけですよ。
でも今はね。
ぶっちゃけ暑苦しいかもしれないですね。アチャー。
時代が変わったといえばそうなのかもしれませんが、それが残念とか哀しいとかじゃなくてね。
もちろん今でも「鈴木先生」のような熱血漢(実質ちょっとズレてるところありますが)は見ていて楽しいものですが、スクールウォーズや金八先生ばかりが理想的、とはいえない、そんな時代。
先生は大変だね。

『電波教師』は、真面目で熱血な先生像を全部ぶっ壊したところからはじまっています。
主人公の教師鑑純一郎は、筋金入りのオタク。実は科学の天才なのですが、今は家に引きこもってアニメブログを更新するのが趣味。部屋の中はフィギュアだらけ、仕事は一切しないという、家族からしたら困ったちゃんです。実際妹は「そんなオタクサイト更新しているヒマあったら働け」と言い放ちます。
まあね、うん。サイト更新が悪いんじゃなくて、働かないのは困るよね。
しかし彼は言います。
「妹よ、あには『YD』という病のせいで働けないのだ。『やりたいことしか(Y)できない(D)病』という恐ろしい不治の病で……」
知らんがな!
 
そんな彼が教員になって、当然やる気など起きるわけもなく。真面目に働かないわけですよ。
しかし彼の『YD』は逆をかえせば「やりたいことならなんでもやる」というわけです。
彼は「先生」の仕事はしようとしません。やりたくないから。めんどくさいから。
でも「おもしろいこと」ならやるんです、徹底的に。とことんまで。
そんな「おもしろいこと」に夢中な人間、がクラスにやってきたらどうですか。生徒としては、惹かれるじゃないですか。
まあ、頼りないなーという部分はあります。間違いなくあるんですが同時に自分の信念(それが変なことでも)を貫いている強さは頼れる強さすら感じさせます。
実際、頼らないんですけどね。頼っても何かしてくれるわけじゃないですから。
けれども先生にあたる人間が楽しそうに人生を謳歌している様子を魅せるのは、生徒の刺激になります。

と、こう書くと「ごくせん」や「GTO」を思い浮かべる人も多いと思います。路線は間違いなくそちらです。
ただどこが違うかといえば、教育の場にオタク行為を持ち込むことです。
それでもまだ普通というか、よくありそうですよね。アニメ・マンガは今文化として教科書や教材に使われる時代です。
違う違う。もっともっと……そうだなあ……誤解を恐れず言えば「下に見られているもの」を引っ張り出して題材にします。
たとえばケータイのソーシャルゲーム。
たとえばメイド喫茶。
よく知っている人からしたらこれも今の文化の一つなんですが、人によっては「○○なんて」と言われるものです。
これを純一郎は徹底的に使います。
実際それを快く思わない人もいますが、逆転の発想です。
確かにかけている部分はある。あるけれどもそこを補うのは自由な発想だ、想像する力だ、と。
振り回されること無く、「○○なんて」と呼ばれるものを大切に愛し、想像力で肯定していくのです。
その力強さたるや! いやまあ、やってるのはケータイゲーなんですけども。
先生の元に集まる生徒を見て、ヒロインの一人はこう言います。
「別に皆、ゲームがおもしろいから先生と話してるわけじゃない。先生がおもしろいから、ゲームの話をしてるのよ」
おもしろい人間。
学校はどうすればそうなるか教えてくれない。純一郎だって教えない。めんどくさいから。
けれども身を持って「面白いこと」を体現しているから生徒たちは惹かれるんです。

ところで、ソーシャルゲームにしてもメイド喫茶にしても、限界があります。
ルールの中にいる限り、必ず限界はあります。
はい、ここで「仕方ないですね」と言いますか?
仕方ない。
だがそこをぶち破って「自分だけのルール」を作る、そして現実に自分のルールを認めさせる。
ルールを守るよりはるかに大変なことです。けれども……絶対やりがいがあって面白い。飽きない。

教育論の物語ではないです。「おもしろい人間」になることとはなんなのかがテーマの作品です。
オタクネタ自体はかなり濃い目で、わかればわかるほど面白いとは思いますが、わからなくても十分楽しめるはず。
時に詭弁めいた言説もありますが、それすらも力づくで納得させる爽快感に満ちています。

ぼくが個人的にこの作品に教えてもらったことは、そうだなあ。
オタク趣味だって貫けば生きる証になるぜ! あとは自分次第だ!ってことかな。
貫くだけじゃだめ、そこから「おもしろい」ことを探さないといけない。
これ、流されるより大変かもね。

電波教師 1 (少年サンデーコミックス)

(たまごまご)