(写真上から)TBSラジオ「エキサイトベースボール」初田啓介アナウンサー、文化放送「ライオンズナイター」斉藤一美アナウンサー、ニッポン放送「ショウアップナイター」山内宏明アナウンサー。
横浜スタジアム・ニッポン放送実況ブースにて実施したラジオ実況アナウンサー座談会。2012年のプロ野球について熱く語っていただきました。

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TBSラジオ・初田啓介アナ、文化放送・斉藤一美アナ、ニッポン放送・山内宏明アナによる、2012年プロ野球・ラジオ実況アナウンサー座談会。最終回では豪快な解説陣エピソードも含め、ラジオナイターの楽しみ方を存分に語っていただきます。
(part1、part2、part3はこちらから)


【文化放送だと東尾修さん。TBSだと元木大介さん】
初田 僕らアナウンサーが資料を作るのは当たり前ですけど、解説の方によってはアナウンサー以上に細かくメモをつけたり、資料を書いている方がいらっしゃるんですよ。TBSだと有藤通世さんがそうです。

斉藤 文化放送だと山崎裕之さんです。有藤さんと山崎さん、どちらもロッテですね。でも有藤さんってそうなんだ、雰囲気ないなぁ。

初田 有藤さんは緻密ですよー。チャート表つけたりしてますから。「第一打席はどこに投げた。過去こういう攻めをしているから、次はこうだろう」というお話をしてくれるので、すごくやりやすいです。

山内 逆の人もいますよね。誰とは言わないですけど。

斉藤 言いましょうよ! 文化放送だと東尾修さん。

初田 TBSだと元木大介さんです。

斉藤 わかる!(笑)

初田 でも、全部憶えてるんですよ。

山内 そうなんですよね。そういう人ほど、第一打席の何球目に何を打ったか、全部憶えてる。「えぇっ!?」って驚いて気を取られて、実況が進まない時がある(笑)

初田 どっちのタイプもスゴいんですよ。衣笠祥雄さんも田淵幸一さんも細かく資料つけてましたし、毎朝全球団の試合内容をチェックしてるって言ってました。だからやっぱり詳しいですよね。毎日現場に見に行ける訳じゃないけど、久々の中継であっても「この選手は最近どんな成績か」というのがちゃんとわかった状態でお話になるから、やっぱり説得力がありますよね。


【感覚の清原解説。理論の工藤解説】
斉藤 僕は昨年、清原和博さんとよく組んで実況させていただいたんですが、その時にたまげたことがありまして。西武ドームでの試合で、阿部真宏選手が出たんですよ。僕が「阿部真宏はオリックスから移籍してきて云々」としゃべっていたら清原さんポカーンとした顔されて。どうしたんですか?と聞いたら、「阿部ってオリックスにいた阿部ですか?」「いつの間にライオンズ来たんですか?」って……もう来てから2年経ってるんですよ! 「ご存じなかったですか?」って聞いたら「阿部にはオリックス時代すごく世話になったんですよー」と言い出して。

初田 まさかここで阿部に会うとは、と。

斉藤 それだけ、試合前のグラウンドにも降りてない証拠なんですけど……まあ、それは時間の都合とかもあるでしょうからいいんですけど(笑)。清原さん曰く、自分がいろんな気持ちを抱えてオリックスに移籍した時に「清原さん、わからないことあったら僕になんでも聞いてください」と言って、とても優しくしてくれたと。それなのに、「ライオンズにいましたかー」と移籍後2年目に(笑)

初田 それ、放送中に?

斉藤 放送中です。他にも、別な試合で中村剛也が満塁ホームランを打った時に、ベースを一周して僕が「ホームインっ」と実況してる隣で、清原さんが笑顔で手を振ってるんですよ。客席で誰か知り合いがいて目があったのかな? と思って「清原さん、誰に手を振ってるんですか?」って聞いたら、「あ、おかわり君に手を振ってるんです」と言ったんです。「おかわり君って、今ホームランを打った中村選手ですか? こっち見てないですよね」って一応確認したら、「見てないですよ。手を振りたくなったから振ってるんです」と。4番が満塁で、最高の場面でホームランを打ってくれて、すごく嬉しくなって手を振っちゃたそうで……とことん野球少年ですよね、清原さんは。

山内 感覚として気づくところが違いますよね。

斉藤 違うんです。ダルビッシュと涌井の投げ合いを去年の開幕戦で中継したんです。涌井はシュートを投げるし、ダルビッシュはツーシームを投げる。ツーシームとシュートって、右ピッチャーだと同じような変化をしますよね。だから清原さんに「見分け方はどこになりますか?」と質問したら、「シュートは見えないけど、ツーシームだと縫い目が見えるんです」と、すごく感覚的な答えが返ってきて。清原レベルだと縫い目が見えるのか!と。

初田 シュートだと横にブレちゃうから縫い目がつぶれるけど、ツーシームは回転せずに来るから縫い目が見えるんですかね。

斉藤 そうなんです。後日、その話を松井稼頭央選手に聞いたら「僕もその感覚はわかります」と言って解説してくれたんですが、シュートは基本的にストレートと同じ投げ方で握る位置を変えてるから勝手にシュートする。一方のツーシームは縫い目の関係で空気抵抗が生まれるようなストレートの投げ方になる。「空気抵抗で遅くなる分、清原さんはツーシームで縫い目が見えるんでしょうね」と説明してくれて、僕はようやくツーシームとシュートの違いが明確にわかりました。でも、清原さんのその「縫い目が見える」という解説がなければ、僕はその話を松井稼頭央とすることは出来なかったんです。感覚的なのに、理論のさらに深い所への入り口を彼は与えてくれる。すごい解説でしたね。

初田 おもしろいなぁ。

斉藤 清原さんとは対称的に、理論派なのが工藤公康さん。ライオンズに長田秀一郎という投手がいるんですが、一昨年活躍したんですが去年は今ひとつだったんです。そうしたら「長田君は去年50試合以上投げてますね。若い選手ならいいですけど、長田君のような10年近くやっている投手が50試合以上投げた場合、しっかりとしたリハビリやオーバーホールを早めに始めないと絶対に回復しないんです」とおっしゃって。右投手なら、左から右にひねる動きを繰り返しているから、内臓が絶対そっちのほうにねじれてるって言うんですよ。「年を取れば取るほど筋肉の回復よりも内臓の回復が遅いから、相当気をつけてオーバーホールしないとダメなんです」と、そんな解説をするんです。

初田 内臓のオーバーホールってどうやるんですか?

斉藤 ファスティング、断食です。それで内臓を休めないといけない。メジャーリーガーはそれをやっているそうです。工藤さんは本当に体オタクなんで、体の構造からなにから全部解説に放り込んでくるんですよ。こっちは野球のことで手一杯なのに「ためしてガッテン」みたいなことをいっぱい言われて。勉強にはなるし面白いんですけど、もうホントに工藤さんとやる時は脳みそが疲れる!

初田 現役の時も、鹿島アントラーズにいた秋田豊さんと一緒に自主トレしてたじゃないですか。奥さんが鹿嶋市出身だからかと思っていたら、「サッカーの動きは足の筋肉を左右に使う。野球は前後ばかりで自分も左右が弱いから、サッカーの動きを取り入れる必要がある」という理由だったんですよね。

山内 だからあの年齢まで続けられたんですね。


【禍福はあざなえる縄のごとし】
初田 達川さんの解説エピソードも聞きたいですね。

山内 達川さんと言えば“ことわざ・格言”です。まあ次から次と色んな言葉が出るわ出るわ。実はイニングの間に「次はこういう話題にしよう」と言われているにもかかわらず、僕にはまったくわからない言葉ばっかり出てくるんですよ。

斉藤 僕は「プロ野球ニュース」で聞いたんですけど、達川さん、「禍福はあざなえる縄のごとし」ってよく言いませんか?

山内 言いますね。

斉藤 僕はその言葉、達川さんから初めて知ったんです。そこで辞書て調べて「災いと福とは縄を寄り合わせたように入れかわり変転する」……はぁ、なるほど! と。勉強になります。

山内 そのとき助かったのが、東大出身のディレクターが隣にいたんで全部説明してくれたんですよ。

斉藤 いいなぁ、ニッポン放送。でも達川さんって、そういうことを言いそうにないから逆に心に残るというか。

山内 そうなんですよ。でも、意味を知ると、ちゃんとその場に即している言葉なんですよね。いつも鞄に辞書を忍ばせているんですが、その場で辞書を調べたりとか強引に結びつけたりとかでもないので、引き出しがちゃんとあるんです。でも、放送を通して「はじめて知る言葉がある」っていうのも、いいことですよね。人生ベテランの方々には、突き刺さる中継になるんじゃないかなと思います。


【ラジオナイター2012 今夜からON AIR!】
─── では最後に、今夜からいよいよ始まるプロ野球中継に関して、各局の聴きどころ、リスナーへのメッセージをお願いします。

初田 では、周波数が少ない順番で。TBSラジオ「エキサイトベースボール」は今年、栗山さんが現場復帰されて解説者が一人減ってしまった訳ですが、ベテランの衣笠さんをはじめ経験豊富な解説者の皆さんと、野球が大好きな実況アナウンサーとで、一球一球を大事にしゃべるというコンセンサスが取れています。時に脱線して寄り道に逸れてしまうことで、たまに一球見失っちゃうことなんかもあるわけですけど(笑)、それはご容赦いただいて。とにかく、一番臨場感のある中継をしていこうと考えていますので、公式ツイッター「エキベー」ともども、ひとつよろしくお願いします。

斉藤 文化放送「ライオンズナイター」は、今年も“パ・リーグのど真ん中”に居座ります! 土日にはセ・リーグの中継もやっていますが、割合で言うとやっぱりライオンズ。このスタイルで始めて31年目という伝統と信頼を守るべく、ライオンズファンを悲しませないようにしっかりとライオンズびいきをさせていただいて、その上で相手を腐さないように。とにかく一投一打、一挙手一投足に感激して、泣き笑いしながらパ・リーグへの愛情を全面に出した中継ができればと思っています。また、公式ツイッターでもライオンズのベンチサイドから見た風景や情報をつぶやいていますので、そちらもよろしくお願いします。

山内 ニッポン放送「ショウアップナイター」は、“まいにち とことん プロ野球!”と題して、一試合一試合、一球一球迫力のある描写でファンを飽きさせない中継を、12球団全ての話題・情報を織り込みながら野球を愛している方々が満足していただけるような中継を目指していますので、よろしくお願いします。公式ツイッターではニッポン放送のアナウンサーやディレクターが様々なところから随時ツイートして行きますので、そちらの方も楽しみにしていただければと思います。

(オグマナオト)