(写真左から)TBSラジオ「エキサイトベースボール」初田啓介アナウンサー、文化放送「ライオンズナイター」斉藤一美アナウンサー、ニッポン放送「ショウアップナイター」山内宏明アナウンサー。
横浜スタジアム・ニッポン放送実況ブースにて実施したラジオ実況アナウンサー座談会。2012年のプロ野球について熱く語っていただきました。

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球春到来! いよいよ今週30日(金)、プロ野球セ・パ両リーグが同時開幕します。
選手の移籍に新監督、セでも予告先発導入…etc.と何かと話題の多い今年のプロ野球を誰よりも近い場所で目撃し、多くの人に伝えてくれるのがラジオの実況アナウンサーです。そこでエキレビ!では、いよいよ30日から開幕するプロ野球をより楽しむために、TBSラジオ・初田啓介アナ、文化放送・斉藤一美アナ、ニッポン放送・山内宏明アナによる、2012年プロ野球・ラジオ実況アナウンサー座談会を実施。全4回に渡って、野球中継の魅力と今年のプロ野球の見どころを語っていただきます。まずは、実況アナウンサーならではの苦労やエピソードについて、ニッポン放送・山内アナのある「自慢」からスタートです。


【スクイズとランダウンプレーをキチンと描写できるかどうか】
山内 僕、隠し球の実況をしたことがあるんですよ。コレ、自慢なんです。

斉藤 ということは、ボールのありかがどこかわかっていた?

山内 いや、ボールの所在はわからなかったんですが、何か雰囲気が変だったんですよ。二遊間がサササッと動いて、これはひょっとしたら……と。

斉藤 実況アナウンサーって手元の資料を見たり解説者に話を聞くために横を向いたりするから、結構目の前のプレーから目を切るじゃないですか。それでも隠し球に気づいたというのは本当にスゴいことですね。

山内 あの時、解説が達川光男さんだったんですけど、達川さんのしゃべりを遮りましたね。「隠し球だぁーっ!」と。確信があったわけじゃなく、イチかバチかだったんですけど。

初田 達川さんのお話聞いてなかったでしょ。あ、ネタが始まったなと(笑)

斉藤 ちょっとでも聞いていたら少しは顔を横に向けますもんね。聞いたことある話が来たから馬耳東風だなぁと思ってた可能性が(笑)。でもそれも、初コンビだったら無理だと思うんです。何回もコンビを組んでいる達川さん相手だから大丈夫だったんでしょうね。

初田 ありますよね。これは長めの話になりそうだなっていう時に水を飲ませてもらったり、調べものさせてもらったりとかね。

斉藤 調べものはやらない! 「こいつ聞いてない」って思われちゃう(笑)

初田 でもラジオアナウンサーで誰か、今年の目標を「隠し球の実況」にしてる人いましたよ。

山内 僕の目標はランニングホームランの実況です。

初田 ランニングホームランはそういう場面に出会えるかどうか、という“運”じゃないですか。でも隠し球を実況できるかどうかっていうのは“集中力”と“注意力”ですから。「アレ?おかしいぞ」というのを察知できるかどうか。だから、注意力を持ってしゃべりたいから「隠し球の実況をしたい」という目標を掲げるのはわかる気がします。でも大事なのはやっぱり、スクイズをちゃんと予知できるかどうか。全くスクイズと関係のない話をしていて、突然「あーっ、スクイズ!」ってやっちゃうのが、実況アナウンサーとしては残念な時ですよね(笑)

斉藤 スクイズとランダウンプレーをキチンと描写できるかどうかというのは、実はラジオの実況アナウンサーの究極に近い目標のひとつですよね。

初田 スクイズはちゃんと読めないとね。一番嬉しいのは、解説者に「この場面、スクイズありますか?」と聞いて、「ここであるわけないでしょ!」と返されたのに……「ピッチャー投げました。あー、スクイズーっ!」っていう時ね(笑)。これはもう最高の快感ですね。でも、そういう場合、だいたい解説者の方は言い訳されますよね。「こういうわからない場面でやるから決まるんですよ!」と。

斉藤 駒田徳広さんはそういう場面は潔く謝りますよ。「わかりませんでした。私の負けです」って。

山内 解説者とのやり取りに関して言うと、「次の球は何でしょうか?」とか「この後どうなりますか?」と事細かに聞き過ぎて、結果的に解説の方と距離が広がるケースがありますよね。すべて予想通り行く訳じゃないから。

初田 でも、次を予想しながら中継してる時は楽しいですよね。どうしても途中経過を挿んだり、他球場の情報とか解説者の昔話が出てきたりして、目の前の場面と違うことをしゃべらなきゃいけないことが多くて。それはそれでラジオナイターの醍醐味として面白い部分でもあるんですけど、この場面で何が予測できるのか、「This 場面」というのを野球経験豊富な解説者の方としゃべっている時っていうのはすごく楽しい。

山内 リスナーも、「ここはバントあるんじゃないの? 解説者に聞いてよ」とか、「あ、解説者はないって言ってるな」とか、一緒に考えながら聴いてくださっているような気もしますからね。

初田 野球って、チームを応援すればするほど次のことを考えるんですよね。みんな監督になったつもりで自分の好きなチームを見ているから。でもそうか、隠し球ね……あえて今年、横浜DeNAは隠し球をやるでしょうね。

山内 やるかもしれない。石川雄洋か、渡辺直人あたりが。

初田 巨人はやらないと思います。巨人以外の5球団は、要注意です。

斉藤 セ・リーグの中継は大変ですね。


【工藤公康はウソをつかない】
山内 今年からセ・リーグも予告先発が始まりますね。

初田 正直言って面白くないですよね、予告先発。まあ実況アナウンサー的には資料作りが楽になるというのはありますけど(笑)

斉藤 そこに尽きますね(笑)

初田 でも実際、2人分の資料を作ってそれでも外してしまうことってあるんですよ。スコアをほじくり返して去年の対戦をじっくり調べた時に限って外れるんです。

山内 あのドキドキ感ですよね。仮に外れたとしても「今日の先発は予想に反して……」というのも情報だから。文化放送さんはパ・リーグ中心ですから、やっぱり予告先発には慣れてますよね。

斉藤 もう、ぬくぬくと(笑)。だから、交流戦がうざったくてしょうがなかったです。今年、交流戦は?

山内 交流戦も予告先発ですね。

斉藤 (ガッツポーズ!)

初田 予想が割れてる時って両チームの打撃コーチに話を聞くんですが、お互いがカマかけてきたりして……そういうのが面白いんですよね。

山内 そうそう。全く情報がない投手が先発かもしれない時に打撃コーチに聞くと「ほんとに情報がないんだよ」って慌ててたりね。でも、ローテの谷間でも、誰かは発表しなきゃいけないんですから、奇襲が出来ないですよね。

初田 昔、広島にレイボーンという投手がいたんです。ある日、急にレイボーンが先発になったんですが何も情報がなくて、急いでインターネットで調べて試合開始の実況に間に合わせたんですけど、わずか14球で降板しましたからね(笑)。せっかく急いで調べたのに、プレー時間10分。名前だけ憶えてますよ、レイボーン。

斉藤 セ・リーグ中継、ホントに可哀想ですね(笑)。でも、アナウンサーとしては磨かれますよね。

初田 我々アナウンサー以上にベンチの落胆ぶりが激しく手に取るようにわかるときがありますからね。思いっきり右並べちゃって「えぇぇぇ」っていう表情したりとか(笑)。あと、TBSでは「工藤公康はウソをつかない」という有名な話がありまして。ウチの先輩アナウンサーがラジオで堂々と話をしてる訳ですよ。「工藤公康は決してウソをつく人間ではありません。そんな工藤選手が僕だけに話してくれました。今日は先発じゃないですよと。そう言ってますから、世間では今日の先発は工藤じゃないかと言われていますが、工藤の先発はありません」としゃべっていたら、「ピッチャー、工藤」ってアナウンスが流れて……騙されちゃった(笑)。でも、これが野球の妙だったりもするんでね。だから、予告先発は残念と言えば残念ですね。


【あれ? 今日、トイレずっと行ってない】
斉藤 今はそれほど気にしなくなりましたが、僕は以前、実況の2日前に甘い物を摂って脳に栄養を行き届かせるようにしていました。それをやるようになってから7回以降もぼーっとしなくなって、実況のパフォーマンスが上がりましたね。

初田 試合が長いと後半ぼーっとする時があるんですよね。2日前っていうのはビックリですが、僕も脳に糖分があったほうがいいと思うので、当日は朝もちゃんと食べ、試合前にも食べるようにしていますね。

斉藤 ヤフードームでしゃべったことありますか? 7回の裏、ジェット風船が上がった後の攻撃って特にぼーっとしませんか?

山内 確かに、サウナにいるような感じになってぼーっとするかもしれない。ジェット風船と関係あるんですか?

斉藤 ヤフードームでもう10年以上しゃべってますが、どんなにパフォーマンス整えて臨んでも、7回の裏でガクンと実況のパフォーマンスが落ちることに気がついたんですよ。そこで<ジェット風船が何万個も飛びたって二酸化炭素が排出されることで脳に酸素が行き渡らなくなり、ぼーっとするんじゃないか!?>という仮説を打ち立てまして。

初田 相手のピッチャーも酸素がなくなってぼーっとするから、7回の裏は点が入りやすいんですかね?

斉藤 そう! 実際に入るんです。甲子園だとそんなことないじゃないですか、オープンだから。西武ドームもちょっとオープンだから大丈夫。札幌ドームが今年からジェット風船を飛ばすみたいなんですよ。これは気をつけないといけない。

山内 二酸化炭素の増量にご注意ください、と。気にします!

初田 水の問題はどうしてますか? トイレに行きたくなっちゃうから水あんまり飲めないじゃないですか。

斉藤 僕は全然気にせずに飲んでますね。

山内 僕も、夏は2リットルくらい飲んじゃうこともあります。でも、飲んだからトイレに行きたいかと言われればそんなことはないんですよね。ちなみに放送中にトイレ行ったことありますか? 僕は松山坊っちゃんスタジアムで、たまたま放送席のすぐ後ろにトイレがあったのでCM中に急いで行ったことが。並んでたらアウトだったんですけど、たまたま空いていて。

初田 広島マツダスタジアムなんかトイレまで遠いですもんね。ファンの方と同じトイレだから並んでることも多いし。

山内 僕、中継が終わって家までトイレに行かないこともありますよ。気づかないうちに「あれ? 今日、トイレずっと行ってない」と。

初田 鉄の膀胱だね(笑)。放送の緊張感が持続してるんじゃないですか。

山内 ありますよね、試合終わってもアドレナリンが出てて寝られない時って。

斉藤 それはあるけど、トイレは寝るまでに数回行きますよ。というか、放送終わったら真っ先に行きます。

初田 あれが気持ちいいんですよね。放送終わった後のトイレ。

(part2へ続く)
(オグマナオト)