「プティパ」(通常版)
全8曲中、一番苦戦した曲は「Night Parade.」だとか。「いろんな人格が1曲の中に入っていたら、奇妙でキュートな曲になるかなと思って頑張りました。曲の中に、歌声が途中で変わっている箇所もあるんです。これは意図的に表現してみたところなので、そのあたりの違いも聴いてもらえたら嬉しいです」(悠木さん)

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昨年、「魔法少女まどか☆マギカ」の主人公・鹿目まどか役で大ブレイクし、今、最も勢いのある人気声優・悠木碧さんが、2012年、さらなる飛躍を目指し、新たなチャレンジ! 記念すべき20歳の誕生日の翌日、3月28日に、ミニアルバム「プティパ」で、ソロシンガーとしてデビューします。インタビュー後編では、バラエティに富んだ全8曲を、自ら解説して頂きました。
(前編はこちら)

――1曲目の「ハコニワミラージュ」は約1分半の短い曲ですが、曲調も悠木さんの歌声も厳かな印象で。1曲目はこう来たのか、と思いました。
悠木 「プティパ」の曲は全部、小さな箱庭の中の住人たちのお話なんですね。2曲目から7曲目までで描かれる遊園地が、箱庭の住人たちの一番楽しめる場所。そして、「ハコニワミラージュ」と最後の「ハコニワソレイユ」の主人公は、箱庭の中でもフィーチャーされていない住人で。すべてがキラキラしてるわけではない小さな世界で、小さな幸せを見つけて生きてる人たち。最初と最後の曲でそんなことを表現できていたら良いなと思ってます。
――2曲目の「回転木馬としっぽのうた」は、このアルバムのリード曲ということですが。
悠木 はい。この曲は、女の子と、その子に飼われている猫のお話です。MUSIC VIDEOもあるので(限定版の付属DVDに収録)、見て頂けると世界観も伝わりやすいはず。猫の目線で人間社会を見ると、MVで表現されているように、ペロペロキャンディだって大きく見えるだろうし、メリーゴーランドだって初めて見るだろうし。そういう新しい発見が一杯の猫ちゃんの心境を、歌えたらと思って。猫になりきって歌いました(笑)。
――MVの映像も、不思議で少し妖しい世界で、楽しいですね。
悠木 MVを作るのも初めての経験だったので、何も分からなかったんですけど。とにかく、好きか嫌いかだけは伝えてようと思って、色々とリクエストさせて頂きました。でも、最終的に皆さんが想像以上に素敵な物にして下さって。出来上がった映像を見た時、自分でも「すげーー」ってなりました(笑)。悠木の「好き」だけが詰まったMVです。
――悠木さんが馬顔のマスクを被るシーンがあって驚いたのですが、あれも、悠木さんの「好き」なんですか?(笑)
悠木 はい。馬の顔とか被ったら面白いよねって言いました(笑)。あと、可愛いけどちょっと怖い猿のオモチャが出てきたり、飛んでる魚を私が足でバシって蹴ったりとか。そういう、キュートな世界の中のシニカルさみたいな部分は入ったら良いなと、監督さんともお話していて。そこをすごく上手に汲み取って頂きました。でも、監督さんには「馬が一番、良い顔してたよ」と言われて、アレ?って(笑)。
――確かに、インパクトはありました(笑)。次の「ジェットコースターと空の色」は、アニメのオープニングが似合いそうな、疾走感のある曲ですね。
悠木 この箱庭世界の遊園地では、ジェットコースターが一番面白い乗り物だと思うんです。だから、勢いとドキドキワクワク感があって、聴くとすごくテンションが上がる曲になってます。それに「ハピハピシュワシュワ」とか歌詞の擬音も、たまらなく可愛いんですよね。レコーディングの時には「このカッコ良い曲と可愛い歌詞を繋ぐのは、私の歌なんだ……」とプレッシャーでしたが(笑)。
――どういうイメージで歌われたのですか?
悠木 歌詞にも曲にも一切入ってはないんですけど、私の中では、この曲の主人公はクマの着ぐるみを着た少年っていう設定なんです。だから、ちょっと綿みたいな声でキュートに、でも、勢いよく爽やかに歌いたいと思いました。
――4曲目の「時計観覧車」は、大好きだというDECO*27さんが作詞作曲を担当されてます。
悠木 DECO*27さんは、もちろん曲も大好きなんですけど、歌詞がすごくすごく好きで。曲はロックでカッコ良いのに、選んでくる言葉は口語体で柔らかいんですよね。それがすごく素敵で。この曲は赤い鳥が主人公なんですけど、鳥の性格を具体的にお願いさせて頂きました。それで、上がってきた歌詞を見たら、「そうそう、この感じ!」って。
――例えば、どんな感じだったのですか?
悠木 大人だからこそのポジティブさを持っているというか……。ポジティブにストイックなタイプ。自分も淋しいんだけど、他の誰かの事を応援してあげられるくらい、いつも心が安定しているみたいな。主人公として、赤い鳥がすごく気に入ってます。
――5曲目の「Baby Dolly Alice」は、悠木さんの可愛さ全開の曲かと思ったら、後半は……という、まさに可愛さと怖さのある曲ですが。
悠木 私的には、可愛さを表現しようと思って、歌ったつもりなんですけど。みんなに「鉄板で怖いね」と言われて、おっかしいな〜って(笑)。私も女だから分かりますが、この曲の序盤みたいなキュートなまんまの女の子なんて、たぶん世の中に一人もいないですよ。
――「たぶん」と言いつつ、断言しましたね(笑)。
悠木 はい、断言しておきます。絶対にいません(笑)。女の子って、すごく黒い事も醜い事もいっぱい考えるけれど、周りを明るく可愛くしようじゃないかって思ってるところがあるんですね。私は、女の子のそこが好きなんです。だから、「Baby Dolly Alice」の主人公はお人形ではあるけど、わりとリアルな女の子。独り占めしたくなる感覚とか。
――僕は、可愛いお人形が、だんだんとヤンデレ化していく曲だと思ってました。でも、逆だったんですね。
悠木 女の子は元々、ブラックですよ(笑)。私は、ヤンデレっていうのは、元々ブラックな子が、頑張って可愛い子ぶってた例だと思ってます。
――なるほど〜深いですね(笑)。次の曲「シュガーループ」では、一転して悠木さんの歌声が、爽やかなイケメン声で。
悠木 そうでしたか? 良かった! この曲と詞もDECO*27さんなんですが、曲と詞自体が青春時代の切ないところを素敵に表現されていて。私も声変わり寸前の少年の声に聞こえたら良いなと思って歌いました。これは、コーヒーカップの歌で、とお願いしたのですが。私、遊園地の中でコーヒーカップが一番、怖い乗り物だと思っていて。
――え、怖いですか?
悠木 あれを本気で回した時の怖さったらないですよ。昔、髪が長かった時に乗っていたら、(遠心力で)本当に頭が飛びそうになりました! あの不安さがすごく出てる曲だと思うので、きっとDECO*27さんも、コーヒーカップを本気で回した事がある人だと、勝手に確信しています(笑)。
――では、7曲目の「Night Parade.」は、どんなイメージで歌われたのですか?
悠木 今までの曲は、割とポジティブな可愛い目線で、この箱庭世界や主人公たちを見てきたと思うんですけど、それを逆のサイドから見た裏世界というか。この箱庭世界は明るいだけの世界じゃなくて、主人公たちも実は怖い事をしてるかもという感じが出せたら、と思いました。アルバムの中で、シニカルな部分の方が強い唯一の曲ですね。この曲には、今までの曲の主人公が全員出てくるんですけど、実はレコーディングをしたのは一番最初なんです。
――いきなり、難易度の高そうな曲からレコーディングだったのですね。最後の曲は、1曲目とリンクした「ハコニワソレイユ」です。
悠木 いろんな主人公が登場して、いろんな風に生きてたけど、(最後は)フューチャリングされてない、普通の住人のお話に戻ってくる感じにしたいと思いました。例えば、私なんかはイベントで舞台に立つと、スポットライトを当ててもらってお喋りして、みなさんに私の声を(一方的に)聴いてもらうことになりますよね。でももちろん、そうやって応援して下さるみなさんにも人生があるし。悠木碧の事を知らない人も世の中にはた〜くさんいるから、私もスポットライトの当たらない一人って見方もできるし。世界は、そういうものなんですよね。でも、できたら全員にスポットライトが当たったら良いなって気持ちで歌いました。
――なるほど。「プティパ」はフランス語で「小さな一歩」という意味らしいですが、悠木さんにとって、このアルバムは大きな一歩なのでは?
悠木 はい。悠木の一生を長〜く見たら、小さな一歩かもしれないけど、今の私にとっては、とっても大きな一歩。なので、その一歩を皆さんにも見守って頂けたら、嬉しいです。
――では、読者の方々が、思わず「プティパ」を手にとって聴きたくなるような、とどめの一言をお願いします!
悠木 お〜〜分かりました。脱ぎます! みたいな? いや、脱ぎませんが(笑)。そうですね……。20年間という短い年月なんですけど、悠木がいろんな人に愛してもらって、見つけてきたキラキラした物や可愛い物を、いっぱい詰め込ませて頂きました。悠木の大好きな主人公たちが暮らす世界を、ぜひ覗いてみて頂ければと思います。たぶん、「プティパ」を聞いて頂くと、悠木碧が何を考えている人なのか、ちょっと分かってもらえるんじゃないかな、なんて。よく「脳を覗いてみたい」と言われることがあるので、悠木の脳内を大紹介みたいな(笑)。皆さんにも悠木のみつけた大好きな物を共有して頂けたら、それはとっても嬉しいなって、思ってしまうのでした。
(丸本大輔)