「空色魔女ウル」シリーズ最新刊の『ウルは空色魔女(3) 贈りものは魔法パフェ!』。夏休みの間に魔法の使い方も成長したウルだけど、「魔女カゼ」にかかってしまい……。第4巻は、現在プロットを制作中だとか。「そろそろ、書き始めないとまずいかな。編集さんに、怒られるかなって感じですね(笑)」(あさの)。

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作家あさのますみさんのロングインタビュー最終回。声優として活躍する傍ら、何気ない気持ちで応募した絵本の賞で、最優秀賞を受賞。さらに、ちょっとした勘違いをきっかけに、児童小説も執筆することになった、あさのさん。初めて書いた原稿が全部ボツになった後も研究と執筆を続け、ようやく生まれた小説家デビュー作『ウルは空色魔女(1) はじめての魔法クッキー』。その物語や主人公のウルに託された、あさのさんの思いとは?
(part1、part2はこちら)

● 「連載をしているような気持ちで書きました」

――『ウル』シリーズを読んで、大人向けのエンターテイメント小説よりも、盛り上がるポイントが非常に多いことに驚きました。クライマックスまで、まるで連作短編のようにたくさんの盛り上がりを積み重ねていく。これも、あさのさんが学んだ児童小説の特徴ですか?
あさの やっぱり子どもたちには、わくわくしながら、飽きずに最後までページをめくって欲しい。私が書いているものは、高いエンターテイメント性が求められるジャンルなので、特に。だから、私としては、(1章ずつ)連載をしているような気持ちで書きました。連載作品って、ラストに引きがあるじゃないですか。そういう感じで、1章1章、テンション高く引きを作って終わらせていけたら良いなって。まあ、あとで読み返してみると、必ずしもうまく引きが作れてるわけじゃないんですけどね(笑)。
――先ほどから、反省コメントが続きますね(笑)。
あさの ああ(笑)。でも、自分が書くようになって、本当に目から鱗が落ちた感じで。世の中には、私が思っている以上にすごいことをしている人が、いっぱいいるんだなと思いました。
――僕が『ウル』を読んでいてすごく関心したのは、ウルって魔法使いの卵ではあるけれど、物を甘くするという1種類の魔法しか使えないじゃないですか。その厳しい縛りを、第1巻の最初に自ら設定してるわけで。
あさの そうなんですよねえ……。もう、なんで……はい(笑)。
――何だか1種類にしたことを後悔してそうな、そぶりですが(笑)。その設定の中、甘くする魔法だけで、ウルが周りの人を幸せにしたり、魔法学校の課題をクリアしたりするアイデアは、毎回すごく面白いなと思うんです。物を甘くする魔法という設定を思いついた時は、「これでいける!」という感覚だったのですか?
あさの う〜ん。どちらかというと、役に立たなさそうな魔法だったら、何でも良かったんです。
――それは、なぜでしょう?
あさの 声優として仕事をしている自分自身のことを考えた時、これといった武器がないなと、ずっと思っていて。それこそ、物を甘くするくらいのしょぼい武器しか、持っていない気がするんです。今もそうなんですけど。だから、ウルが他の魔法使いを見て、その子の魔法をすごくカッコ良く思ったり、自分の魔法が超しょぼいなって感じたりするのは、いつも私が思ってることで。そんな、他のものでも代用できるくらいの武器しか持ってないけど、それで戦わなくちゃいけないっていうお話を書きたかったんです。
――確かに、持って生まれた自分の武器を、どう生かすかというお話ですよね。
あさの 子供の頃から漫画とかを読んでいても、元々から潜在能力が高かったり、他の子とは違うみたいな人が主人公だと、まぶしいなって距離を感じていたんですね。痛快ではあるんですけど。だから、この小説を書く時、特別な才能に恵まれて生まれた子を描くのは止めようというのは、最初にありました。自分も特別なものは何も持ってないから。生まれた時から運命が決まってる訳じゃなくて。みんな最初は何も持っていないんだけど、そこで諦めずに頑張るから、結果が出たりするんですよね。一番伝えたいのは、そうやって一歩一歩積み重ねていくのが、大事なんだということ。すごいシンプルなメッセージですけど。

●「一緒に創作するのって良いな」

――子供だけじゃなく、大人が読んでも響くメッセージだと思います。次は、先日のレビューでも紹介した、声優あるある4コマ同人誌『それが声優!』について聞かせて下さい。そもそも、なぜ同人活動をしてみようと思ったのですか?
あさの アフレコスタジオで、待ち時間に声優の友達が「私、同人誌を出すんだよね」って話をしてて。仲間内でユニットを組んで、いろんなアイデアを出し合ったりして盛り上げてるという話を聞いた時、「うわー楽しそう」って。作家と編集さんの関係とはまた違う形で。自分と並列のところに仲間がいて、一緒に創作するのって良いなと思って、すごく羨ましかったんですよね。
――では、声優あるあるネタの4コマ漫画にしようと思ったのは?
あさの けっこう声優について詳しいファンの方でも、声優の仕事について「あ、そんな勘違いをしてるの?」ってことがいっぱいあって。それが分かるような漫画があったら、面白いんじゃないかと思ったんです。4コマ漫画にしたのは、最近、4コマ漫画が原作でアニメになってる作品が多いじゃないですか? だから、4コマ漫画ってみんなにとってキャッチーなものだと思ったんですね。あと、『ウル』がコミカライズされたとき、漫画のネームを見せてもらったりしたんですが。その時、漫画のネームってすごく難しいものなんだと初めて知ったんです。こんなに色々と気をつかわなきゃいけないんだって。ここでも目から鱗が落ちて(笑)。でも、4コマだったら、コマの大きさも決まってるし、すっごくすっごく勉強したら、私にもネームが書けるかもって思ったんです。

●「私がぬるいネームを描いたら失礼」

――そのアイデアをあさのさんがTwitterで呟いたら、『ハヤテのごとく!』の畑健二郎さんが作画担当として立候補した流れは、僕もリアルタイムで見ていました。
あさの 畑先生が一緒にやってくれることになって、自分にどこまでできるかは分からないけど、できることは全部やらなきゃダメだなと思いました。めちゃくちゃ忙しい畑先生が絵を描いてくれるのだから、私がぬるいネームを描いたら失礼じゃないですか。それで、フォロワーの人たちに「みんなが好きな4コマ漫画って何?」って聞いてメモし。本屋にある作品を全部買ってきて……。
――そこでまた、研究が始まるんですね。
あさの そうです、そうです。それで、私は、あずまきよひこ先生の『あずまんが大王』が一番好きだったので、「『あずまんが大王』、面白いなあ」ってTwitterで呟いたら、全然面識のないあずま先生が「ありがとー」と返事をくれて。そこから仲良くなれたんです。その段階では、私の中のあずま先生って、「すごい人」というよりは、気さくな人という印象で。だから、軽い気持ちで「漫画のコツを教えて下さ〜い」って言ったら、「いいよ〜」って。でも、その後、周りの人からあずま先生は、すごい人なんだと教わって。
――すごい人ですよ(笑)。
あさの それを知って、私ごときがなんてことを言ってしまったんだ……とすごく恥ずかしくなって(笑)。でも、もうお願いしてしまったから、そこからさらに研究をして、質問事項とかをまとめて。結局、1対1ではプレッシャーが大きいので、畑先生たち何人かと一緒に、あずま先生の仕事場にお邪魔しました。そこで、あずま先生が漫画を描く時、どれくらいの取材や体験をし、準備しているかという話を聞き、また目から鱗が(笑)。それくらいやらないと、キャラクターに命は宿らないんだと知りました。でも、そういう意味では、私も10年間声優をやっているから、声優あるあるネタなら良い作品に出来るかもしれないって気持ちにもなれたんです。あとは、間の取り方とか、いろんなコツも教わりました。
――(直筆のネームを見ながら)そのコツを生かして描かれたのが、このネームなんですね。
あさの その成果がこれかよって感じなんですけど(笑)。もう、この絵の下手さが恥ずかしい。
――いや、ここまでしっかりとネームを描いてるとは思わなかったです。僕が想像していたより、作品の中の“あさのさん成分”は多いんですね。
あさの いえいえ。やっぱり、畑先生がキャラの立ち位置を調整してくれたりとか。あと、私が4コマ漫画で描いてたものを、「これは、4コマじゃなく、ストーリーにした方が良いですね」とか言ってくれたり。畑先生にアイデアを出すと、同じ熱量で意見をくれるんですね。そういう、仲間のいる感覚がすごく嬉しくて。初めてだし大変な事もありましたけど、楽しかった気持ちの方が強いです。

●「一番課題なのは小説を書くこと」

――夏のコミケでは『それが声優!』の第2弾を出す予定らしいですね。
あさの はい。畑先生も、原作をけっこう気に入ってくださって。キャラクターたちを「大切に育てたいですね」って言って下さっているので。とりあえず、第3弾までは続けようという話になってます。
――楽しみにしています。最後に、これからの“あさのますみ”さんは、どんなことに挑戦していきたいか、教えてください。
あさの 今、自分の中で一番課題なのは小説を書くことですね。自分が今までの人生で一番読んだ本は、小説で。自分の本を読み返したときに一番反省が多いのも、小説なんです。私自身、小説に励まされたりしたこともあるので、いつか私もそういう作品を書けたら良いなと。『ウル』みたいな、エンターテイメント性の高いジャンルの作品ももちろんですけど、もう少し児童文学よりの作品も書けたらいいなって思ったりもしています。あと、私はこれまで、声優の仕事について書く事を全然してこなかったんですね。でも、『それが声優!』を出して、初めて実感したことがあって。
――どのようなことですか?
あさの 私自身が直接言うと、生々しかったり、反感が出たりするようなことでも、キャラクターに代弁させると、みんなの中にスッと入っていくみたいなんです。例えば、私が「声優の仕事は大変なんだよ〜」とか言ってもなかなか分かってもらえない(笑)。でも、キャラクターに言わせると、その辛さを一緒に感じて貰えるんです。その楽しさを知ったので、同人誌ではありますけど『それが声優!』も、何か広げていけたらと思います。
――いろんな可能性のありそうな題材ですよね。
あさの はい。とにかく、創作の道というものがあるとしたら、私は、本当に入口に立ったくらい。今までにあるいろんな作品から学びながら、一人でも多くの人に面白いと言ってもらえるものが書けたらなって。そんなことが目標でしょうか。いろんなジャンルに手を出してしまったが故に、どれもまだ勉強中で。今も、しょっちゅう目から鱗が落ちてます(笑)。とはいえ、いくつになってもできるのが、作家の仕事だと思うので。毎日毎日、いろんなことにアンテナを張りながら、自分のペースで続けていきたいです。
(丸本大輔)