「ラブプラス」シリーズのシニアプロデューサーで、通称「お義父さん」。大学時代はバブル景気のまっただ中で、「就職なんていつでもできるから」とプログラマーのバイトと旅行ばかりしていたところ、卒業と同時にバブルが崩壊。プログラムの経験をなるべく楽しく活かそうと、KONAMIに就職したそう。

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前編はコチラ。

■「気付かないけどドキドキしちゃう」仕掛け

ーー3DSになって、カノジョたちがぐっとかわいくなりましたね。
内田 以前は「(キャラクターの良さってのは)解像度とかじゃないんですよ!」ってまわりに説明してたんですけど、いやあ、やっぱり解像度上がるといいですね(笑)。
ーーははは(笑)。そういえば「目」がすごく変わった印象を受けました。
内田 前はテクスチャを貼り替えてただけだったんですが、今回はモデルそのものを動かすようにしたんです。
ーーああ、そうなんだ!
内田 だから目線を動かしたり、瞳孔が開いてちょっと目がキラキラしてる感じとかもできる。気付く人は気付くと思いますけど、そうでない人も「なんか知らないけどドキドキするな」みたいに感じてもらえると思います。
ーー気付かないけどドキドキしちゃう!
内田 人間って、点が二つあるとそれを顔と認識しようとするんですよ。そういう脳みそのシステムになってる。で、紙に点を二つ書いて目の前に置くと、脈拍が上がるんです。
ーー点が二つあるだけで。
内田 あと人間の目って、興味がある異性を見てると、瞳孔が開くんです。だから好きな人の前だと、自然に目がキラキラして見えたりする。
ーーへぇー!
内田 だからそういう演出をちょっと入れたりすると、より「惚れられてる」感が増すんじゃないかなって。
ーーけっこう科学的なところも。
内田 ありますね。科学とか心理学とか、もともとそういった本を読むのが好きで、「ホントかどうか試してやろう!」みたいなことはたまにやります。


■ビリー・ジョエル聞きながらガンプラ作ってた小学生時代

ーーどんな子供時代だったのか聞かせてください。
内田 そもそもガンプラ世代なんですよ。それでガンプラを作るための情報が欲しくて、アニメージュとかホビージャパンとか買ってた。
ーーそれは小学生くらい?
内田 5〜6年生くらいですね。で、中学生になるとそこから自然に離れていって、それでバンドとかやんちゃな方向に走りはじめた。だから中学以降はあんまり、ゲームやアニメには触れてなかった。ゲームに関しては超カジュアル(ユーザー)ですよ。
ーーギターはいつごろから?
内田 小6くらいからやってたんです。
ーー小6!
内田 うまかったんですよ、ってなんか自分で言うとバカみたいですけど(笑)。地元ではうまい方で、高校くらいになるとBOOWYがめっちゃくちゃ流行って、よその学校の文化祭に呼ばれたりしてた。
ーー超リア充じゃないですか。
内田 今思えば、モテ期だったのかもしれないですね(笑)。
ーー聞く方は?
内田 当時は洋楽が全盛で、洋楽をずっと聞いてました。うちはお小遣いは安かったんですけど、その代わりに毎月1枚、好きなLPを買っていいって言われてて。それでレコード屋さんに行って、どれ買ったらいいかバイトのお兄ちゃんに相談したりしてた。時期的にはウエストコーストの流行が終わったくらいで、それからAOR(※1)ってのがブームになって……ってこんな話してていいのかな(笑)。
ーーいいです、大丈夫です!
内田 ボビー・コールドウェル(※2)とかボズ・スキャッグス(※3)とか、とにかく大人っぽい、渋いやつをよく聞いてました。あとは日本人だと、高中正義さん。これもAORっぽいギターの曲が多くて、よくコピーしたりしてた。ビリー・ジョエルも全盛期だったし、あとクイーンとかもリアルタイムで聞いてましたね。
ーーませた小学生ですね。
内田 ビリー・ジョエル聞きながらガンプラ作ってましたよ(笑)。

※1 Adult-oriented Rock。音を重視した、大人向けのロックで、Adult Contemporary(AC)とも呼ばれる
※2 AORサウンドを代表するミュージシャンの一人。代表曲に「風のシルエット」「スペシャル・トゥ・ミー」など
※3 同じくAORを代表するミュージシャンの一人。「ウィ・アー・オール・アローン」はAORのスタンダードナンバーとして、多くのアーティストがこれをカバーしている


■サリンジャーで人生がおかしくなった

ーー文学だとどのへんに影響を受けましたか。
内田 一番大きいのはやっぱり、サリンジャー(※1)ですね。
ーー出た!
内田 最初に「ライ麦畑でつかまえて」を読んだのが15歳くらい。それで人生おかしくなっちゃった。世の中をハスに構えて見るようになったのはそのへんからですね。
ーーそのへんの、ハスに構えてる部分って今でも残ってると思いますか?
内田 自分ではなるべく正面向くようにしてるつもりなんですけど、たまに「ケッ!」みたいになることはまだありますね。
ーークリエイターにはサリンジャー好きな人が多いですね。
内田 前に「攻殻機動隊」の神山健治監督(※2)と、サリンジャーの話でめちゃくちゃ盛り上がりましたよ。「人生狂いましたよね」「だよねー」みたいな。たぶんそんな感じで、いろんな人の人生を狂わせてきたんでしょうね。
ーー人生を狂わせる作家!
内田 あとは父の影響も大きかった。本がすごくいっぱいある家だったんです。
ーーじゃあ最初は、お父さんの本をあさって読んでたような?
内田 そうそう。今にして思うと、父が子供向けに用意した本にまんまと乗せられたと思うんだけど、岩波少年文庫だらけだったんですよ。芥川龍之介とか夏目漱石とか有島武郎とか。そういうのをいっぱい読んでた。
ーー活字慣れしてたんですね。
内田 あとは当時の中学生のお約束として、筒井康隆とか星新一とか眉村卓とかも読みあさってました。

※1 詳細は前編をどうぞ
※2「攻殻機動隊 S.A.C.」「東のエデン」などを手がけたアニメ監督。「攻殻機動隊 S.A.C.」にはサリンジャー作品のモチーフがよく出てくる


■ハリーハウゼンを託児所がわりに

ーー映画はどのあたりから見るようになったんですか?
内田 古い記憶だと、レイ・ハリーハウゼン(※1)とか。ストップモーション映画なんですけど「シンドバッド七回目の冒険」とか、「シンドバッド虎の目大冒険」とか見てましたね。親が買い物してる間に、映画館に放り込まれて、それを見て待ってました。
ーーハリーハウゼンをリアルタイムで!
内田 リアルタイムではないんですけど、やってたんですよ。当時何回も、リバイバルで。
ーーほかにはどんな映画を?
内田 あとはやっぱり、角川映画かな。「戦国自衛隊」とか「時をかける少女」とか。そういえばこの間、桜井政博さんや、レベルファイブのイシイジロウさんと「角川映画の予告編を見る夕べ」みたいなのをやったんですよ。
ーー角川映画じゃなくて「角川映画の予告編」ですか。
内田 角川映画の予告編集みたいなDVDを桜井さんが持ってたんですよ。で、みんな年齢が同じくらいだから、知代ちゃん知代ちゃん(※2)って大騒ぎして(笑)。
ーーうわあ。
内田 あれは楽しかったなあ。
ーー楽しそうですね。
内田 あとは高校生くらいになると、ジム・ジャームッシュ(※3)とかが流行りだして、なんかジム・ジャームッシュを見て「面白い」って言わなきゃいけないような空気があって。
ーーああ(笑)。
内田 面白いって言わないヤツはクールじゃない! みたいな(笑)。
ーーたしか小津安二郎も好きですよね。
内田 大好きです。小津安二郎と黒澤明は完全に父の影響ですね。あとヴィム・ヴェンダース(※4)も好きだったなあ。

※1 アメリカの映画監督で、特撮技術の第一人者であるとともに「ストップモーションの魔術師」とも呼ばれる
※2 原田知世。80年代の角川映画を支えた女優のひとりで「角川三人娘」の一人
※3 オフビートな作風で知られ、ニューヨーク・インディーズ派の旗手と言われる
※4 「ベルリン・天使の詩」とか「パリ、テキサス」などが代表作。その作風には小津安二郎の影響も強い


■みんな途中で居眠りしちゃうようなゲーム

ーーもし好きなゲームを作れるとしたら、どんなゲームを作りたいですか。
内田 たぶんマーケティングとか全部無視して、本当に好きなものを作っていいよって言われたら、とんでもないものを作ると思いますよ。
ーーたとえばどんな?
内田 みんな途中で居眠りしちゃうようなゲーム(笑)。
ーーははは(笑)。でも最近って、そういう作家性を前面に出したゲームって少なくなっちゃいましたね。日本だけかもしれないけど。
内田 いやあ、どうするんでしょうね。難しいのは、表現ってやっぱり見てくれる対象がいてこそですし、「表現したい」って情動は「誰かに見てもらいたい」ってのと常にセットになってるので、多くの方に見てもらうってのは、表現者としては冥利に尽きるわけですが……。
ーーが……?
内田 一方では、「誰も分かんないだろうな……」みたいなのを思いっきりやってみたいっていうのも。
ーー相反するものが。
内田 発散行為みたいなものだと思うんですけど、なんかこう、どこかで全部ぶちまけたいような衝動は常に持ってますね。でも、そういうのが鬱積してるからこそ、何かモノを作ろうって気になるのかも。
ーーでも、ところどころ「ラブプラス」でも発散されてますよね。
内田 かもしれないですね。普通、恋愛ゲームのヒロインに、サリンジャーがどうこうとか言わせない(笑)。


■みなさんの人生に、実体験としての「ラブプラス」を

ーーじゃあ最後に、これから「NEWラブプラス」を遊ぶ人に向けてメッセージを。
内田 なんかゲームの話をほとんどしてなかったような気がしますけど(笑)。
ーー気のせいです!
内田 ええと、まずはお待たせしてしまって本当に申し訳ありませんでした。でも、その分の良さはちゃんと表現できたと思いますので、待った分、すみからすみまで舐め尽くしていただければと思います。今回は特に、お客さん同士がつながり合える仕掛けもいろいろありますので。
ーー(あ、ちょっとゲーム紹介しようとしてる)ユーザー同士がつながる仕組み?
内田 たとえば「カノジョ紹介」ってシステムがあって、これを使うと自分のカノジョを、「僕のカノジョです!」って友達に紹介することができるんです。
ーーそれはまた……えらくハードル高いですね。
内田 でも、そこでカノジョを友達に紹介するっていう「実体験」をしていただくことで、リアルな友達が「カノジョの友達」になるわけです。
ーーああ、リアルな人間関係まで変えちゃう!
内田 という、人類史上初の試みになっております(笑)。
ーー「読書月間」もそうでしたけど、初の試みだらけですね。
内田 バーチャルな体験を現実の体験と混ぜてしまおう、というのが「ラブプラス」のコンセプトなんです。「ラブプラス」がみなさんの人生の中で、ゲームじゃなく「実体験」として存在できるといいなあと。
ーーやっぱりヘンなゲームだなあ(笑)。
(池谷勇人)