月刊コミック@バンチ(新潮社)で連載中。
左から前田あたり、園場凌、有賀千恵になります。そう、二人のバイトはレストランの中ではメイド姿だったりします。

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あなたは人生で最後に何を食べたいですか?

いきなりこう聞かれて答えられる人は少ないでしょう。でも、食事というのは人生において、欠かすことのできない行為です。「食べることは生きること」とも言います。人生で最後の食事というのは、そういった今までに行ってきた食事の集大成なわけですから、その人の人生が凝縮して表されているような気がしませんか。

「コンシェルジュ」、「コンシェルジュ・プラチナム」の作画をされている藤栄道彦さんの新作「最後のレストラン」は、歴史上の人物が最後の晩餐をしに来るレストランなのです。

……と、言うとなんだか堅苦しい感じの印象を受けますが、そうではありません。まずは公式ページ(1話をちょっとだけ読めます)と、宣伝動画を見てみてください。

舞台は客のこないフレンチレストラン「ヘブンズドア」。オーナー兼シェフの「園場 凌(そのば しのぐ)」は父親からお店を受け継いで1週間ですがお客が全然来ないので、お店に火を付けて自殺しようとするところから始まります。その騒動はバイトの「有賀 千恵」と「前田 あたり」に止められるのですが、そこに何故かお店のドアと本能寺の変真っ最中の本能寺の戸がつながってしまうのです。そして現れたのは織田信長ご一行。織田信長は今生での最後の食事に「どこの天子・聖人でも食したことのないような空前にして絶後の料理」を所望するのでした……

という感じに、歴史上の偉人が死の直前に現れて、最後に食べたい料理を伝えます。でも、主人公達は「時代劇の俳優さん?」とか言って気づいていません。まあ、普通はお店のドアが過去とつながって本物の織田信長が来たと考えるよりも時代劇の俳優さんが衣装のまま来ちゃったと考えますよね。そして出された難題を、主人公が名前の通りその場をしのぐアイデアで乗り切っていくのです。

ちなみに1巻で登場する偉人とその注文はこんな感じです。

織田信長:空前絶後の料理
マリー・アントワネット:自分が何を食べたいのかを当てさせる
ガイウス・ユリウス・カエサル:伝説になるような一皿
坂本龍馬:日本の未来を現すような一皿
ジャンヌ・ダルク:神の奇跡をあらわす一皿

どうでしょう。まさにその人を体現していると思いませんか。ちなみに個人的に1巻で一番大爆笑しながら読んだ、ガイウス・ユリウス・カエサルが何故「伝説になるような一皿」を所望しているのか。CM動画をよーく見て、そこに出てくるカエサルの顔をよーく見てみてください。そう、「1クールのレギュラーよりも、1回の伝説」のあの人がモデルなのです。

そんな個性的なお客様に、レストラン側も負けていません。オーナー兼シェフの園場はネガティブ思考の持ち主で、ともすると自殺しようとしたりしていますが、毎回無茶な注文に確かな料理の腕と機転を利かせて応えています。大学生アルバイトの前田は結構きつめの言葉を園場に浴びせたりもしますが、豊富な歴史知識とびっくりするぐらい幅の広い語学力でトラブルを解決する手助けをしてくれます。高校生アルバイトの有賀は物怖じしない性格でどんなお客様にも笑顔で応対します。この3人のバランスがとれているからこそ、難題が解決できるのでしょう。

1巻で登場する人達は、みんな処刑される直前か、裏切りにあって死ぬ直前にこの店を訪れています。でも、これが最後の食事だということを受け入れ、食べたいものを伝え、そして出てきた料理とその料理を選んだ理由を聞くと、それぞれの人生を回顧し笑顔でお店を去って行きます。美味しい料理は人を幸せにするということを、改めて実感させられますね。

1巻最後に登場したジャンヌ・ダルクがまさかの展開になったこともあり、2巻が早く出て欲しい作品のひとつです。料理漫画好きだけでなく、歴史好きにもオススメです。もちろん藤栄道彦さんの作品らしく、随所に遊び心が満載(例えば試し読みできる範囲だと、伏せてはありますが包丁人味平のブラックカレーネタや、ジョジョの奇妙な冒険のトニオネタがあったり)だったりもしますので、そういうノリが好きな方にもオススメです。コンシェルジュ・プラチナムと共に、続刊が出るのを首を長くして待ちましょう。

ちなみに自分だったら最後に何を食べたいか。今だったらやはりお気に入りの醤油をたっぷりと使ったたまごかけご飯かなあ……
(杉村 啓)