でもそれじゃ通用しないってわかって、それまでのプライドを全部捨てましたね。お客さまは神様。お客さまが楽しんでくれるためなら、自分はなんでもしようって。そもそもお酒って、味自体はコンビニや酒屋で買ったものを家で飲んだって変わらないじゃないですか。それをわざわざお店に来てまで飲んでくれるってことは、楽しい場にしないと意味がないって思うようになりましたね」

――そんななか、お店は今年の12月で5周年。ずっと順調だったんですか?

「08年のリーマン・ショック以降は本当に厳しかったですよ。週2で来てくれていたお客さんが週1になり、週1の人は月1になる。だから身を引き締めていこうと、いろいろと工夫するようになりました。

 例えば、料理なんてやったことなかったんで、お通しは買ってきたものばかりだったんです。でも、これが不評で。場所柄、ゲイの方が多いんで、そういうところ、けっこう厳しいんですよね(苦笑)。買ってきたものを容器に詰め替えてゴマかしても『アンタ、これ買ったでしょ』ってバレてしまう(笑)。

 だからゼロから勉強して、自分で作るようになりました。今日も家で作った大根の煮付けを容器に入れて、電車に乗って持ってきました。今では“お通しのおいしい店”って、けっこう評判なんですよ」

――AVでの経験が今生かされていることってありますか?

「男優時代の経験は接客に大いにつながっていると思います。相手の反応を見て気持ちよくさせるのって、ベッドの上でもお店でもそんなには変わらないような気もしますし。それに僕は男優時代、本当にいろいろな人と絡んできたので、どんな人でも愛することができる(笑)。

 あとは記憶力ですかね。一度会ったお客さんはほとんど忘れないですよ。男優でも記憶力の悪いヤツがいるんですよ。昨日絡んだ女優さんを覚えていないとかね。そういうヤツは大体ダメですね(笑)」

――最後に、お店をやっていて一番やりがいを感じるのはどんなときですか?

「ありきたりですけど、一度来てくれたお客さんが『また来るね』って言って、本当に来てくれたときはうれしいですね。新宿二丁目だけでも何百店舗ってあるなかで、私に会いに来てくれるんですから。最近、AVの世界よりもここのほうが自分が求められてる場所なんじゃないかなって思うんですよね」

(取材・文/クジライシンジ 撮影/山形健司)

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