「悔しいです…」80歳従姉を介護した74歳女性が絶望。〈遺産3,200万円〉を奪い去った“予期せぬ相続人”の正体【CFPが解説】
厚生労働省の『2024(令和6)年 国民生活基礎調査』によると、単独世帯は1,899万5,000世帯、全世帯の34.6%に達し、過去最高となりました。高齢になって一人で暮らす人が珍しくなくなるなか、日々の生活を支えてくれるのが、必ずしも「法的な家族」とは限りません。本記事では、CFPの山原美起子氏が、幼少期から仲の良かった80歳従姉を長年支え続けた74歳女性の事例をもとに、相続をめぐるシビアな現実を解説します。
「私が死んだら、財産は全部あげる」…独身80歳の従姉を4年間支え続けた74歳女性
マユミさん(仮名・74歳)は、近くに住む母方の従姉・ヨシコさん(仮名・80歳)を陰で支え続けてきました。独身で一人暮らしのヨシコさんは、70代後半から足腰が弱り、日常の買い物や通院すら難しくなっていたからです。
幼少期から仲が良かった二人は、お互いの母親が亡くなってからも、まるで本物の姉妹のような関係でした。
マユミさんは、介護が必要になったヨシコさんの自宅を毎週訪れ、買い出しや通院に付き添う生活を、実に4年間もの間続けました。
「私が死んだら、家もお金も全部マユミちゃんにあげるからね。身内もいないしお葬式はしなくていいから、一緒に育てた花壇の手入れだけはお願い」
ヨシコさんはマユミさんへの感謝を繰り返し口にしました。見返りを求めていないマユミさんは「そんなこと考えず長生きしてね」と微笑み、具体的な手続きの話は避けていました。
ところが、ヨシコさんが肺炎で急逝。自宅不動産と預貯金を合わせ、約3,200万円の財産が遺されました。
悲しみのなか「相続手続きはどうなるのか……」と、ぼんやりと考えていたマユミさんに、弁護士からヨシコさんとの約束を打ち砕く、あまりにシビアな現実が告げられます。
「悔しいです…」遺産3,200万円と自宅を奪い去った〈突然現れた相続人〉
弁護士いわく、若いころに家を出て以来音信不通だったヨシコさんの弟が見つかり、法律に基づいて全財産を相続するというのです。
ヨシコさんの「マユミちゃんに全部あげる」という口約束では法的効力を持たないという現実が立ちはだかり、自宅はなんの相談もなくあっという間に売却されてしまいました。
マユミさんの献身は、1円の遺産も受け取れないまま、報われることはありませんでした。
「財産がほしかったわけではありません。でも、私がきちんと向き合って手続きをしておけば、大切にしていた家や花壇を守ってあげられたのに……。それが申し訳なくて、悔しいです」
マユミさんの言葉には、取り返しのつかない後悔とやり切れなさが滲み出ていました。
【CFPが解説】法定相続人をめぐるシビアな現実…遺産を渡すためには「遺言書」の作成が不可欠
法律が認める相続人の範囲はシビアに線引きされています。配偶者は常に相続人となりますが、それに続く優先順位は「①子ども(他界している場合、孫・ひ孫)」「②父母または祖父母」「③兄弟姉妹(他界している場合、甥・姪)」までです。
どれほど強い絆で結ばれていても、いとこや内縁のパートナーなどが自動的に相続人になれる枠組みは用意されていません。
本来、法定相続人が一人もいないケースであれば、いとこであっても家庭裁判所に認められることで「特別縁故者」として遺産を分けてもらえる可能性が残されています。しかし今回は、音信不通だった弟が存在したことによって、そのかすかな道すら完全に閉ざされてしまいました。
マユミさんに唯一残されていたのは、介護の貢献度に応じて相続人である弟に金銭を請求できる「特別寄与料」という権利でした。
しかし、日々の買い物や病院への付き添いにかけた時間、費用の詳細な記録を残していなかったマユミさんは、「請求しても認められないだろう」と諦めるしかありませんでした。
法定相続人ではない人へ確実に財産を渡すには、生前に遺言書で指定する「遺贈」の手続きが不可欠です。ヨシコさんのように配偶者や子どもがおらず相続人が兄弟姉妹だけの場合、兄弟姉妹には最低限の取り分である「遺留分」がないため、有効な遺言書さえあれば全財産をマユミさんに遺すことも可能でした。
遺言書には手軽な「自筆証書遺言(法務局保管制度の利用推奨)」と、公証人が作成する確実な「公正証書遺言」があります。不動産がある場合はもちろん、今回のように法定相続人ではない親族へ財産を遺すなら、公正証書遺言が安心です。
あとから現れた疎遠な弟から「本当に本人が書いたのか」「騙されて作成させられたのではないか」といった疑念を持たれてトラブルに発展するのを未然に防ぐことができます。
遺言書は、遺された人に感謝を届ける「想いの手紙」
どれほど「財産をあげたい」と口頭で伝えていても、法的な準備がなければその想いが叶うことはありません。
遺言書は人生の集大成として築いてきた財産の使い道を最後まで自分自身で決定し、遺された人に感謝を確実に届ける「想いの手紙」です。元気なうちに準備を整えておきましょう。
ただし、財産状況や人間関係は時間の経過とともに変化するため、「遺言書は一度作って終わり」ではなく、数年ごとに見直すことをおすすめします。
山原 美起子
株式会社FAMORE
ファイナンシャル・プランナー
kokorono MIRAI labo.認定 家族信託コンサルタント資格Ⓡ
※個人の特定を避けるため、登場人物の情報等は一部変更しています。
※本稿は2026年9月時点の制度を前提としています。2026年6月には成年後見制度を見直す改正法が公布されており、今後の施行に伴って制度の詳細な内容が変わる可能性があります。

