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 ドジャースの山本由伸投手(28)は昨オフ、人知れず向かった先がある。メジャー3年目のキャンプインを控えた今年2月初旬、神奈川県藤沢市にある児童養護施設「聖園(みその)子供の家」を訪れた。昨秋のワールドシリーズでMVPに輝いた右腕が求めていたのは、児童養護の現状への学び。自らの意思での異例の訪問について、関係者らへの取材から山本の人物像が浮かび上がってきた。(取材構成・小林 伊織)

 今年2月初旬のキャンプイン直前。WBCを翌月に控えた中、山本の姿は神奈川県藤沢市にあった。小田急江ノ島線の善行駅から徒歩15分ほどに位置する児童養護施設「聖園子供の家」で、児童養護の現状を学んでいた。

 発端は山本自身の考えにあった。恵まれない子供たちのサポートについて考える中で「実際に養護施設を見たい」と自ら訪問を希望した。「聖園子供の家」の代表を務める野際良介氏も連絡をもらった当初は驚きを隠せなかったが、要請を受け入れて実現に至った。

 午前10時30分ごろ、来園するとまず約1時間ほど座学で受講した。養護施設の現状などの説明を受けると、右腕からも多くの質問が上がったという。ある関係者は「自分がどうやったら社会貢献できるのかを一生懸命考えている。ただお金を出すだけではなく、自分が納得する子供支援とは何かを考えているのが伝わった」と意識の高さを肌で感じた。

 在籍する子供たちには来訪は伝えておらず、完全サプライズで行われた。正午ごろ、幼児から高校生までが昼食を食べている会場に登場。突然のことに子供たちからは「えっ!うそでしょ!?」と驚きの反応が上がった。それでも山本の人柄もあってか、すぐ打ち解けたという。

 山本がどういった人物かをまだ理解できていない幼児との交流では人柄が表れた。中高生が緊張する一方、幼児はお構いなしに飛びついてきた。「お兄さん野球上手なの?」という直球質問に「ちょっとだけね」とユーモアある回答をするなど距離の詰め方も抜群だったという。野際氏は「子供は人を見てます。特に大人を。安心と思えばすぐ関わろうとするんですよ」と説明しつつ「それこそ(子供の扱いが)職員よりうまいんじゃないかと。見習うべきところがありました」と交流する様子を絶賛した。

 この春に施設を卒業し、社会に出る生徒からは人生相談も持ちかけられた。ある生徒は「自分が将来、(内定先に)勤めていいのか分からない」という悩みを寄せた。山本は真剣な表情で「諦めないでやり続けることが大事」と人生の先輩としてアドバイスを送ったという。野際氏はそんな様子を見守り「大人というか一人のお兄ちゃん。偉いオーラとか一切ない。本当に自然体」と明かした。

 来訪を終えた右腕は「職員の皆さまから養護の現状や課題について貴重なお話を伺い、何よりも子供たちの明るい笑顔や温かい歓迎に、僕自身がたくさんの元気と勇気をもらいました」と振り返った。園内ではファンが急増。朝や夕方のニュースで登場することを楽しみにしている子供たちが多い。野際氏を含め、関係者が口にしたのは「近所のお兄ちゃん」という言葉だった。昨季はワールドシリーズ制覇に貢献してMVPに輝き、地位と名声を得た。それでも本質は変わらない。飾らず気配りができ、おごらない。そんな“近所のお兄ちゃん”だからこそ、老若男女、日米場所を問わず、右腕は愛されている。

 ▽聖園子供の家 神奈川県藤沢市に1946年に開設された児童養護施設。敷地面積は東京ドーム約3個分と広大で緑あふれる環境が特徴。認可定員は42人で、現在は2歳から18歳の子供たち34人が在籍。子供たちの支援は、保育士、児童指導員、専門職(心理士、職業指導員、家庭支援専門相談員、里親支援専門相談員、看護師、栄養士)が行っている。

 ≪9.6夢の正体が実現 ANA協力≫山本のボブルヘッド人形配布日である9月5日(日本時間6日)、本拠地でのナショナルズ戦に「聖園子供の家」の児童7人をドジャースタジアムに招待することが分かった。24年からド軍とパートナーシップ契約を結ぶ全日本空輸(ANA)の協力の下、実現することとなった。

 「少しでも広い世界や夢を感じるきっかけにしてほしいという思いから、ご招待させていただくことにしました。みんなの顔を見るのを楽しみにしています」と山本。パスポートの取得や渡航費などの問題もあったが、山本とANAの協力により夢の招待が現実となり、特別なマウンドに立つ。

 ≪防御率2.61で12勝…充実3年目≫今季の山本は2年連続の開幕投手を務め、23試合に先発して12勝7敗、防御率2.61と好成績を残している。オールスター戦にも2年連続で選出された。前回21日のパイレーツ戦では6回1/3を5安打2失点。メジャー自己最多となる13勝目こそ逃したが、107球の熱投でチームの勝利に貢献した。ここまで151回2/3を投げ、昨季の自己最多173回2/3の更新も射程圏内で「しっかり安定してイニングを投げられているというのが凄く良い」と充実した3年目を過ごしている。