「定年まで勤め上げれば、まとまった退職金が老後の支えになる」--そう思い込んでいる人は少なくない。だが、脱・税理士の菅原氏はその前提そのものに疑問を投げかける。退職金は法律で支給が義務づけられた制度ではなく、支給の有無も金額も会社の裁量に大きく委ねられているというのだ。40年勤め上げても支給されない例がある一方、勤続がわずかでも高額な支給が行われることもあり得るという。
 
菅原氏が示すのは、東京都内の中小企業を対象にした2024年のデータだ。定年退職時の退職金は大卒で平均1,149万円、高卒では974万円にとどまる。老後2,000万円問題と照らし合わせれば、心もとない水準だ。さらに勤続年数によって支給額は大きく変動し、10年で150万円、20年で415万円、30年でようやく754万円に達する。しかもこれは会社都合退職を前提とした相場であり、自己都合で退職した場合はさらに目減りするという。長く勤めても、想像より少ないと感じる読者は多いだろう。
 
退職金制度そのものの有無も一様ではない。従業員1,000人以上の企業では約90%が制度を導入している一方、30人から99人規模になると導入率は70%まで下がる。金融・保険業と飲食業のように業種による差も大きい。多くの中小企業が採用する中小企業退職金共済についても、菅原氏は経営者の立場から独自の見解を示す。毎月の積立が退職時にまとめて支払われる仕組みは、勤務態度や貢献度にかかわらず支給されてしまう点に課題があるとの指摘だ。加えて、退職金の規定を一度定めてしまうと、急な退職者にも数百万円規模の支払いを短期間で用意しなければならず、資金繰りを圧迫しかねないという経営側の悩みも語られる。
 
大企業の大卒退職金は平均2,240万円であり、中小企業との差は歴然としたものだ。それでも老後の生活費として十分とは言い切れない現実があり、退職金だけに頼らない備えの必要性が見えてくる。物価上昇が続くなかで、必要とされる老後資金の水準そのものも上振れしているようだ。
 
終身雇用が過去のものとなりつつある今、退職金をあてにした老後設計がどこまで通用するのか。将来の資金計画を考える人にとって、視点が整理される内容だ。

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