(※写真はイメージです/PIXTA)

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住宅を購入する際、「将来、離婚したらどうするか」まで想定して住宅ローンを組む夫婦はあまりいないでしょう。しかし、離婚後に住宅ローンをめぐって深刻なトラブルへ発展した事例をたどると、その原因は離婚した瞬間に生まれたものではなく、住宅を購入した時点ですでにあるケースも少なくないようで……。今回は、離婚を機に住宅ローン問題へ直面した2組の夫婦の事例をもとに、「離婚×住宅ローン」の落とし穴について、CFP®の市川貴博氏が解説します。

【事例1】離婚後、夫がローンを払わない…「連帯債務」を選んだ28歳夫婦

共働きのA夫婦。夫は28歳で年収370万円、同い年の妻は年収280万円で、0歳の子どもがいます。

子どもの誕生を機に土地と建物を購入し、それぞれ2分の1ずつの持分で登記しました。住宅ローンは借入金額4,500万円で、夫婦の収入を合算して借りています。毎月の返済額は13.6万円です。

しかし、夫側の原因により、やがて夫婦は離婚。妻は自宅を出て、夫がそのまま住み続ける形になりました。離婚時には「今後、住宅ローンは夫がすべて支払う」と夫婦間で約束していたものの、数年後に夫が住宅ローンを支払わなくなってしまいます。

ここで重要になるのが、夫婦間の約束ではなく金融機関との契約です。たとえば、連帯債務で借りている場合、離婚しても元妻が連帯債務者である事実は原則として変わりません。

夫婦間で「今後は夫が全額返済する」と合意しても、それだけでは元妻を金融機関との契約から外すことはできません。

ペアローンでも似た問題が起こり得ます。ペアローンは夫婦がそれぞれ別々に住宅ローンを契約する仕組みですが、商品によっては互いに相手の連帯保証人になります。夫が返済を止めれば、元妻が夫のローンについて返済を求められる可能性があるのです。

離婚した」「もうその家には住んでいない」「夫が払うと約束した」など、夫婦間では重要な事実であっても、金融機関との契約は別の話です。

さらに、もしも返済義務を負う立場にありながら延滞が続けば、その情報が個人信用情報に登録され、新たなローンやその他の借入を申し込む際の審査に影響する可能性もあります。

連帯債務やペアローンでは、家を出た元妻まで住宅ローンに縛られ続けるのが現実です。

【事例2】債務者じゃないのに…離婚後、夫の返済延滞で妻が“家を失う”リスク

次は、3人家族のB一家のケースです。夫は38歳・年収450万円で、妻は39歳・年収200万円。二人には、10歳の子どもがいます。

夫婦は、夫だけが債務者となり、借入金額3,800万円で住宅ローンを組みました。毎月の返済額は11.4万円です。妻は住宅ローンの債務者でも、連帯債務者でも、連帯保証人でもありません。

ただし、妻の親から受けた資金援助を自己資金として住宅購入に充て、その負担額に応じて妻も住宅の持分を所有しています。

その後、夫側に離婚原因が生じ、夫が自宅を出て、妻はそのまま住み続けることになりました。離婚時には、「住宅ローンは夫が今後も支払い続ける」と約束したため、妻からみれば、自分は住宅ローンを借りていませんから、夫が約束どおり返済を続ければ、特に問題はないように思えます。

しかし、夫が返済を止めた場合、状況は一変します。

住宅ローンを借りる際、通常は購入した土地や建物に金融機関の抵当権が設定されます。つまり、妻が債務者や保証人でなくても、自宅そのものが住宅ローンの担保になっている以上、「私は借りていないので関係ありません」では済みません。返済が滞り、最終的に担保不動産の処分へ進めば、妻は住み続けたい自宅を失う可能性があります。

住宅ローンの返済義務は夫にありますが、それでも妻が自宅を守ろうとした場合、結果的に夫の住宅ローン返済を肩代わりせざるを得ない状況に追い込まれることもあり得ます。「債務者ではないから安心」とは限らないのです。

【CFPが解説】「家の名義」と「住宅ローン」は別物

この2つの事例で重要なのは、「家を所有している人」と「住宅ローンを返済する人」は必ずしも同じではないという点です。B夫婦の事例からわかるように、返済義務がなくても、自宅が担保に入っていれば影響を受けます。

また、夫婦間で「家は妻のものにする。ローンは夫が払う」と合意しても、自動的に金融機関との契約内容が変更されることはありません。債務者や連帯保証人から外れるには金融機関の承諾が必要です。

では、ペアローンや連帯債務を避け、夫だけの単独債務にすれば安心かというと、そうとはいえません。事例2のように、妻が住宅ローンを借りていなくても問題は生じます。

つまり、住宅ローンの組み方を変えても、「ペアローンだから危険」「単独債務なら離婚に強い」と単純に割り切ることはできないのです。

離婚時は、「家の名義」と「ローンの条件」を必ず確認

実際に離婚が決まったら、まず住宅の名義と持分、住宅ローンの債務者・保証人、ローン残高、抵当権、現在の住宅価格を確認し、「売却するのか」「どちらかが住み続けるのか」を検討する必要があります。

住宅価格がローン残高を上回れば、売却代金で完済する方法があるほか、どちらかが住み続ける場合は、ペアローンや連帯債務を住み続ける側の単独債務へ変更できないか、金融機関へ相談します。

現在の金融機関が一本化を認めなくても、他の金融機関への借り換えによって単独債務にできる場合もあります。当然、新たな審査は必要ですが、「いまの銀行でできない=解決できない」というわけではありません。

また、事例に出てきたような「ローンは夫名義のまま、妻と子どもが住み、夫は別居する」といった形には注意が必要です。住宅ローンは原則として本人が居住する住宅を対象としているため、契約条件に抵触する可能性があります。

金融機関や契約内容によっては一括返済などの対応を求められる可能性もあるため、夫婦だけで判断せず、必ず金融機関へ確認してください。

完璧な「離婚対策」は存在しない…マイホーム購入時に持つべき視点

そして最後に、あえて身も蓋もない結論をお伝えします。夫婦で住宅を購入する以上、完全な離婚対策は存在しません。

もちろん、将来の離婚を前提に住宅を購入する必要はありませんが、だからといって「私たちに限って離婚はない」と考え、借入可能額や住宅ローン減税など目先のメリットだけでペアローンや連帯債務を選ぶのも危険です。

厚生労働省の人口動態統計によると、2024年の離婚件数は18万5,904組。1年間だけでも、これだけ多くの夫婦が離婚しています。

一方で、かつて住宅ローンは最長35年が一般的でしたが、近年は40年、50年という商品も珍しくなくなりました。住宅ローンを組んだ時点では想像もしなかった環境変化が、その後の人生には起こり得ます。転職、収入減少、病気、親の介護、そして離婚もその一つです。

どの住宅ローンを選べば離婚しても絶対に困らないのか――残念ながら、その答えはありません。だからこそ、住宅購入時には「いまの夫婦にとって得か」だけではなく、「将来、夫婦を取り巻く環境が変わった際にも整理しやすい形か」という視点も持っておきたいところです。

離婚時に住宅ローンで揉める原因は、離婚したタイミングで突然生まれるのではありません。住宅を購入したその日に、すでにその種がまかれているかもしれないのです。

市川 貴博

株式会社エフアンドエス・エキスパート 代表取締役

CFP®