「また続かなかった」

「自分は意志が弱い」

ダイエットを繰り返してきた人ほど、そう考えてしまうことがあります。

けれど、体重は意志だけで決まるものではありません。体質、食欲や満腹感、睡眠、ストレス、服用中の薬など、さまざまな要因が重なります[*1]。仕事や家庭の状況が、続けやすさに影響することもあります。肥満症をめぐる誤解は、本人を責めるだけでなく、受診や相談の一歩を遠ざけることがあります[*2]。

糖尿病専門医・指導医の三浦正樹先生に、まず知ってほしい3つの誤解を聞きました。

三浦正樹 みうらまさき 亀田総合病院 糖尿病・内分泌内科 部長。順天堂大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学修了。日本糖尿病学会専門医・指導医、同学会学術評議員。専門は糖尿病、肥満症、内分泌代謝疾患。日本肥満学会(JASSO)、日本肥満症治療学会に所属し、肥満症診療・生活習慣病診療に取り組んでいる。 この監修者の記事一覧はこちら

○誤解1:太っているのは、意志が弱いから

※画像はイメージです

食事や運動が大切であることは間違いありません。しかし、それだけで体重を説明しようとすると、医学的には単純化しすぎです。体重には、遺伝的な体質、食欲や満腹感に関わるホルモン、睡眠、ストレス、服用中の薬などが関係します[*1]。さらに、働き方や家庭環境によって、治療や生活改善を続けやすいかどうかも変わります。

「意志が弱いから」と言われ続けると、本人は相談する前から傷つきます。責められると思えば、病院に行くこと自体が怖くなる人もいます。肥満症を治療の対象として見ることは、本人の努力を否定することではありません。努力だけで抱え込まず、医療と一緒に考えていくことも大切です。

○誤解2:食べる量を減らせば、すべて解決する

食事の量や内容を整えることは治療の土台です。ただ、減量後に体が元の体重へ戻ろうとする反応が起こることも知られています[*3]。以前より食べていないのに体重が戻る、空腹感が強くなる、同じ努力を続けているのに結果が出にくくなる。こうした変化は、本人の気のゆるみだけでは説明できません。

だからこそ、必要なのは「もっと我慢してください」で終わる指導ではなく、体重、血糖、血圧、睡眠、生活リズム、薬の影響などを含めて、続けられる方法を一緒に考えることです。

○誤解3:薬に頼るのは逃げである

肥満症治療薬については、「薬で痩せるなんて」と受け止められることがあります。しかし、条件を満たす場合に、医師の診断・管理のもとで薬物療法が選択肢になることがあります[*4][5][6]。これは「逃げ」ではなく、医師が必要性と安全性を見ながら行う医療です。

一方で、薬は魔法ではありません。食事、運動、睡眠、生活リズムの見直しが土台にあります。また、インターネットやSNSで見かける「痩せる薬」を自己判断で入手したり、中止したりすることは避けるべきです。適応や使い方は人によって異なるため、必ず医師に相談してください。

○家族に必要なのは、体重への正論ではなく、相談できる入口を一緒に作ること

「意志が弱い」と片づける前に、まず知ってほしいのは、肥満症は、責めるより先に相談してよい病気ということです。

家族にできることは、正論をぶつけることではありません。「一緒に健診結果を見よう」「相談できる先生を探してみよう」と、受診の入口を作ることです。肥満症の治療は、体重を減らすことだけが目的ではありません。外来では、「子どもが成人するまでは元気でいたい」「まだまだ働きたい」といった声もよく聞かれます。治療は、そうした人生の目標を実現するための選択肢の一つでもあるのです。

■参考

[*1]日本肥満学会 編. 肥満症診療ガイドライン2022. ライフサイエンス出版; 2022.

[*2]Puhl R, Suh Y. Health Consequences of Weight Stigma: Implications for Obesity Prevention and Treatment. Curr Obes Rep. 2015;4(2):182-190. doi:10.1007/s13679-015-0153-z. PMID:26627213.

[*3]Sumithran P, Prendergast LA, Delbridge E, et al. Long-Term Persistence of Hormonal Adaptations to Weight Loss. N Engl J Med. 2011;365(17):1597-1604. doi:10.1056/NEJMoa1105816. PMID:22029981.

[*4]日本糖尿病学会・日本内分泌学会・日本循環器学会・日本内科学会・日本肥満学会・日本肥満症治療学会. 肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント. 2023-11-25.

[*5]厚生労働省. 最適使用推進ガイドライン セマグルチド(遺伝子組換え)(販売名: ウゴービ皮下注). 令和5年11月(令和7年5月改訂).

[*6]厚生労働省. 最適使用推進ガイドライン チルゼパチド(販売名: ゼップバウンド皮下注)〜肥満症〜. 令和7年3月(令和8年5月改訂).