(※写真はイメージです/PIXTA)

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残される家族に迷惑をかけないように……そういう想いから終活を行う人が増えています。なかには自宅も売却し、終の棲家として老人ホームに入居する人も。そこまでくると御の字……というわけではないようです。

お金を残すつもりはないと父は「高級老人ホーム」への住み替えを決断

内閣府『令和6年版 高齢社会白書』によると、住み替えの意向を持つ高齢者は全体の30.4%*。家族の形態別にみていくと、二人以上世帯では28.4%に対し、単身世帯では37.7%と、10ポイント近い差があります。高齢者のひとり暮らしは何かと不安があり、住み替えを希望している、ということでしょうか。

*「住み替えの意向がある」と、「現時点ではその意向はないが、状況次第で将来的に検討したい」の合計

住み替えの意向を持つようになった理由としては、「健康・体力面で不安を感じるようになったから」24.8%を筆頭に、「自身の住宅が住みづらいと感じるようになったから」18.9%、「自然豊かな環境で暮らしたいと思ったから」10.3%、「買い物が不便になったから」10.2%と続きます。

斉藤隆さん(仮名・78歳)も、ひとり暮らしの不安から住み替えを希望したひとり。5年前に妻を亡くして以来、自宅でひとり暮らしをしてきましたが、終活の一環として高齢者には住みにくい住まいを売却。老人ホームへの入居することを決めたといいます。

――家を残しておいても、誰も住んでくれないから

そう、3人いる子どもたちにチクリ。住み替え先の候補としては、「シニア向けマンション」もありましたが、これから先、病院や介護が必要になった際に安心できるからと、最終的に「老人ホーム」を選択したといいます。

入居を決めた老人ホームは、入居一時金が3,500万円、月額費用が月28万円の住宅型有料老人ホーム。「高級老人ホーム」と紹介される部類に入る施設です。ラグジュアリーなプライベートダイニングのほか、将棋・囲碁ルーム、麻雀ルーム、シアタールーム、ライブラリーなど、設備も充実。栄養にも配慮された食事は、食材を毎朝市場から直送。毎月3回ある企画メニューは、高級レストランのフルコースのような豪華さ。また将来的に要介護となってもグループ内の介護住宅への住み替えも可能だから安心です。

ただ年金が月23万円、貯金が3,000万円ほどあったという斉藤さん。さらに自宅を売却したお金があるとはいえ、少々費用が高いのでは?

――ケンカの元になるから、財産を残すつもりはない。あの世にも持っていけないから、死ぬまでに使いきるつもり。人生最後の贅沢だと考えたら、ちょうどいい費用感

終活を万全にこなし「高級老人ホーム」に入居していった父だったが…

「昔からドがつくほど、ケチだったんですよ」と長女の裕子さん(仮名・53歳)がいうように、無駄だと思うことには1円も払わないが信条だった斉藤さん。自宅を売却する手続きも、老人ホーム入居の手続きも、すべてひとりで進めていったっといいます。

――少しくらい、相談があってもいいと思いますが、もう諦めています。あれが父なんで

――意思がはっきりしていて、自分ですべてやるので、助かるといえば助かりますが……

株式会社NEXERが60歳以上の全国の男女に対し行った『終活の必要性に関するアンケート調査』によると、「終活が必要か?」の問いに対して、82.4%が「はい」と回答。「家族や遺族に迷惑をかけないため」など、残される家族の負担を考える意見が目立ちました。また終活が必要と考える人たちのうち、実際に終活をしている/予定がある人は24.1%。具体的にしていること/しようと思っていることとしては、「財産・遺産の整理」が48.5%と圧倒的。ほか「荷物の整理」16.0%、「エンディングノートの準備」13.8%、「医療や介護の準備」9.8%と続きます。斉藤さんのように自宅の整理を自分でする人/する予定の人は、結構多いと考えられます。

準備万端が整い、自らが選んだ高級老人ホームに入居した斉藤さん。さぞ優雅な生活を送っているかと思えば、そうではなかったと長女の裕子さん。それは斉藤が老人ホームに入居してから半年ほど経ったある日のこと。夜11時をまわったころ、斉藤さんから電話があったそうです。

――そんな時間に電話が鳴るとドキッとするじゃないですか。ただ話はなんてことのない世間話で。ちょっと変だなと思ったんです

なぜ、世間話をするために夜の11時に電話をかけてきたのか……そこでふと、裕子さんが気付いたといいます。

――お父さん、もしかして泣いてるの?

裕子さんの問いかけに対して、最初は「久しぶりに声を聞いてうれし涙」といっていた斉藤さん。ただ、やはり様子がおかしいと感じた裕子さんが話を聞いていくと、斉藤さんから「今すぐ帰りたい。老人ホームを退去したい。しばらくおいてくれないか」と本心がポロリとこぼれたといいます。

――なんでも、ホームには話し相手もいないというんです。本当に寂しかったんでしょうね

と少々あきれ顔の裕子さん。斉藤さんいわく、入居者は元医師、元弁護士、元議員など、明らかに住んできた世界が違う人たち。話がなかなか合わず、段々と入居者と顔を合わせるのもツラくなり……最近はダイニングで食事を取ることもなく居室の備え付けのキッチンで自炊することが多いのだとか。

――何のために、高い金を払っているのかわからない

自宅を売却したので戻るところもなく、裕子さんに泣きついてきたという顛末。仕方なく、裕子さん宅に転がり込んだ内藤さん。今度は身の丈にあったホームへの入居を目指し、裕子さんとも施設の見学に行っているといいます。

老人ホーム選びでは見学は必須。しかし入居者との相性までは見学では見極めが難しいところ。入居者について個人情報の観点から詳しくは教えてもらうことはできませんが、どのような"層”が多いかは聞いてみるといいかもしれません。

[参考資料]

内閣府『令和6年版 高齢社会白書』

株式会社NEXERとイオンのお葬式『終活の必要性に関するアンケート調査』