「めざましテレビ」でのCM中の未公開映像。上垣皓太朗アナウンサーと先輩アナウンサーたちとのやりとりが批判を浴びてしまった(画像:公式YouTube「めざましmedia」より)

10月31日、フジテレビは、公式YouTube「めざましmedia」の動画で入社1年目の上垣皓太朗アナに対する発言が物議を醸していることを受けてコメントを発表。

動画の目的について「上垣アナの奮闘ぶりを伝えたいという事で、OAされていないCM中のやりとりを制作側の判断で編集し公開しました」と意図を説明し、「今回寄せられたご指摘を真摯に受け止め、今後はより一層コンテンツ制作に留意してまいります」とつづりました。

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「イジリ」と言い切れない背景

あらためて経緯を振り返ると、事の発端は今年7月12日に公開された「新人 上垣皓太朗アナ『めざましどようび』お天気キャスターデビュー!」という動画。この中でCM中に3人の先輩アナから上垣アナの容姿をイジるようなシーンがあり、3カ月あまりが経過した今になってネット上で切り抜き動画が拡散され、猛烈な批判を浴びています。

通常「めざましmedia」の動画は数千回から多くても5万回程度の再生数ですが、上垣アナのお天気キャスターデビュー動画は約230万回。反響が大きくなるとともに批判が増え、中には目を覆いたくなるようなものも少なくありません。

そんな批判の声を受けて、フジテレビは動画のコメント欄を閉鎖。さらにイジリ発言をしたとみられる西山喜久恵アナと阿部華也子アナのインスタグラムもコメント欄が閉鎖されています。

今回の騒動ではいったい何が問題なのか。逆に見落とされている問題はないのか。上垣アナの起用、それを扱うメディア、男性アナウンサーの現実など、さまざまな角度から本質を掘り下げていきます。

動画の内容を振り返ると、問題となっているのはCM中のやり取り。

「FNS27時間テレビ」のTシャツに着替えた上垣アナに対し、先輩の西山喜久恵アナ、生田竜聖アナ、阿部華也子アナが「すごい似合わないね、Tシャツが」「ポップなTシャツが似合わないね」などと反応しました。

上垣アナは「あれ? 本当ですか? 個人的にはすごく似合っていると思いました」と返しましたが、話題は2001年生まれの23歳であることに移り、「2001年? 信じられない」「絶対嘘つきだよ」などと笑って話す様子が映されていたのです。


中継先の上垣アナと雑談を交わすスタジオの面々(右から西山喜久恵アナ、生田竜聖アナ、阿部華也子アナ)。上垣アナのTシャツ姿と年齢にツッコミを入れた(画像:公式YouTube「めざましmedia」より)

ネット上の批判で最も目立つのは、「容姿イジリは許せない」「このイジリ方はイジメではないか」という声。自分が容姿に関するイジリを受けたことがある人もいるでしょうし、それをイジメと感じた人もいるのかもしれません。ただそれでも今回の件は言葉だけを取って「イジリ」「イジメ」と断罪するには多少の無理があります。

その理由は主に以下の3点。

1つ目は、上垣アナがメディアの出演者であり、さらにお天気キャスターデビューのタイミングだったこと。メディアの出演者は顔と名前を覚えてもらうところからスタートしますが、その際、出演者やスタッフからさまざまな形で盛り立ててもらい、番組の一員として認識されていくというステップを踏んでいきます。

上垣アナでいえば入社した4月の段階から新人らしからぬ落ち着いたたたずまいと言動がフィーチャーされ、動画で問題視されている発言につながる流れがありました。つまり、「まずはこのキャラクターで視聴者に顔と名前を覚えてもらい、現場の共演者やスタッフにも溶け込んでいこう」というコミュニケーションの入り口としての要素があったのです。

動画の前からキャラが浸透していた

また、上垣アナがどんなに落ち着いて見えても、当時は入社3カ月程度の新人。さらに兵庫県生まれで大阪の大学に通っていたため、東京での生活がはじまったばかり。技術や経験の差に加えて、すでに関係性が構築されている東京の現場に後から入ることは簡単ではないでしょう。

本人が緊張していたかどうかはわかりませんが、動画を見る限り、3人の先輩アナは「緊張をほぐしてあげよう」という意味も込めてあのような言葉をかけた様子が伝わってきました。

もともと生放送におけるCM中の会話には「本番での緊張をほぐす」「表情や口元をゆるめる」などの意味合いもあり、「デビューとなる上垣アナのために沈黙を避けよう」という意図が感じられます。もちろん違う言い方もできたでしょうし、その点は多少の指摘を受けても仕方がないところでしょう。

問題視されているやり取りがCM中だったことを「裏でイジめている」と批判している人もいますが、3人の先輩アナは動画用のカメラで撮られていることはわかっていたのではないでしょうか。また、それ以前にスタジオの出演者たちには「つねに見られている」という意識があり、本当に「イジリ」「イジメ」をしたいのならスタジオの外でするでしょう。

「イジリ」「イジメ」と断罪するには無理がある2つ目の理由は、上垣アナのキャラクターが局内外ですでに知られはじめていたこと。

前述したように入社の段階から、ベテランのような落ち着いた声と振る舞い、髪型とメガネ姿などが番組やネット記事でたびたび取り上げられていました。

また、上垣アナ本人も、「銭湯での長風呂、AMラジオを聴く、地形図を見ながら街歩き(高低差のある地形を偏愛)」などの渋い趣味を語ったほか、教員免許、防災士、二級小型船舶免許、酒類販売管理者の資格取得を明かすなど、新人アナのイメージを覆すような姿を見せています。

本人に聞いてみなければわかりませんが、もしかしたら「外見もそんなキャラクターに合わせて自分で選んでいる」という可能性もあるでしょう。

同じ動画で語られた称賛の言葉

もちろん実力や真摯な姿勢もあるでしょうが、そんな異色のキャラクターも加わって、上垣アナは27日の衆議院選挙特番「Live選挙サンデー 超速報SP」の深夜部門で開票キャスターを務めました。選挙特番では史上最短での起用であり、期待のほどがうかがえます。

そんな上垣アナのキャラクターは、すでに視聴者の中にも知っている人がいたくらいですから、先輩アナ3人が認識していないわけがありません。先輩アナウンサーは面接や研修にかかわることも多く、上垣アナほどの個性を見過ごすとは思えませんし、「本人も前面に出しているところをあえて口にすることでアシストしようとした」とみなすのが自然でしょう。

少なくともYouTube動画とはいえ、わざわざカメラの前で「イジリ」「イジメ」をするほど3人の先輩アナはメディアの素人ではないはずです。

今回の動画は一部を切り抜いて拡散されていますが、3人の先輩アナは上垣アナに温かい声もかけていました。放送後のコメントでも、生田アナが「よかったですよね」、西山アナが「すごい落ち着いてたよ」、生田アナが「ベテラン。声が仕上がっている」、阿部アナが「本当に何とも聞き取りやすいなと個人的には感じました」とコメントしていました。


上垣アナの中継が「落ち着いていた」と評価する3人(画像:公式YouTube「めざましmedia」より)


3人はその後、中央に上垣アナを招き入れる労いも見せた(画像:公式YouTube「めざましmedia」より

これらも問題視されているコメントも、同じYouTube動画用のカメラで撮られたものであり、一方だけを切り取って「裏の顔」とみなし、「イジリ」「イジメ」と決め付けるのはアンフェアでしょう。

「イジリ」「イジメ」と断罪するには無理がある3つ目の理由は、前述した2つの理由をスルーし、自分の価値観に置き換えようとする姿勢が見られること。

「イジられて本人は嫌がっている」「イジメられても『NO』とは言えない立場」などと先輩アナやフジテレビを批判している声が散見されますが、それは上垣アナ本人が言ったわけではなく、あくまで第三者の推測にすぎないでしょう。

過剰な反応で失われる成長機会

そもそも「イジリ」「イジメ」が成立するかどうかは本人が決めるべきもので、「こう思う人が多い」という数の論理ではありません。性格、価値観、立場などには個人差があり、特にテレビの出演者を自分のそれらと比べるのは難しいところがあります。

「みんなそうだから」「これくらい常識」「今はそういう時代」という免罪符のようなフレーズをつけて「イジリ」「イジメ」と断定する声も目立ちますが、これらを使う人ほど当事者の心理を考えず、自己肯定感がにじみ出る傾向があります。

ただ現在の世の中は、「そう断定したくなるほど、多くの人々にとって生きづらいもの」ということなのかもしれません。

ともあれ間違いないのは、上垣アナ本人の意思が優先されるべきであること。このまま騒動が大きくなるほど、上垣アナは本音を語りにくくなり、居心地の悪い日々を過ごしていくでしょう。

その割合こそわかりませんが、業界を問わず新社会人の中には、「なじむきっかけがほしいのでイジってほしい」という人もいます。実際、筆者の周囲にも「逆に距離を取られるほうが寂しい」「気をつかわれすぎたり、注意されなかったり、食事に誘われないほうが自分のためにならない」と話す新社会人が何人かいました。


「2001年生まれです」と年齢を言い、周りが驚くのがお決まりのパターンとなっていた(画像:公式YouTube「めざましmedia」より)


上垣アナも先輩たちからツッコまれ、楽しそうに返しているように見える(画像:公式YouTube「めざましmedia」より)

本音を語りにくくなること以上に懸念されるのは、第三者の過剰な反応が本人の負担になりそうなこと。たとえば今回の件で、もし先輩アナやスタッフが上垣アナと距離を取りはじめたら、成長する機会を奪われかねません。また、共演するタレントの中にも、批判を恐れて最小限のやり取りにとどめる人がいても不思議ではないのです。

新社会人にとって「腫れ物扱い」されることがどれだけマイナスなのか。上垣アナのような意欲的な23歳の若者には気の毒な状況になってしまいました。今後しばらくは「外見に関するコメントがNG」になりそうなことも含め、もはや本人が窮屈な思いを強いられることは避けられないでしょう。

それどころか、ちょっとした失言をしただけで「こんな人だと思わなかった」と批判の矢印が180度回転し、上垣アナに向かいそうな危うさすら感じさせられます。

公平性を欠くメディアの編集姿勢

今回の騒動を見ていてもう1つ「見逃せない」と感じたのはメディアの報じ方。今回に限った話ではないものの、明らかに「批判をあおってPVを得よう」という姿勢が見られる記事が続出しているのです。あまりにひどい内容なのでメディア名は書きませんが、Yahoo!ニュースとして扱われた主な記事のタイトルを並べてみましょう。

「『感覚終わってる』フジ上垣アナへの『老け顔イジリ』動画が炎上 アナ同士の茶番劇も…内輪ノリの痛恨代償」

「『嫌な人たち』フジ新人アナ、先輩3人からの『似合わない』容姿いじりに『見下してる感すごい』批判殺到」

「『これこそイジメだよ』フジの新人・上垣アナを揶揄した先輩女子アナが炎上後に見せた“異変”」

「『もはやイジメ』生田竜聖アナらが後輩アナの容姿をいじり不快炎上、公にするフジの危険な感覚」

「『本当に酷い』フジテレビ 新人アナへの容姿イジり、半同棲ネタ動画も炎上…相次ぐ“時代遅れな悪ノリ”」

「『余計に印象悪い』『卑怯やな』新人アナに“容姿いじり”で大炎上中の女子アナら…“火消し対応”の方法に厳しい視線」

「フジ局アナの“半同棲否定&容姿いじり動画”の内輪ノリ…昭和的価値観に視聴者ゲンナリ」

これらは一部にすぎませんが、悪質なのは「ネット上のネガティブなコメントだけをピックアップしてタイトルに使用している」こと。メディアとは思えない公平性を欠いたスタンスの編集部がそれだけ多いということでしょう。

しかもネット上のコメントを使ってひどい言葉を並べて引きつけながら、「自分たちは言っていない」と責任逃れするような書き方もメディアとしては批判されるところです。

ネガティブな感情を蓄積させる人が増加

2010年代前半あたりからネット上では、「フジテレビは内輪ノリ、時代錯誤、ハラスメントがひどい」が定番の叩き方となっていました。特にアンチテレビ派の反応を誘ってPVを伸ばすものとして、すでに10数年にわたって使われてきた手法です。そろそろこのような一部メディアの利己的な戦略に気づき、これに乗らないほうがいいのではないでしょうか。

また、筆者の元には4月の段階から「上垣アナについて書いてほしい、コメントがほしい」という依頼が複数のメディアからありました。「この段階で新人アナを扱うのは本人にとって不利益になるから」と丁重に断りましたが、「数字が取れるかも」という理由だけで採り上げようとするメディアは少なくありません。

上垣アナにとっては人生における重要な一歩を踏み出す時期であり、メディアが足を引っ張ることは避けるべきでしょう。

筆者は長年、悩み相談のコンサルをしてきましたが、その2010年代前半あたりからネガティブな感情を蓄積させる人が明らかに増えました。中でも、自分の人生に直接関係のない人々への批判は、心の中に攻撃性や後ろめたさなどを蓄積させる最たるもの。

「こういうことを書いたらこれくらい傷つける」とある程度わかっていながら無関係の人を叩くのですから、自らの残酷さを自らの心に刻みつけているようなものなのでしょう。

「いつか自分も叩かれるかもしれない」という怖さを抱えて生きることにもなりますし、あおるメディアとそれに乗る人々の共犯関係に流され、自分の感情や人生を乱されているとしたら何とももったいない話です。

【画像】いじめに見える? フジ新人・上垣アナに対する「“いじり”の場面」

報われづらい「男性アナ」の実情

最後に挙げておきたいのは、男性アナウンサーをめぐる現実。女性アナウンサーの話題は多く、PVが稼げるネタとして定着していますが、男性アナウンサーはそうとはいえません。

番組でもメインは女性アナウンサーになりがちで、男性アナウンサーがフィーチャーされるのはミスやスキャンダルなどのネガティブな話題が多く、技術やプレッシャーの割に報われづらい立場という感は否めないところがあります。

これまで各局の男性アナウンサーたちと接する機会が何度もありましたが、彼らは総じてマジメで謙虚。現場では同じ局員から使われる側の立場になり、忠実かつ確実に任務をこなさなければいけません。同期や後輩が各部署で出世していく中、プライドという点も含めて、「ミスはできない」という意識は男性アナウンサーのほうが強く感じられます。

だからなのか男性アナウンサーには「テレビ番組の出演者」という華やかなイメージはなく、彼ら自身「自分はスタッフの1人」と語る人が少なくないのです。

上垣アナが類いまれな才能の持ち主であることは間違いなさそうですが、それでもこれから徐々に男性アナウンサーならではの難しさを感じていくのでしょう。

私たちはSNSに感情的な言葉を書き込むのではなく、その姿をテレビ越しに見守るくらいの穏やかなスタンスでとどめておきたいところです。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)