WordPressのオープンソース開発プロジェクトであるWordPress.orgの所有者でAutomatticのCEOでもあるマット・マレンウェッグ氏の発言をきっかけに、WordPress.orgならびにAutomatticがウェブホスティングサービスを提供するWP Engineと激しい論争を繰り広げ、争いの舞台はついに法廷にまで発展しています。そんな中、WordPress.orgに14年以上にわたって貢献してきたエンジニアのクリス・ウィーグマン氏が、WordPressとの決別を宣言しました。

So Long WordPress - Chris Wiegman

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ウィーグマン氏はセキュリティ技術企業のSuperFileでエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めています。同時に14年以上にわたってWordPressのコアコーディングやプラグインの開発に携わっており、またWordPressの公式求人サイトのモデレーターを11年以上務めてきたとのこと。また、前職ではWP Engineでソフトウェアエンジニア主任を務めていました。



しかし、ウィーグマン氏は2017年頃からWordPress関連プロジェクトから徐々に距離を置き始めていたと述べています。その理由として、「多くの人々が人生を捧げてWordPressに貢献してきたにもかかわらず、マレンウェッグ氏の望む方向性と異なるという理由だけで、その重要な仕事が無駄にされてきました」と述べています。

特に、プライバシー、アクセシビリティ、ガバナンスなどの重要な分野で、ユーザーを保護しコミュニティを強化しようとした善意の人々の貢献が無視されただけでなく、基本的な提言を行ったことで貢献者たち自身が虐げられ、コミュニティから追放されていく様子を目撃してきたとのこと。



また、ウィーグマン氏はWordPress関連企業についても厳しい指摘をしており、多くの企業が「より良い」待遇を約束しながら、実際には従業員に低賃金で働かせていたと述べています。著名な製品会社から有名なエージェンシーまで、「あなたは離職するほど優秀ではない」といった脅しを使って、低賃金と低待遇を正当化していたと指摘しました。

特に、WordPressを収益化するために法人化されたAutomatticに関しては、カルトのような組織が形成されていったとのこと。ウィーグマン氏自身、2014年にAutomatticへの就職を検討していたものの、先に就職していた友人がひどい扱いを受けていたことから、Automatticへの信頼は薄かったそうです。その後、Automatticの有給トライアルには参加したものの、結局トライアル開始前に見つけた就職先を選択したとのこと。



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また、ウィーグマン氏は2018年にWP Engineに入社したそうで、その理由について「WP Engineが唯一、自社の本質について正直な企業だったから」と評価しています。WP Engineは他の企業のように「家族」という言葉で従業員を束縛したり、「非WordPressの組織より優れている」と主張したりすることなく、最大のホスティング企業になることを目指し、WordPress業界で最高の給与と興味深い仕事を提供していたそうです。

ウィーグマン氏は、マレンウェッグ氏の行動の偽善性を指摘し、「こうした行動は10年以上Automatticを見てきた人々にとっては驚くようなことではありませんが、今回のWP Engineとの一件が最後の一線になりました」と述べています。ウィーグマン氏は、友人たちが虐げられていた時点でWordPressから離れるべきだったと認めており、自分がこの状況を改善できると考えていたのは純朴過ぎる判断だったと振り返りました。



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また、WP Engineについては、「WordPressとオープンソースの世界において、完全に無罪とは言えません」と認めていますが、マレンウェッグ氏やAutomatticがWP Engineに対して行っている攻撃は度を超えているとウィーグマン氏は指摘。この状況はWordPressの本質、つまり「無償の仕事を得るために他の企業や組織を虐待する、捕食的な組織」であることを世界に示すものだと述べています。

ウィーグマン氏は、自身が関わっていた最後のWordPress関連のプロジェクト開発環境「Kana」や自身のサイトのテーマを、WordPress.orgに適切なガバナンスが確立されるまでアーカイブ化すると宣言。さらにMeetupやその他のWordPressイベントへの貢献を停止し、公式求人サイトのモデレーター業務も終了するとのこと。ただし、「インターネット全体の巨大なシェアを目指すという過度な野心が抑制されること」「プロジェクトが主張する美徳の精神に沿った適切なガバナンスが確立されること」が満たされた場合、この決定を再考する可能性があるとしています。

最後にウィーグマン氏は、WordPressに残る多くの善良な人々に対して、長年の会話とサポートへの感謝を述べています。WordPressを全体として批判的に捉えているものの、個人レベルや小さなコミュニティレベルでは多くの人々がWordPressのために多大な貢献をしてきたことを認め、今後どこに活動の場を移すことになっても、これらの人々との会話やサポートを継続していきたいと表明しました。