日本人はいつの間にか「働き過ぎ」ではなくなっていた…年間労働時間「200時間減少」のワケ
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか?
なぜ給料は上がり始めたのか、経済低迷の意外な主因、人件費高騰がインフレを引き起こす、人手不足の最先端をゆく地方の実態、医療・介護が最大の産業になる日、労働参加率は主要国で最高水準に、「失われた30年」からの大転換……
話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。
(*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
変化6 急速に減少する労働時間
労働力は経済の最も大きな投入要素であるから、経済を拡大させようと考えるのであれば労働投入量を増やす必要がある。しかし、個々人の厚生を考えれば、いくらたくさんの稼ぎが得られたとしても、生活のほとんどを仕事に費やす人生は決して豊かなものとは呼べない。近年、人々が働く時間には大きな変化がみられる。ここでは、労働者の労働時間の変化を探る。
労働時間は大きく減少している
長い間、日本は国際的にみても労働時間が顕著に長い国であった。しかし、近年、日本人の労働時間は長期的に減少を続けている。
図表1-23で主要国の労働時間の推移を取っているが、国際的にみても日本の労働時間の減少は際立っている。2000年当時は年間1839時間と平均的日本人は米国人と並んで長時間労働をしていたが、足元の2022年には1626時間と欧州先進国の水準に近づいてきている。
2000年から2022年までの労働時間の減少率も11.6%と、6ヵ国間で最大の減少率になる。さらに、減少率も逓減しているわけではなく、ここ数年は減少の勢いが加速しているという点でもかなり特異な状況にあると言える。
特に近年では、2019年の働き方改革関連法施行もあり、長時間労働の是正や有給休暇や育児休業の取得促進など労働条件改善の動きが広がっており、働き盛りの労働者の働き方は大きく変わっている。
総務省「労働力調査」から、性・年齢階層別に労働時間の変化をみても、あらゆる年齢層で労働時間が減少していることが確認できる(図表1-24)。
特に男性若年層の労働時間の減少が顕著になっている。20代男性の週労働時間は2000年時点の46.4時間から2023年には38.1時間まで減少している。20代は進学率の上昇なども影響しているとみられるが、同様の傾向は30代男性も確認される。30代男性は2000年の50.9時間から2010年の48.1時間、2023年には43.6時間まで減少した。実際に多くの企業で長時間労働が是正されており、このような変化を実感できる企業人は多いだろう。
労働時間の減少は賃金水準にも影響を与える。たとえば、ある会社の新入社員の年収水準が現在と20年前で変わっていなかったとしても、週労働時間が50時間から40時間に減っていれば、その人の時給水準は25%上昇する。こうした事象が日本全国の企業で起こっていると考えられる。
残業に対して本来支払うべき割増賃金が支払われていない、いわゆるサービス残業についても近年かなり減ってきていると考えられる。
サービス残業の実態は事業所が管理していないことから把握が難しいが、労働政策研究・研修機構が2011年に行ったアンケート調査によると、月間平均サービス残業時間は非管理職で13.2時間、管理職で28.9時間にのぼっていた。当時の月間総労働時間に占めるサービス残業の比率は、非管理職で7.1%、管理職が15.6%となっており、日本人の賃金に与えていたインパクトは相当大きかったはずだ。
これが現在どのくらいの水準になっているかは不明である。ただ、おそらくはサービス残業は近年大幅に減少しているだろう。統計上、労働者に回答を得る労働力調査などではサービス残業を含めて労働時間を捕捉できているはずである。しかし、毎月勤労統計調査など事業所が回答を行う各種賃金統計に関しては、法令違反であるサービス残業は反映されない。
こうした点を踏まえれば、本来の時間当たりの賃金は、毎月勤労統計調査などから算出される水準以上に上昇しているのが実態だと推察することができる。
つづく「意外と知らない、新入社員の「働くこと」に対する意識の変化《「人並みで十分」がこの20年で増加》」では、「新入社員『働くことの意識』調査」の結果やケインズの予言などから日本人が働かなくなった背景を掘り下げる。