「萩生田さんをみんなでいじめて…でも負けやしない」誇りだった‟八王子の元ヤン”激戦東京24区に市民大困惑「いや地元の恥だ」

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 衆議院選挙が始まり各地で激戦が繰り広げられている。時事通信が石破茂内閣発足後初めて行った世論調査では内閣支持率28%と内閣発足時の支持率としては2000年以降で過去最低だった。逆風が吹く中、自民党は裏金問題を巡り12人の議員の非公認を決めた。そのいずれの議員も厳しい闘いを強いられているとされる。そんな中でも注目が集まっているのは東京24区(八王子の一部)だ。前職の萩生田光一氏は今回の選挙で自民党から非公認となった議員の一人。そこにSNSで裏金問題を厳しく追及してきた立憲民主党の有田芳生氏ら5人の新人が立ち向かう。ルポ作家の日野百草氏が取材した――。

「再出発」「八王子の声を届ける」「八王子の土になる覚悟」

 10月15日、八王子駅北口は物々しい雰囲気。一部では道行く人に職務質問や荷物検査が行われていた。

 都内屈指のターミナル駅だけに昼夜問わず人通りが多い。しかし今日は普段以上の人だかり、警察官やSP、選挙運動員らによる警備体制も万全だ。

「おはようございまーす」

 選挙カーの上には応援弁士らと手を挙げる笑顔の無所属、萩生田光一元自民党政調会長の姿があった。

 東京都八王子市。人口58万人(八王子市公式HP・「市長挨拶」より)を誇る東京都唯一の中核市が、いまこの萩生田氏と中央政界の激震に揺れている。

 その良くも悪くもその中心人物である萩生田氏、八王子の一部を選挙区とする東京都第24区で「再出発」「八王子の声を届ける」「八王子の土になる覚悟」と気炎を上げた。「そうだ!」という支援者らしき声も飛んだ。

地元出身で文部科学大臣、経済産業大臣にまで上り詰めた叩き上げ

 それにしても八王子市、本当に広い。地域によってまったく別の顔を見せる。選挙もまた難しい地域だ。

 実際、八王子市東南の一部選挙区は24区でなく立川市や日野市とともに東京都第21区(2022年公職選挙法改正以降の区割り)になっている。この辺りの「八王子市民」となると八王子市街より多摩市街(多摩センターなど)や立川市街のほうが一部に京王相模原線や多摩モノレールなどあるため至便かもしれない。

 西部の高尾山、陣馬山からそういった都市部、巨大ベッドタウンまでとにかく広く、58万人の「文化圏」も「都合」も様々なのが八王子市だ。

 萩生田氏はそんな八王子の「ドン」として君臨してきた。八王子生まれの八王子育ち、若いころは相当な「やんちゃ」で何度も停学を食らうなど武勇伝も数しれず、早稲田実業から一浪で明治大学商学部二部(夜間)卒、八王子市議会議員から東京都議会議員、そして衆院議員となり文部科学大臣、経済産業大臣にまで上り詰めた「叩き上げ」の人物である。

 今回の衆院選第一声でも「この街に生まれ、この街に育ち、この街で政治家としてお育て頂いて」と地元愛アピールを繰返していた。

「みんな悪いことやっているのに萩生田さんばっかり言う」

 隣で聞き入っている高齢女性に尋ねると、地元の萩生田氏を「ずっと応援している」とのこと。

「萩生田さんをみんなでいじめているね。みんな悪いことやっているのに萩生田さんばっかり言う。でも負けやしないよ」

 あとから気づいたが高齢女性は同じような年代の女性たちとグループだった。支援者の方々なのだろう。

 その萩生田氏、自民党派閥の裏金問題は安倍派の幹部として2728万円もの裏金作りが発覚した。安倍派で言えば5000万円超の裏金で在宅起訴、自民党離党の大野泰正参院議員、約4800万円の裏金で逮捕された池田佳隆氏、約4300万円の裏金で議員辞職した谷川弥一氏、約3000万円の裏金で党の役職停止、自民党非公認となった三ツ林裕己衆院議員に次ぐ金額である。政治倫理審査会の説明もなされていないとして自民党の公認もされなかった。

 もっとも引退の二階俊博氏(裏金3526万円)を除けば裏金上位は萩生田氏の次も山谷えり子参院議員、堀井学氏、橋本聖子参院議員と安倍派だらけというか、自民党裏金議員のほとんどは安倍派だったわけだが、その中でもとくに悪質で影響の大きかった議員らが無所属での出馬を余儀なくされた。

 もちろん、萩生田氏もその中のひとりである。

「そうだ!」

「萩生田さん!」

 また女性の声。高齢女性の集団だ。萩生田氏の動員力、さすがというべきか。

地元愛の強い地域「萩生田さんを応援する集まり」

 八王子は多摩地域の中でも地元愛の強い地域とされる。古く戦時中までの東京府時代には東京市(現在の東京区部の大半)と八王子市の東西二大市制を張っていた時代もあった。「八王子魂」を公言する出身者、タレントのヒロミさんも萩生田氏とは「元・やんちゃ」で親しく、かつて「萩生田さんは内閣に入って」とバラエティ番組で応援言及することもあった。

 それにしても萩生田氏、地元の組織力は半端ないように思う。

 萩生田氏は公明党の推薦も見送られた。公明党の支持母体とされる創価学会は八王子と縁が深く創価大学や東京富士美術館、牧口常三郎初代会長の名を冠した東京牧口記念会館など関連施設も多い。しかし萩生田氏は旧統一教会との関係を取り沙汰されたため公明党=創価学会の支持も表立っては難しいとされる。

 それでもこの活況、萩生田氏が1991年に初当選となった八王子市議会議員時代から四半世紀以上、その地盤たるや伊達ではない。

「八王子の恥ですよ。別にこの人じゃなくてもいい」

 応援といえば萩生田氏、非公認にもかかわらず自民党関係者も多数駆けつけた。非公認とは何なのか、という感じだが、この日は有村治子参院議員が「党の公認なくても八王子の公認」と演説した。

 故・安倍晋三元首相の妻、安倍昭恵氏も別の場で「主人(安倍元首相)の魂といっしょに来た」と講演、SNSのXでも「萩生田光一さんには何としても当選してもらいたい・・・と主人(安倍元首相)が思ってるはず」とポストするなど、萩生田氏全面応援の立場を明確にしている。

 しかし厳しい声もあった。萩生田氏に抗議するため「ウラ金」など書かれたポスターを手にした者の姿や「裏金!」といったヤジが飛ぶたびに警察やSP、選挙運動員らに動きが出る。少し離れた八王子駅北口にいる若者に話を聞くと一人だけ、こう話してくれた。

「八王子の恥ですよ。別にあの人じゃなくてもいい」

 この会話を聞いていたのか、別の高齢男性が小声で苦笑した。

「あの人(これまでの選挙では)、そんなに八王子のことなんか言ってなかったよ。調子いいんだ」

 しばらくして「勝つぞー!」と萩生田氏らのシュプレヒコールが起こった。どうやら終わりのようだ。

20代の市議会議員時代からどぶ板選挙を厭わない百戦錬磨

 日を改めて、旧知の八王子市議会関係者に話を聞く。

「今回の萩生田さんはなりふり構わない選挙戦だ。有村治子、安倍昭恵、そして丸川珠代や櫻井よしこも応援するなどまあ、わかる人にはわかる、正体バレバレだがそれでいい、という考えなのだろう。八王子の古くからの支持者と特定の団体といったコア層の支持者で乗り切ろうという算段だ」

 東京24区の有権者は約38万人いる。都市部は浮動票が鍵を握る。それで勝てるのか。

「野党が1本化できなかったことは最大の失敗だと思う。立憲、維新、国民、参政、無所属で食い合ってしまう。20代の市議会議員時代からどぶ板選挙を厭わない、百戦錬磨の萩生田さんはやはり強い。まして相手は落下傘候補ばかり」

 立憲民主党は有田芳生氏、日本維新の会は佐藤由美氏、国民民主党は浦川祐輔氏、参政党は與倉さゆり氏、そして無所属の畑尻文夫氏が出馬している。確かに一部報道でも「乱立」とある。

「新人や元職が乱立すると現職が有利だ。せめて萩生田さんくらい生粋の八王子出身なら、と思うが。高齢者を中心に地元民かどうか、そういうのを気にする層も多い」

 確かに萩生田氏も先の演説で「批判のためにこの八王子を選んだ人たち」「批判をするためだけに選挙区を選んだ」と指摘している。

 しかし「よそ者とか関係ない」とする八王子市議会関係者もいる。筆者の知る八王子市民の多くも聞く限り「そういう話ではない」と口々に反発していた。その市議会関係者は「やりたい放題」「あれだけのことをしておいて」と憤る。

八王子がどうこうの話ではありません。日本の話ですよ

「八王子がどうこうの話ではありません。日本の話ですよ。萩生田氏だけではありませんが裏金議員は身内の自民党からも「ノー」を突きつけられたわけです。その重大さをわかっているのでしょうか」

 それについて萩生田氏は先の第一声で裏金問題含め、「市民の皆さんに判断」を委ねると言った。東京24区の前回2021年の衆院選の投票率(小選挙区)は56.77%。東京都全体で57.21%、日本全体で55.93%(戦後3番目の低さ)だったので八王子の投票率が他と比べて低いとかではないが、やはり半分近くの有権者が選挙に行っていない。

 萩生田氏か、他候補か以前に国民の半分近くが投票に行かない。それもまた民主主義というシステムの限り、「やりたい放題」をさせてしまった一因であることは確かなように思う。みなさん選挙、絶対行こう。大前提だ。

 ちなみにお隣の選挙区である八王子の一部と立川、日野の東京21区も裏金問題で自民党非公認となった小田原潔氏が無所属で出馬する。こちらも野党の統一候補は実現せず立憲の大河原雅子氏、維新の山下容子氏、参政の森裕一氏で食い合うこととなった。

 その他、下村博文氏(東京11区)、西村康稔氏(兵庫9区)、高木毅氏(福井2区)、平沢勝栄氏(東京17区)、三ツ林裕己氏(埼玉13区)、中根一幸氏(埼玉6区)、細田健一氏(新潟2区)ら「無所属」で選挙戦に挑むこととなった自民党の裏金議員――自民党そのものの苦戦が予想される中、まさに萩生田氏の言う通り、私たち一般有権者の「皆さんに判断してもらいたい」もまた突きつけられている。