厩務員として競走馬を世話するインダさん(左)と調教師の長南さん(兵庫県西脇市の県立西脇馬事公苑で)

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 地方競馬で競走馬の世話をする外国人の厩務(きゅうむ)員が急増している。

 6年前から採用が始まり、現在は340人を超える。背景には、深刻ななり手不足がある。(南部さやか)

英国や豪州でも経験あり

 競走馬をトレーニングする兵庫県西脇市の県立西脇馬事公苑で8月半ば、インド人厩務員が競走馬にシャワーで水浴びをさせていた。5人のインド人を雇う調教師の長南和宏さん(53)は、簡単な英語と身ぶり手ぶりで指示を出す。

 2021年3月から働くインド人のインダ・ジャラム・シンさん(41)は、妻、12〜8歳の子ども3人と厩舎近くにある寮で暮らす。

 競馬のない平日の勤務時間は、午前1時半〜同8時と午後2〜同4時。馬の健康管理や厩舎の掃除、馬に乗ってトレーニングもする仕事だ。基本給は22万5000円で、レース賞金の一部も収入となる。

 インダさんは、英国や豪州でも厩務員の経験がある。日本は給料がよく、新たな文化を学べると考えた。「子どもたちは学校にすっかり慣れた。日本で長く働きたい」と話した。

英国の影響で盛んな馬事文化

 厩務員は、競馬組合や自治体が面接などで審査し、調教師が雇用する。

 長南さんは、地方競馬の競走馬26頭を厩舎で管理しており、7年ほど前から、外国人を雇いたいと考えるようになった。これまで国内で厩務員を幅広く募集してきたが、次第に希望者が少なくなり、採用できても、2、3か月で辞めてしまうことが増えたためだ。

 だが、他の調教師らの理解は得られなかった。「信用できない」「何かあったら誰が責任を取るのか」と懸念の声が相次いだ。

 そのため、競馬を主催する県競馬組合に、食事など外国人の生活面のサポートなど対応策を提示して2年がかりで説得し、20年に採用が認められた。

 インドは英国の植民地だったことから馬事文化が盛んで、技術を身につけた人たちが大半だ。インド人の勤勉な仕事ぶりを見て、他の調教師も次々と採用に乗り出しており、9月24日時点で39人が西脇馬事公苑などで働いている。長南さんは「仕事に真面目に向き合ってくれており、技術のある外国人は欠かせない存在になっている」と言う。

先駆けは北海道

 地方競馬場は全国に15か所あり、地方競馬全国協会(東京)によると、厩務員は、4月時点で2332人。地方競馬を主催する組合などへの取材で、外国人は344人にのぼり、インド人が大半を占める。

 ホッカイドウ競馬が18年、地方競馬では最初に外国人厩務員の採用を解禁して3人を雇用し、69人(9月1日)に増えた。インド人が64人と大半で、日本語や競馬のルールを学ぶ勉強会を開いて定着を図る。

 高知競馬では、ベネズエラやドミニカ共和国などの16人(同1日)が働く。中南米の出身者も母国の競馬場で勤務経験があり、即戦力となりやすいという。

 一方、日本中央競馬会(JRA)には外国人厩務員はいない。ただし、厩務員のなり手不足に直面している状況は地方競馬と同様で、19年にはJRAの競馬学校の厩務員課程について、年齢制限(満28歳未満)を撤廃した。

「技能」在留資格者が活躍

 外国人の厩務員は、在留資格「技能」で働いている。出入国在留管理庁の統計では、技能で働く外国人は、2023年末で4万2499人に上り、この10年間で約9000人増えた。

 技能は、特殊な分野で熟練した技能が必要な仕事に従事する在留資格で、厩務員は、「動物の調教」にあたり、10年以上の実務経験が取得要件となっている。

 技能の在留資格を持つ外国人は、厩務員のほかに、外国料理の調理師、スポーツ指導者、航空機の操縦者、ソムリエなどの仕事で活躍している。近年は、調理師として働くネパール人も目立つようになってきた。