●実現を後押しした「友近後援会」

かつてテレビ各局で放送されていた2時間サスペンスを、画質まで“80年代っぽい映像”に再現して新たに制作した『友近サスペンス劇場 外湯巡りミステリー・道後ストリップ嬢連続殺人』(YouTube『フィルムエストTV』)。パロディという枠を飛び越え、“2時間サスペンスあるある”を詰めに詰め込んだ約90分という長尺での高すぎる再現度が話題を集め、10月9日時点で再生回数は320万回を超えている。

当時の2時間サスペンスには到底及ばない少ない予算と制作スタッフの人数ながらも、高い再現クオリティの作品が実現した背景には、友近をはじめ携わる人たちの「熱量」があった。企画・主演の友近と西井紘輝監督に話を聞いた――。

『友近サスペンス劇場 外湯巡りミステリー・道後ストリップ嬢連続殺人』企画・主演の友近(左)と西井紘輝監督


○「予算が、予算が」に鬱陶しくなっていた

これまでも自身のYouTubeチャンネルで、2時間サスペンスをオマージュしたコント『友近ワイド劇場』を公開してきた友近。「あの時代の2時間サスペンスを誰か撮ってくれないだろうか」という思いを抱いていた中で、“80〜90年代っぽい映像”を制作するフィルムエストTVの西井監督の存在を知り、「西井さんなら夢をかなえてくれるかもしれない」と企画を持ち込んだ。

数分尺のパロディコントではなく、本業のキャストを集めて実際に愛媛でロケを行い、90分という長尺で制作された今作。それなりの制作費がかかることが想像できるが、西井監督は「お金どうこうというのは全く頭の中になくて、とにかく“やりたい!”という気持ちが先走ったんです」と振り返る。

そこには、「コンテンツを作るとなると、絶対に“予算が、予算が”という話になって企画倒れに終わる。僕自身、それがちょっと鬱陶しい気持ちになっていたんです」という思いも。そこで西井監督を突き動かしたのが、友近の熱意だった。

かたや友近も、西井監督に対して「私の勝手な思い込みですけど、この人に任せたらいいものができる自信がありました。このチームには完全に信頼できると思ったんです」と、運命の出会いを感じていた。

VHSの再生画質まで再現 (C)フィルムエストTV

○「今、全部熱量のある仕事でやれている」

熱量がある現場からは良い作品が生まれる――そんなエンタメのセオリーを、西井監督は改めて感じたという。

「何より普通のドラマよりもスタッフの数が半分以下という苦しい体制だったのですが、本当に誰一人手を抜かず全力でやってくれたからできましたし、全員が“熱意で何とかしなきゃ”という思いでやってくれていたのも感じました。それは、友近さんと一緒に作らせていただいているからこそ、全員が目指す方向性をイメージしやすかったのも大きいと思います」(西井監督)

熱量を持って参加したのは、キャストやスタッフ陣だけではない。地元・愛媛で友近を支える「友近後援会」の存在なくして、この作品は成立しなかった。

「(動画内の)『やすまるだし』のコマーシャルに出ている女性が私の学生時代の友人なんですが、彼女のお父さんが“友ちゃんが芸能人になってテレビに出たら、おっちゃんが人集めて後援会作ったるわ!”と言ってくれて、それから20年くらい、いろんな地元の人が参加してくれているんです。その会合で、今回の企画の話をして“ご協力してくださる方は手を挙げてくださったらうれしいです”とお願いしたら、撮影場所やエキストラの協力からスポンサー集めまでしてくれて! だから、愛媛でしかこの作品はできなかったと思います」(友近)

「私は全部こういう熱量のある仕事で、今やれているんです」という友近。「毎日現場に行くのにワクワクする仕事をやりたいと思ってこの世界に入ったのですが、それがこの5〜6年で実現できてるかなという感じです。今回の現場だけじゃなくて、水谷千重子の現場も西尾一男の現場も、みんなに見てもらう“発表会”という感じですね」と充実の表情を見せる。

それは、自分の熱意が周囲に伝わることで実現できているようで、友近が「“もうやるんだ!”っていう時の友近の目は違う、とよく言われます(笑)」と明かすと、西井監督は「今回もまさにそうでした(笑)」と、うなずいた。

●2サスの魅力は「いい意味での違和感」

29歳の西井監督にとって、2時間サスペンスはリアルタイムで見た経験があまりなく、むしろ友近のパロディが入り口だった。それだけに、今回の制作にあたって過去作品を見てみると、「まさかあんなに毎回お決まりのパターンがあると思わなかったです。“本家はこれなんだ!”と、友近さんの追体験をしたような感じでした」と印象を語る。

その“お決まりのパターン”をふんだんに盛り込んだ今作。友近は「いい意味での違和感があるんですよね。“なんでそこでこの人がいつも事件見てるの!?”とか、“『何か分かったんですか?』と聞かれても『いや、何でもない』って……言うたらええやん!”とか、そういうシーンは今回自分で演じながら頭の中でツッコんでました。だから、みんなでツッコみながら見るのが面白いドラマなのかなと思いますね」と話し、各地で開催している上映イベントの意義を感じているようだ。

東京で開催したトーク&特別上映イベント

自分のやりたい夢がかなった気分だという友近。周囲からは「“やられた!”って悔しがる人もいたんです」といい、「実はみんな、口に出して言わないけど2時間サスペンスが好きで見てたんですよね。だから、先にやれたんだと思って、うれしかったです」と、“してやったり”の笑顔を見せた。

今回大きな反響を得て、多くの人が2時間サスペンスに愛着を持っていたことに気付かされたという西井監督。「以前は各局で毎週やってたし、それが当たり前すぎたので、尊さが分かっていなかったのかもしれないですね。気づいたらなくなっていて、ある日ポッとこの動画が出てきたので、“これが私の日常だったんだ!”という人もいれば、“何だこれ!?”という人もいるのが面白いです」と興味深く受け止めた。

2時間サスペンスに親しんでいた人からは「落ち着く」という声もあったそうで、「殺人が起きてるのに(笑)」と、その感覚に驚かされたそうだ。

○テレビ放送“凱旋”の夢「ツッコみながら見るには一番」

今後の展望として、『外湯巡りミステリー』のシリーズ化にも意欲を見せるが、テレビ放送に“凱旋”することも夢見る西井監督。「みんなで同時に見ながら感想をSNSに投稿するというのが、今回はできなかったなと思っていたんです。みんなでツッコみながら見るには、やっぱりテレビが一番いいと思います」と語る。

そして、改めて見どころを聞いてみると、友近は「もうこの世界観の全部です。決して、私たちは何か面白いことを言ったり、ボケたりしていなくて、その世界観を忠実に演じているだけなので、それを皆さんがツッコんで見てくれるのが楽しい見方だと思います」とアピール。

西井監督も「まずは見ていただいて、その後どう料理していただくかは皆さんの自由です。自分だけの楽しみ方を見つけて、ぜひ2回、3回と味わっていただければ」と呼びかけた。