米マクドナルドが6月より行っている「5ドルセット」は好評のため期間延長になった(公式サイトより)

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 コロナ禍からの回復を見せつつも、物価高とインフレが中間層を圧迫……。米国の個人消費は現在「超・二極化」に揺れている。日本にも波及すること必至の米国の現状を、消費経済アナリストの渡辺広明氏がレポートする。

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【写真】ウォール街のセブンの前にはホームレスの姿が…「二極化」が進む現地の様子

 9月22日から1週間ほど、取材視察のためにアメリカ・ニューヨークを訪れていた。

 アメリカは、コロナ禍後のサービス消費の急増、人材確保のための賃上げ、それによるさらなる消費拡大と物価の上昇……という循環で、景気は回復傾向にある。だが、インフレによって節約志向も強まっているといい、差し迫る大統領選では、景気への対策も争点になっている。そんなアメリカ経済の現地レポートを今回はご紹介したい。

米マクドナルドが6月より行っている「5ドルセット」は好評のため期間延長になった(公式サイトより)

 滞在中は、取材のためマンハッタン中を地下鉄で移動する日々だったが、ある夜にスキマ時間ができたので、人生初のメジャーリーグ観戦に行ってきた。

 チケットが取れたのは、ヤンキースタジアムで行われたヤンキースの地区優勝がかかる一戦で、1階内野席の最後列だった。値段は179ドル(2万5955円=145円換算)だ。東京ドームの同じような席のおよそ、3〜4倍の値段である。しかし、メジャーを生観戦する機会はそうそうないと思い、清水の舞台から飛び降りる気持ちでチケットを買った。

 外野席の最上段でも、チケット代は100ドルする。日本のプロ野球より基本的にチケット料金は高いが、収容人数およそ5万人のヤンキースタジアムは、優勝がかかる大事な試合ということもあり、超満員。アメリカの個人消費の底堅さを見せつけられた。

 その一方で、消費の二極化のコントラストも目立っていた。

期間限定セットが延長、ホームレスの姿も

 マンハッタンのマクドナルドに行くと、6月下旬に始まった5ドル(約700円)の格安セット(ダブルバーガーまたはチキンバーガー、フライドポテト、マックナゲット4個、ドリンクの計4品)を注文している人が多く見られた。このセットは、当初は期間限定だったものの、あまりの反響に12月までの販売延長が発表されている。コロナ禍以降の物価上昇はピークを過ぎたが、このマックの施策からは、家計の苦しい消費者がアメリカ国内に依然として多いことがうかがえよう。

 街中でホームレスを目にすることも多かった。ウォール街のセブン-イレブンの入り口には両側にホームレスが座っていて、少し入りづらかった。ウォール街は言わずと知れた金融街で、連日、NYダウは最高値を更新している。そんな場所にホームレスが点在する光景は、アメリカ国内の経済格差を象徴しているようである。

 アメリカの個人消費は階層ごとに鮮明に分かれている事を実感した視察だった。

数字でも明らかな格差…日本も他人事ではない

 数字で見ても、アメリカでは世帯年収20万ドル以上(約3000万円以上)の富裕層が人口の約20%、世帯年収4万ドルから約15万ドル(約600〜2200万円)の中間層が人口の約60〜70%、世帯年収4万ドル未満(約600万円未満)の低所得者層が人口の約20〜30%をそれぞれ占めているとされる。

 個人消費の二極化が進むアメリカでは、今後、この中間層が低所得層に転落するのか、もしくは所得が増え、可処分所得も増えるかが国内経済の大きな関心であるという。なにせ、アメリカの個人消費はGDPの70%前後を占めている(ちなみに、日本は約55%)。個人消費はアメリカ経済において、大きな役割を果たしているのだ。

 いわずもがな、日本経済にもアメリカの個人消費=アメリカ経済は大きな影響を与える。

 グローバル化した各国の経済は為替の影響を強く受ける。為替の変動は金利の状況に連動するため、アメリカの金融政策を決定するFOMC(Federal Open Market Committee=連邦公開市場委員会)の金利決定は、日本も無関係でいることはできない。

 FOMCは、インフレ、失業率、経済成長、金融市場の安定、国際経済、家計消費・企業投資の状況によって金利を決定する。金融市場の安定、国際経済の動向、企業投資以外の判断材料は、国内個人消費と密接に関係している。このため、アメリカの個人消費は、日本に住む我々にとっても他人事ではないのがわかるだろう。

中間層は「貯金できない」

 アメリカの物価を表す消費者物価指数CPIは、8月は前年同月比2.5%と、コロナ禍のピークである9.1%(2022年6月)に比べると落ち着いているものの、低所得者層を中心に家計は厳しい状況となっているようだ。

 ニューヨーク郊外に住む「子持ち・賃貸・車あり」の年収1000万、いわゆる中間層の日本人のビジネスパーソン(40代)は、現在の状況をこう話してくれた。

「貯金も出来ずギリギリの生活環境だ。教育費も基本的に日本より高いこともあるが、それよりも物価高の定着が家計に大きな影響を与えている」

 また、ニューヨーク在住でヤンキースタジアムで共に試合を観戦した作家・冷泉彰彦さんは次のように語った。

「ニューヨーク郊外のスーパーでは、加工食品などのディスカウントが増えている。安くしないとモノが売れない環境が見受けられる」

 これは景気後退のシグナルとも感じられる。

不動産も危なさそう

 一方、不動産に関しては、供給不足ということもあって、住宅が買いたい人が買えないという状況もある。需要は高いため、景気の先行きは明るいという声もチラホラ聞こえる。

 しかし、オフィスビルは、テレワークによる空室も目立っていた。私が訪れたウォール街のとあるビルは、訪問先以外のテナントは全て空室だった。賃料の値下げや収益性の低下などが起きて、不動産への投資意欲を減退させ、経済がマイナスになる可能性を秘めていると感じるのは筆者だけだろうか。

 11月にはアメリカ大統領選があるが、その後はしばらく混乱も予想されている。アメリカ経済の先行きは予想しづらい状況だが、その影響を日本経済も受けることは必至だ。

 日本は33年ぶりの賃上げや株高を記録し、個人金融資産も2122兆円を突破した。現在がデフレ完全脱却への絶好のタイミングだ。先日誕生した石破茂内閣は、混乱が予想されるアメリカ経済を注視し、日本経済を上向かせる千載一遇のチャンスに対応してほしい。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。

デイリー新潮編集部