「警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)(全12話)」<デジタルリマスター版>(日本映画専門チャンネル)

2021年に惜しくも77歳で亡くなった俳優・田村正和の代表作であるドラマ「古畑任三郎」シリーズ。中森明菜や笑福亭鶴瓶など多彩なゲストが出演していた第1シリーズ「警部補・古畑任三郎」(1994年)が、日本映画専門チャンネルで10月15日(火)より放送される。

「すみません。ちょっといいですか?私ね、気づいちゃったんですよ」
刑事らしからぬ黒いジャケットに黒いシャツ。柔らかい物腰で笑顔を浮かべ、人差し指を立て、まるで名探偵のように自分の推理を語り出すダンディな男―それが田村正和演じる古畑任三郎だ。

脚本は2024年も精力的に映画「スオミの話をしよう」(2024年)など新作を出している三谷幸喜。「警部補・古畑任三郎」は、三谷が子どもの頃から大好きだったというアメリカのドラマ「刑事コロンボ」のオマージュとして企画された。「刑事コロンボ」と同じく、最初に殺人が起こり、その犯人が証拠を隠滅して完全犯罪をたくらんでいたところに、田村が演じる警視庁捜査一課の刑事・古畑が現われて犯人のトリックを見破っていく。視聴者は最初から誰が犯人か分かっているというこの方式は「倒叙ミステリ」と呼ばれ、最近のドラマでも篠原涼子・バカリズム主演の「イップス」(2024年)がこのスタイルを取っていた。

「警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)(全12話)」<デジタルリマスター版>(日本映画専門チャンネル)

1話完結型で、謎解きというよりは、古畑と犯人の心理戦を楽しむドラマ。丁々発止の会話劇なので、犯人役のキャスティングが鍵になる。連続ドラマで第3シリーズまで、スペシャルドラマで2006年まで続いたこのシリーズに出演したゲストは、トップアイドルから大物俳優、第一線のコメディアン、歌舞伎役者、プロ野球のイチロー選手など、そうそうたる面々だ。

「警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)(全12話)」<デジタルリマスター版>(日本映画専門チャンネル)

もはや伝説となっている第1シリーズ第1話「死者からの伝言」のゲストは中森明菜だった。歌手であり、俳優としても『素顔のままで』(1992年)などで熱演を披露してきた中森が、少女漫画家の小石川ちなみを演じている。

ちなみは山道沿いにある別荘を所有しており、その地下金庫室に恋愛関係にあった漫画雑誌編集長(池田成志)を閉じ込めて殺しながら、事故死を装って警察に電話する。古畑は偶然、その日、部下の今泉(西村雅彦/現・西村まさ彦)と共に、山道の途中で車の故障で立ち往生していた。そこで、電話を借りに、ちなみの別荘に立ち寄ったところ、ちなみから事情を打ち明けられる。古畑が地下に降りてみると、編集長はちなみの描いた漫画の原稿を握りしめ息絶えていた。

漫画家だけに「自分が手を下していない」というストーリーを組み立てるのには自信があるちなみは、「別荘に1カ月ぶりに来てみたら彼が死んでいた」というアリバイを冷静に主張する。ここでは中森の聞き取れないほど淡い声が効果的だ。対する古畑は、ちなみの言動の矛盾や愛犬の様子から、彼女こそ犯人だと見破る。あれこれ細かいことを質問しては、ちなみの反感を買って「すみません」と謝るものの、決して追及を緩めることがないという古畑のキャラクターは第1話にして完成している。優れたコメディセンスを持つ田村の緩急織り交ぜたセリフ回しは、さすがだ。

「警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)(全12話)」<デジタルリマスター版>(日本映画専門チャンネル)

事件解決後もちなみは古畑にとって特別な存在になり、その後のエピソードでもたびたび彼女の存在に触れられる。ちなみの漫画「カリマンタンの城」を古畑が読んでいる場面も出てくる。

「警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)(全12話)」<デジタルリマスター版>(日本映画専門チャンネル)

第4話「殺しのファックス」では、当時40代だった笑福亭鶴瓶が人気推理作家・幡随院役で登場する。妻を殺して土に埋め、狂言誘拐を仕組んだ幡随院。古畑は、彼が仕掛けるファックスを利用したトリックに挑む。放送当時はウィンドウズ95の登場でインターネットが普及する前、原稿などはワープロで打ちファックスで送信していた時代で、最新の情報機器としてファックスのタイマー予約などがトリックとして使われるのが、今見ると、かえって新鮮だ。

幡随院が仕事場にしている都心のホテルに誘拐事件専門の刑事たちが集合し、その中には、なぜか古畑と今泉もいた。部屋のファックスには「(妻の)身代金三千万円を要求する」などの脅迫文が次々に送られてきて、そのたびに振り回される捜査陣。だが、古畑は冷静に事件の推移を見つめ、幡随院を観察していた。

「警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)(全12話)」<デジタルリマスター版>(日本映画専門チャンネル)

鶴瓶はいつものとおりの関西弁で、「妻が救出されないのは警察のせいや。女房を殺したのは、あんたらや」とまくし立てる。ふてぶてしいこと、この上ないが、古畑はそれに動じず、「(誘拐なのに)まるで奥さんが死んだことを知っているみたいですね」などと切り返す。ついに古畑が幡随院を追い詰めたときの、田村のニヤリと笑う表情と鶴瓶の驚愕する顔が痛快だ。この大物共演では、酸いも甘いも嚙み分ける「おじさん」同士のやりとりを存分に楽しめる。

文=小田慶子

放送情報【スカパー!】

警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)(全12話)<デジタルリマスター版>#1-2
放送日時: 10月15日(火)11:00〜
警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)(全12話)<デジタルリマスター版>#3-4
放送日時: 10月16日(水)11:00〜
※以降、17日(木)に#5-6、21日(月)に#7-8、22日(火)に#9-10、23日(水)に#11-12を11:00に放送
チャンネル: 日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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