●この1年で『世界ふしぎ発見!』『潜在能力テスト』も

各局が秋の改編を発表し、終了する番組にさまざまな声が飛び交っている。ネット上は大型企画だったからなのか、『ジョンソン』(TBS)と『オドオド×ハラハラ』(フジテレビ)の記事が目立つが、「今秋の終了」でもう1つ注目したいのは2つのクイズ番組。『東大王』(TBS)は2017年春のスタートから7年半、『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』(日本テレビ)は2019年秋から5年間の歴史に幕を閉じる。

さらにさかのぼると、昨秋に『潜在能力テスト』(フジ)が6年半、今春にも『世界ふしぎ発見!』(TBS)が38年半にわたる放送を終えていた。一方で新番組がスタートしていないところにクイズ番組の苦況がうかがえる。

現在のクイズ番組をめぐるさまざまな状況を、テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

『東大王』MCの山里亮太・ヒロミ、『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』MCの劇団ひとり・佐藤隆太


○「定番」が通用しづらい時代に

現在、ゴールデン・プライムタイムでレギュラー放送されているクイズ番組は、テレビ朝日の『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』『くりぃむクイズ ミラクル9』、フジの『ネプリーグ』『呼び出し先生タナカ』『今夜はナゾトレ』。今秋からクイズメインの番組はこれだけになるが、「意外に少ない」と感じるのではないか。

ただ、TBSの『世の中なんでもHOWマッチ いくらかわかる金?』『オオカミ少年 ハマダ歌謡祭』、日テレの『THE 突破ファイル』あたりもクイズパートが重要な番組と言っていいだろう。それ以外でも『ザワつく!金曜日』(テレ朝)、『ぐるぐるナインティナイン』(日テレ)などのようにクイズをアクセントにした番組は少なくない。

難問、易問、学問、雑学、謎解き、チーム解答などジャンルやコンセプトはさまざまだが、どれも昭和・平成の時代から放送され続けたものであり、良く言えば「定番」、悪く言えば「マンネリ」。飽きられることを避けるためにたびたび構成・演出をマイナーチェンジしてきたが、「大きく変わった」と感じている人は少ないだろう。

TVerを筆頭にコンテンツの配信再生が浸透する中、「定番」「マンネリ」の番組を見る人が以前より減っていることは間違いない。これまでクイズ番組は一部のコアなファンを除けば、「昼夜の食事時や家族で過ごす時間帯に、何となくつけて見る番組としてベターなもの」とみなされてきた。しかし、配信コンテンツが充実化の一途をたどり、「好きな番組を選んで見る」という行動傾向が中高年層にまで及び始めた現在、そのポジションは成立しづらくなっている。

そして時代の変化をもう1つ物語っているのは、「芸能人が解答者」のクイズ番組に対するテンションの低さ。前述したジャンルやコンセプトの中に“視聴者参加型”を加えられなかったように、解答者が芸能人のクイズ番組ばかり放送されている。

●一般参加のクイズ番組はほぼ消滅

これは「解答者が一般人では視聴率が獲れない」「トークパートで笑いにつなげにくい」「キャンセルやクレームのリスクがある」などの理由があるが、どれも「絶対にクリアできない」というレベルのものではない。事実、1980年代までは一般人が解答者のクイズ番組がほとんどを占めていた。

今秋終了の『東大王』は当初、一般人が東大王チームに挑むという構成だったが、すぐに芸能人チームとの対戦に変わり、2023年に再び一般人参加に挑むが、すぐにまた芸能人チームとの対戦に戻っている。『小5クイズ』も2年前に一般応募枠を採り入れたが、ごく一部のみに留めるなど、消極的な取り組みのみで終わった。ただ、この2番組はまだいいほうで、他のクイズ番組はチャレンジすらしていない。

SNSが発達し、個人の尊重が叫ばれる令和の今、エンタメは「主体性を持って参加できるものであること」が求められている。芸能人に対しても「主体性を持って推す」という時代になり、そうではない芸能人が出演する番組への注目度は低くなった。

また、ゲームやアプリで全国の人々とリアルタイムで対戦できるようになるなどの「クイズを取り巻く状況の変化にテレビが追いついていない」ように見えてしまう。そもそも世間のクイズ熱は冷めるどころか、一定の盛り上がりを保っている。クイズのゲームやアプリが流行してからすでに10年以上が過ぎ、高校・大学のクイズ部だけでなく社会人のクイズイベントなども活況。象徴的な存在のQuizKnockはYouTube登録者数233万人(9月18日現在)を数える。

しかし長年クイズというジャンルを支えてきたテレビは、そんな時代の変化に対応できていない。「リアルタイム視聴をベースにしたビジネスを変えられない」ことと同じように、クイズ番組をアップデートできないまま現在に至っている。今秋の『東大王』『小5クイズ』の終了は、その象徴的なニュースなのかもしれない。

○特番は活況だがレギュラーは厳しい

では、「テレビのクイズ番組に未来はないのか」と言えばそんなことはないだろう。

まず前述したように、クイズを楽しんでいる人の数は少なくない。むしろ移動中や休憩中などに楽しむ身近なものになったという人もいる。しかし、彼らにとって「自分もあの番組に出てみたい。だから見てみよう」と思わせるクイズ番組はなく、そんな人々を取りこぼしているのではないか。

クイズ番組に「参加している」という意識を持ってもらうための策はまだまだあるはずだ。例えば、視聴者が参加できる生放送のクイズ企画を行った番組もあったが、賞金・賞品のスケールが小さかった上にすぐにやめてしまうなど、中途半端な結果に終わってきた。もう少しライブ感を楽しめる構成・演出は本当にできないのか。

また、「クイズ猛者ばかりが上位に来ると面白くない」のなら、「性別・年齢・職業・居住地・経歴などの属性ごとに参加者を集めて戦う」という『パネルクイズ アタック25』(ABCテレビ、現在はBSJapanextで放送)の形式をアップデートさせた形があってもいいだろう。「一般人に一世一代の大勝負をしてもらう」という構成・演出でショーアップできないところにもどかしさを感じさせられる。

いずれにしても各局の制作サイドは「『視聴率を確保するため』という前提に縛られるため、『アップデートしない』という歴史を繰り返してきたが、そろそろ限界に近づいている」という感は否めない。

そんな苦しい現状を物語っているのがクイズ特番。『芸能人格付けチェック』(ABC制作・テレ朝系)、『オールスター感謝祭』(TBS)、『クイズ ドレミファドン!』(フジ)などのクイズ特番は、放送のたびにネット上で盛り上がっている。ただこれは「出演者が豪華なため、注目を引きつけられる」という点が大きく、レギュラー番組でこうはいかないのは当然だ。

厳しい書き方になるが、やはり昭和・平成と変わっていないのだから、人々に「制作サイドの工夫と覚悟が足りない」と言われても仕方がないように見える。制作費や人材確保などで難しいのはわかるが、だからこそ「他のバラエティよりクイズ番組のほうがチャンスはある」のではないか。個人的にクイズ番組が「テレビがつまらなくなった」という理由の1つにあげられる現状は寂しいだけに、来年の改編では思い切った新番組を期待したい。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら