『敵』©1998 筒井康隆/新潮社 ©2023 TEKINOMIKATA

写真拡大

 長塚京三が12年ぶりの映画主演を務め、瀧内公美、黒沢あすか、河合優実らが共演する映画『敵』が、2025年1月17日に全国公開されることが決定した。

参考:三島由紀夫原作『美しい星』を現代に蘇らせた、吉田大八監督の手腕

 本作は、筒井康隆の同名小説を『桐島、部活やめるってよ』『騙し絵の牙』の吉田大八が監督と脚本を務め映画化するもの。穏やかな生活を送っていた元大学教授のパソコンに突然、「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてきたことをきっかけに始まる“人生最後の戦い”が描かれる。

 原作の筒井は「すべてにわたり映像化不可能と思っていたものを、すべてにわたり映像化を実現していただけた」と本作を絶賛。吉田監督は「自分自身、この先こういう映画は二度とつくれないと確信できるような映画になりました」と自信を覗かせた。

 渡辺儀助、77歳。大学教授の職を辞して10年、妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋に暮らしている。料理は自分でつくり、晩酌を楽しみ、多くの友人たちとは疎遠になったが、気の置けない僅かな友人と酒を飲み交わし、時には教え子を招いてディナーを振る舞う。預貯金が後何年持つか、すなわち自身が後何年生きられるかを計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていく。遺言書も書いてある。もうやり残したことはない。だがそんなある日、書斎のiMacの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。

 渡辺儀助役で主演を務めるのは、1974年にフランスで俳優デビューしてから実に50年、さまざまな映画、ドラマ、舞台に出演してきた長塚。人生の最期に向かって生きる人間の恐怖と喜び、おかしみを同時に表現した。本作は、長塚にとって2013年公開の『ひまわり~沖縄は忘れないあの日の空を~』以来、12年ぶりの主演映画となる。また、清楚にして妖艶な魅力をもつ大学の教え子・鷹司靖子役で瀧内、亡くなってもなお、儀助の心を支配する妻・渡辺信子役で黒沢、バーで出会い儀助を翻弄する謎めいた大学生・菅井歩美役で河合が出演する。そのほか、松尾諭、松尾貴史、カトウシンスケ、中島歩らが共演に名を連ねた。

 吉田監督、原作の筒井、主演の長塚、共演の瀧内、黒沢、河合からはコメントも到着した。

コメント吉田大八(監督・脚本)何十年も前に小説を読み終えた時から「敵って何?」という問いが頭を離れず、とうとう映画までつくることになりました。筒井先生の作品を血肉として育った自分にとってそれはかつてないほど楽しく苦しい作業の連続でしたが、旅の途中で長塚京三さんをはじめとする素晴らしい俳優たち、頼もしいスタッフたちと出会えてようやく観客の皆さんが待つ目的地が見えてきた気がします。自分自身、この先こういう映画は二度とつくれないと確信できるような映画になりました。僕は幸せです。

筒井康隆(原作)すべてにわたり映像化不可能と思っていたものを、すべてにわたり映像化を実現していただけた。登場人物の鷹司靖子、菅井歩美、妻・信子の女性3人がよく描き分けられている。よくぞモノクロでやってくれた。

長塚京三(主演・渡辺儀助役)タイトルは、原作である筒井康隆先生の小説の表題を戴くと聞きました。吉田監督のシナリオは、概ね原作に準じるものだとも。両者とも大変興味深く読ませて戴いて、なんだろうこの主人公は、ほぼ監督そのままじゃないか、と思えてなりませんでした。ご自分でおやりになればいいのに、とさえ。難はただ一つ、「ちょっとばかり歳が足りないか! 」。まだやり直しのきく年齢での「絶望」は、全き絶望とはいえませんからね。冗談はさて置き、老耄に押しまくられて記憶が混濁し、授けを求めようにも、人も、物たちさえも、いつの間にか掌を反したように敵側に回っていて、恐らくは粗略でもあり、傲慢でもあったろう主人公の嘗てのあしらいに、幾星霜かを経て、なお復讐するかのようだ。「この逆境、老残零落のシラノ(ド・ベルジュラック)だったらどうするだろう? 」などと考えてみたら面白そうである。僕の最後の、いや最後から2番目あたりの映画として受けさせて戴きます。かなりの強行軍は承知ですが、共演者、スタッフの皆さんが、最後まで味方でいてくれることを信じて。「てき」、いいタイトルです。

瀧内公美(鷹司靖子役)いつかご一緒させてもらいたいと願っていた吉田大八組。大八さんの現場はとても不思議な空気感で、どの表現が良いのだろうかと試行錯誤しながら撮影を進めていましたが、なんだかほっこりしていてとても居心地が良い現場でした。そして、長塚京三さんとの共演は言葉では言い尽くせないほど京三さんに魅了され、クランクアップの前日、明日でしばらくはお会いできないのかと思うとお風呂の中で涙が出たほどです。とても不思議な面白い作品に仕上がっていると思います。わたしも今から「吉田大八ワールド」が楽しみです。

黒沢あすか(渡辺信子役)台本を手にしたとき、長塚さん演じる儀助との浴室シーンに、年齢を重ねてきたからこそ醸し出せる味わい深さを大切にしたいと思いました。大八監督が長年温めてきた、筒井康隆さん原作の「敵」。その映画化にあたり監督が手掛けた台本は、世間擦れしていない儀助の品性とノスタルジックな雰囲気が絶妙に融合し、夢か幻か、あるいはSFかと思わせる独特の世界観を感じました。出演者としてその一端を担えたことを光栄に思います。

河合優実(菅井歩美役)菅井歩美を演じました、河合優実です。初めてご一緒させていただいた吉田大八監督の、この『敵』という作品への思い入れにまず刺激を受けたことを思い出します。このような作り手の熱がたしかにこもった映画に力を添えられるのはとても嬉しいことです。短い時間ではありましたが、おそらくどの時代に読んでもどうにも魅惑的なこの物語のもと、未知なるものに顔を合わせ、考えてみる機会をもらいました。ぜひ劇場で出会ってほしいです。(文=リアルサウンド編集部)