日本人の8人に1人が弱者男性…「キモくて金のないおっさん」は本人の努力不足が原因なのか?  調査で見えてきた「日本の男性の現在地」

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現代の婚活や就活事情に詳しいライターのトイアンナ氏によると、日本人の8人に1人、男性の4人に1人が「弱者男性」だという。

【図】自身を弱者男性だと思う人の割合

氏の書籍『弱者男性1500万人時代』より一部を抜粋・再構成し、弱者男性とはどんな男性のことを指しているのか、その実態を明らかにする。

日本人の8人に1人は弱者男性

まずはじめに、「弱者男性」という言葉が生まれた時代背景に触れてみよう。急激な社会情勢の変化に伴い、一億総中流と言われた日本は過去の遺物となった。2018年のデータでは、日本人の6人に1人が世帯年収127万円以下の貧困状態にある。

なんと、100人に1人の日本人は、1日210円未満で暮らしている。弱者男性とは、こうした社会の荒波にまぎれ、インターネットから新たに誕生した言葉である。

かれらは、日本社会のなかで独身・貧困・障害といった「弱者になる要素」を備えた男性たちだ。ただし、年収○○万円以下といった数値で厳密に定義されているわけではない。

弱者男性がネットスラングから誕生した言葉であるからには、数字で割り切れる定義を持たないのだ。逆に、「誰が弱者男性か」を数量的に定義してしまうことで、弱者男性の枠から切り捨てられてしまう男性が出てきてしまう。

むしろ、あらゆる男性が持つであろう「弱者性」にハイライトを当てるため、この言葉が生まれたといっていい。

たとえば、年収2000万円の男性がいたとしよう。それだけの年収があれば初見では間違いなく「強者男性」と呼ばれるだろうが、その年収の大半を妻からのDVによって奪われ、本人に経済的自由がまったくない場合はどうだろうか。

そのような男性のことを、決して「強者」とは呼べないのではないか。弱者男性とは、こういったさまざまな事情を抱えた男性を包含する、大きな言葉であることをまず明確に示したい。

このような大前提を置いたうえで、それでもあえて本書では『弱者男性の人口』を推定する。背景には2つの理由がある。まず、多くの人が弱者男性の数を少なく見積もっており「気にするほどでもない数」と、切り捨てている可能性があるからである。

2点目は、本稿を書くにあたり、筆者は500名を超す対象へのアンケート調査、50名以上のインタビューを重ねた。そして、インタビューでは驚くほど「しっかり弱者男性を定義してほしい」との声が上がった。

かれらの多くは「どうせモテないだけの男性が、寝言を言っている」と言われ、過小評価されてきた。そのため、「これ以外は弱者ではない、という切り捨て」は行わないものの、ある程度弱者になり得る要素をカテゴリーとして明記してほしい、という要望があったためである。

結論から書くと、日本には最大1504万人の弱者男性がいる。2022年時点で日本の人口は、1億2494万7000人。うち男性は6075万人。つまり、男性の約24%は、何らかの弱者性を抱えている。「弱者男性」はマニアックな少数派ではない。私たち日本人の、8人に1人の話なのである。

弱者と自認する男性は1600万人

とはいえ、上から目線で勝手に「この条件があるから弱者男性だ」と決めつけるのも望ましくない。そこで、本書では別途15~99歳の500名の男性へアンケート調査を実施し、男性の何%が「自分は弱者男性だ」と感じているかを確認した。

その結果、男性の約26.2%が自分を弱者だと認識しており、全国民に当てはめると約1600万人が該当することがわかった。推計値と矛盾しない結果である。人口全体では12.8%、つまり日本人の8人に1人、男性の4人に1人が、弱者男性を自認している。

また、自分で自分を弱者男性だと認識する理由の最たるものには「年収が低い、貧乏である」が挙げられており、続いて「友人が少ない」と「人と話をするのが苦手だ」がトップ3に入った。

つまり、男性は自分の年収が低く、さらに人の縁に恵まれないと「自分は弱者である」と認識しやすいと考えられる。

なお、筆者は「男性が、自分を弱者男性だと思っている割合」をそのまま弱者男性の比率とみなすこともしない。なぜなら、男性は自分が弱者であると認めづらい、認めることが恥ずかしいとされる社会の中で育っており、その精神そのものが、弱者男性差別の重要な要素となっているからである。

自分が弱者男性だと感じている方、認められる方「だけ」でも1600万人である。

キモくて金のないおっさん

続いて、弱者男性という言葉が現代社会に生まれるに至った歴史的経緯を押さえておく。そのためにはまず、2015年にネット論客の一柳良悟氏が生んだ「キモくて金のないおっさん(KKO)」という概念について語る必要がある。

この言葉自体がドギツイ響きを持っているが、まずはぐっとこらえて読み進めていただきたい。

「キモくて金のないおっさん(KKO)」とは、容姿に恵まれず、年収が低い中年男性を指すネットスラングであり、先述の弱者男性より先行して生まれた言葉である。略して「キモカネ」と呼ばれることもある。

X(旧:Twitter)上で「オッサンの貧困を最近扱っているけど、驚くほど共感を得られない。性の商品化が問題などと言う人もいるけれど、買えない、売れない、キモくて金のないオッサンのほうがどう考えても詰んでると思うのは俺だけ?」と一柳氏がつぶやいたことが発端となり、一気に世の中に広まっていった言葉だ。

人々の間で「キモくて金のないおっさん」概念が認知されていった背景には、2000年ごろから問題視されるようになった孤独死問題、2008年に起こったリーマン・ショックを経てテレビを賑わせた年越し派遣村問題などがある。

それまで、世間一般から見て「強者」として君臨していた男性が、実は社会的弱者の場合もあることが、少しずつ認識され始めたのだ。

そして近年、「キモくて金のないおっさん」という言葉が差別的であるとして「弱者男性」と言い換えられ、今に至る。だが、そのエッセンスを見失ってはいけない。容姿に恵まれない、お金がない、中年であるといった要素が「キモい」と、軽蔑して扱われるという現実を鋭く切り取ったのが、この言葉だったからである。

そして、「弱者側に追いやられる男性がいる」事実への注目度は、女性や子どもの人権問題と比較して、かなり低い。そして、弱者男性の存在は世の中に認知されてはいるものの、支援の手はあまりないのが現状だ。

その理由に、「かわいそうランキング」の存在が指摘されている。「かわいそうランキング」とは、文筆家・ラジオパーソナリティである御田寺圭氏が提唱した言葉である。

簡単に書くと、人は同じ境遇にある人でも「よりかわいそう」「そうでもない」といった序列をつけている、といった思想である。そして、御田寺氏はかわいそうランキングの下位には弱者男性が置かれているとされ、不平等・不公平な配分がなされてしまうことを指摘した。

というのも、弱者男性は得てして「自助努力が足りないから弱者になった」と言われているからだ。だが、「キモくて金のないおっさん」は果たして、自分のせいでそうなっているのだろうか。

たとえば、両親が大卒だったグループと高卒だったグループに分けたとき、高卒以下の親から育った人の貧困率は大卒グループの約3倍となる。親の学歴は自分で選ぶことができないのに、「金がない」のは自己責任なのだろうか。

あるいは、自分の顔がどうあがいても美しいとは言えず、そのせいで辛酸を舐めてきたとして、それは自分のせいだろうか。新しい服を着て、ひげをそり、眉毛を整えても、毛の濃さや肌の荒れやすさから「美」に近づくコストが高い方はいる。

男女問わず、これを「努力不足」と一蹴してもよいものだろうか。たとえば「百点満点中、60点の美しさ」にたどり着くために、必要なコストが人によって違いすぎるのではないだろうか。特にそれを、貧困や虐待などのストレス下にありながら、実現するのはかなり難しいのではないだろうか。

だが、こういったことを男性が発信することは稀である。SNSで声を上げようものなら「言い訳がましい」「そんなことを言ってる性格だからモテないんだよ」と、加害されるのが関の山だからである。

決して自分のせいだけではないにもかかわらず、弱者男性は社会から、世間からないがしろにされやすい。特に女性と比べたとき、弱者男性はかわいそうだと思われにくい。男性は元来、強者だという前提があるからだ。

結論、キモくて金のないおっさんは、かわいそうランキングの下位に置かれる存在である。だが、同情されにくいからといって、支援から遠ざけられてよいのだろうか。そういう視点から生まれたのが、「弱者男性」という言葉だといえるだろう。

図/書籍『弱者男性1500万人時代』より
写真/shutterstock

弱者男性1500万人時代(扶桑社新書)

トイアンナ

2024/4/24

1,012円(税込)

256ページ

ISBN: 978-4594097417

「弱者男性」の75%は自分を責めている。“真の弱者”は訴えることすらできない――。
「40代後半でカネもない独身のおっさんに人権なんてないんです。そこにいるだけで
怪しくて、やばいんです」(本書インタビューより)

1 弱者男性とは誰のことか
日本人の8人に1人は弱者男性/弱者と自認する男性は1600万人/キモくて金のないおっさん/「弱者男性」の歴史的背景/国内統計データから見る未婚男性の不幸度/諸外国との比較/日本で男に生まれたら不幸、さらに未婚はもっと不幸/諸外国でもシングル差別はある/就職氷河期が破壊した男性の結婚願望/透明化される被害経験/支援団体が定める「弱者男性」の定義

2 男性の弱さ
男性は死にやすい/男性は病院へ行くのを渋り、セルフネグレクトへ/男性は3K労働に就きやすい/男性は戦場で兵士になりやすい/男性は女性よりも殺されやすい/男性のASD・ADHD・LDのなりやすさ/男性は遺族年金で差別されやすい

3 弱者男性の声
「男たるもの」に苦しめられ、双極性障害、自己破産へ/一見エリートでも、家族起因で弱者側に追い込まれる男性/年収1000万円のハイスペでも男性が「生きづらい」理由/妻から皿を投げつけられ、涙が止まらなくなった/ごくわずかな弱者男性だけが、女性差別をする/弱さを認めてもいいと知って、救われた

4 弱者男性の分類
SPA!でのアンケートをもとに弱者男性を分類/なぜ弱者男性は自分を責めるのか/弱者性の主なカテゴリー

5 弱者男性になってしまう
弱者性を生む「家族・地域・制度」からの縁切り/コミュニケーション弱者の男性は迫害されやすい/男性は女性と比べて「加害者」になりやすく、孤立しやすい/弱者男性を救いたいと思う者がいない/社会で失敗したときに復活しづらい/SNSで生まれた「高み」の虚像が生む「弱者という実感」

6 弱者と認めてもらえない
女性・子どもという「理想的弱者」の存在/「かわいそうランキング」の最下位/収入という「目に見えすぎる上下関係」/弱さを語ることは「男らしくない」/自分でも自分を弱者と認めたくない/軽んじられる男性の被害

7 弱者から抜け出せない
ガラスの天井に阻まれる女性、ガラスの地下室に落ちる男性/日本人男性の異常な労働時間、労働条件/体を売っても貧困から抜け出せない/階級の固定化:貧困家庭が貧困弱者男性を生む/新卒一括採用で失敗したら復活できない/独身男性が「介護する息子」になる/男性には「玉の輿」のチャンスがない/頂き女子のカモにされる?/宗教も政治も弱者男性を助けてくれない

8 弱者男性とミソジニー
弱者男性=ミソジニストであるという誤解/「それもこれも女が悪い」神話/女性嫌悪集団「インセル」/女性の社会進出と弱者男性に関係はあるか/フェミニズムと弱者男性の食い合わせの悪さ/弱者男性の現状は、かつての女性の姿と重なる

9 弱者男性に救いはあるか
サバルタンは語れない(本当の弱者は訴えることができない)/今ある自助グループの限界/3つの縁のうち「行政」をつなぐ/支援の原則/「弱者です、助けてください」と言いやすい社会づくり/助けを求めるコミュニケーションの訓練/自分が執着する相手との会話/支援者の支援:バーンアウト対策/最後に、弱者男性が訴えた「本当にほしい支援」

巻末付録・推計:日本国内にいる弱者男性の数