Lenovo Yoga Slim 7xレビュー:AIは期待外れだけど良品です
AIイヤーの2024年。
チャットボットがスマートになって、コード生成、ビデオ会議、ストリーミングもますます便利になりました。
大規模言語モデルの衝撃のデモから1年。米Gizmodo編集部に届くWindowsのノートPCはみなCopilot専用ボタン付きになっていて、「Copilot+PC」戦略でAIの牙城固め第2フェーズに駒を進めるMicrosoft(マイクロソフト)には失速の気配すらありません。
今回ご紹介するLenovo Yoga Slim 7xは、いち早くSnapdragon X Eliteを搭載したノートPCです。さっそく触って、未来の片鱗を味わってみました。
レビュー機は超軽量で耐久性抜群、エレガント。 OLEDの画面は明るくて鮮明だし、プロセッサはQualcomm製なんだけど、もっとパワフルなインテル製に迫る処理性能です。ディスプレイと筐体がとにかくきれいですね。
不満点はAIパソコンの威力が実感できないこと(一般のノートPCと変わらない)、バッテリー持ち(8時間は持つけど公称「丸1日持つ」には届いていない)、ARMべースのプロセッサなので一部のアプリが使えないこと(Prismのエミュレーター機能を使ってもダメだった)。
「AIファースト」を謳うからには、ほかで味わえる画像生成とかビデオ会議のエフェクト以上の何かが欲しいと感じました。
Lenovo Yoga Slim 7x
これは何?:レノボ最新のAIノートPC
価格:23万2540円(税込)
好きなところ:薄型で持ち運びやすいデザイン、目が喜ぶOLEDのスクリーン、手が喜ぶキーボード
好きじゃないところ:期待未満なバッテリー持ち、期待外れなAI機能
デザイン:美しくありながらタフ
ノートはデスクトップより薄ければそれでいい、みたいなところがあるけど、Yoga Slim 7xほどカッコいいのはそうありません。
テスト機はサンドブラストで艶消し後にアルマイトを施したアルミの落ち着いたブルー(コズミック・ブルーと呼ぶ)。角は丸みを帯びています(こちらはコンフォート・エッジという)。LenovoのノートPCといえば、昔はオレンジ色とかもあったけど、ああいうOEMが色で遊べた時代が懐かしくもありますけどね。
重量1.28kg、サイズは325×225.15×12.9mm。ブリーフケースやメッセンジャーバッグはもちろん、ちいさなバッグにも充分入る大きさです。お気に入りのTelfar製バッグにもすっぽり収まって、友だちの家に持っていったときにも異物感ゼロ。出先が多いビジネスマンにぴったりです。
こんなに薄いのに耐久性は高く、米国防省のMIL-STD-810Hという規格に準拠しています。多少の落下や衝撃にはビクともしません。
もちろん薄型ゆえの代償もあります。たとえばポートはUSB-C(USB4規格)のポートが3つあるだけ。あとはカメラのシャッタースイッチがついてるぐらいなので、ヘッドホンジャックが必要な人は、ほかを探すか、ワイヤレスのに切り替えなきゃダメです。
キーボードはさすが定評のあるLenovoだけあって、本機もかなりよくできています。キーストローク1.5mmで、まるでトランポリンみたいに指に弾みがつく心地よさ。LEDのバックライト付きなので、暗い部屋でもちゃんと打てるのも助かりますよね。
薄いと冷却も心配ですが、そちらはファンを2つ搭載することで対応しています。温度を測ってみたらタッチパッドが30.6℃、キーボード中央が37℃、底部が40℃。辛うじてセーフでした。
ゴージャスなディスプレイ
グロッシーなディスプレイはやっぱりOLEDかMini-LEDの2択ですよね。生き生きと鮮明で、躍動感が違います。
Lenovo Yoga Slim 7xの画面は14.5インチ、2,944×1,840、OLEDの美しすぎるタッチスクリーン。アスペクト比16:10で、面積もたっぷりです。
リフレッシュレート90Hzなので、動画・テキストの表示も滑らかだし、簡単なゲームは問題なくできます。試しに『Neptune Frost』の予告編を観てみたら、赤・黄・青・緑のグラデーションの美しさに感動。主演女優のおでこや黄のアイライナーみたいな細部もよく見えます。
輝度平均865ニトあるので、明るくて、日中の直射日光で使っても大丈夫。10点マルチタッチ対応で、すばやくキビキビ反応します(スタイラス持ってる人にはうれしいポイント)。
1080pのウェブカメラも◎です。着ていたピンクのTシャツの色がそのまま再現されていて、ビーズの細かいところまでしっかり映ってました。顔を拡大するとモザイクが入るのがアレですが、ふだんビデオ会議やセルフィーで使うぶんには問題なさそうです。
スピーカーは期待禁物です。2Wのスピーカーが4基(ツイーター2基+ウーファー2基)入っているのですが、Dolby Atmosのソフトを使っても上下のステレオスピーカーのサウンドに違いが感じられなくて。Flau’jaeの『Came Out A Beast』もボーカルは大丈夫だったけど、低音のドラム、トランペット、フレンチホーンの再現で四苦八苦で、ハイハットの音の入りもよくなかったです。
Qualcommでも競合に負けていない
Lenovoは今回、CPUに3.42GHzのQualcomm Snapdragon X Elite X1E-78-100 Oryonを実装しました。メモリは16GB、LPDDR5X規格準拠、8448MHzのデュアルチャネルのRAMで、SSDは512GBの第4世代PCIe M.2 Gen 4 PCIe、NPUはHexygon、GPUは統合型Qualcomm Adreno。
CPUはQualcommのX Eliteシリーズ最小の構成です。デュアルコアブーストモードもないので、ワープロ・パワポ・表計算といったふだんの仕事では使えるけど、負荷の高いゲームにはあまり向いていません。
もうひとつの難点はARM64のSoCなことでしょうか。ARMに最適化されていないアプリやソフトはPrism x64-x86エミュレータを挟んで使うかたちになるんですが、 起動時に「ARM64 CPU is not supported」というエラーが出ちゃうものも一部あるんですね。
そういう点を除けば、Yoga Slim 7xはタフなマシンです。レビュー入稿中、遅くなることは一度もなくて、Google Chromeで55個タブ開いて、Google(グーグル)のビジネスツール、YouTube、ニュース、SNSを使いまくっても全然平気でした。
Qualcomm製CPUはベンチであまりいい数字が出ないのが常なので、今回もあまり高いスコアは期待していなかったんですが、蓋を開けてみれば、インテルCore i7 Uシリーズ並みの好成績でした。
Hシリーズに迫る局面もあったけど、総合ではHには届きません。CPUとGPUそれぞれの画像レンダリングでは4分以上かかることもあって、インテル製でスピードで負けています。Geekbench 6やCinebench R23のベンチでも同様の結果でした。Handbrakeのテストでも、Slim 7xは4K動画を1080pに変換するのに4分以上かかって一番遅い結果となりました。
うちの統合型CPUはゲーム向けじゃない、とQualcommは言ってますが、もっと上位のSnapdragon Elite X1E-84-100を搭載したノートでは高負荷の『God of War 』や『Control』 も普通にプレイできます。SlimにもGPUは同じのが入っているんですが、いかんせん、処理パワーが足りないので(TFLOP4.6に対してTFLOP3.8)、違いは如実に出ます。滑らかな操作から一転して、Slim 7xでは『God of War 』も『Control』も読み込みが詰まったりしてました。
AIはまだ準備段階
さて、主役のAI機能ですが、こちらはピンときませんでした。Photoshopで背景を消したり、CapCutで編集するときには便利だけど、それだけで「AIファースト」と呼ぶのは大げさな気がします。
たとえばCopilot+の機能では、AIで文字のプロンプトから画像を自動生成する「Cocreator」とかありますけど、あまり出番がないですし。「Windows Studio Effects」でビデオ会議の背景をぼかしたり、人物が中央にくるのはありがたいけど、ほかにできるプログラムはたくさんあるので必要ないっちゃー必要ないような。
リアルタイムで翻訳・通訳してくれる「Live Translate」がCopilot+の機能のなかでは一番出番が多そうですが、早口になると翻訳がついていけなくなるのが難点。鳴り物入りでデビューしたAIパソコンだっただけに肩透かし感は否めません。
とはいえ、AIはまだはじまったばかり。これからどんどんよくなっていくんじゃないでしょうか。
バッテリーはもうひとがんばり
Qualcommのノートパソコンは、処理性能を抑えてでも丸1日もたせている印象だったので、Slim 7xは「あれ?」となりました。
いや、誤解のないように言っておくと、毎日使って、10時間以上持つことは持つんですよ。初日はベンチマークで使ったのでもっと短いかと思ったら、そうでもなかったし。でもその後は、レビュー執筆中や楽曲、SNS、ネトフリ、ビデオ会議の途中で残量わずかの警告が出てきて驚くことが多かったです。
Yoga Slim 7xは買い?
Lenovo Yoga Slim 7xは単なるWindows 11搭載ノートとして見れば優れた製品です。いいところが山ほどあって、なにより一番の魅力はデザインでしょう。軽いのに丈夫で、カラーも好み。次にいいのは、OLEDの美ディスプレイです。まじで目の保養になります。
それに下位のSnapdragon X Elite搭載なのに、ベンチではインテルUシリーズ搭載ノートに勝るとも劣らない数値を出していて、仕事のほぼすべての作業を理想の環境でこなせるのにはビックリです。
相手がインテルのノートならバッテリー持ち10時間で満足だったんですが、インテルでもAMDでもないので期待のハードルが勝手に高くなっていました。
AIレースに乗り遅れまいとしてARMに乗ったQualcommですが、Apple(アップル)はそれで成功したけど、同じことがスナドラにも言えるかどうかは何とも言えません。処理性能は上々だったけど、ARMベースだと使えるアプリが限られてしまいますし、エミュレーター経由で使えるのもある反面、エラーが出てしまうアプリもあります。
AIにこだわるあまりバッテリー持ちが犠牲になっているのだとしたら本末転倒ですよね。1,199ドル(日本価格23万2540円)の価格はミッドレンジとしてはリーズナブルですが、誰にでも無条件におすすめできるわけではありません。AI、特にMicrosoft(マイクロソフト)の人工知能に一番乗りで触ってみたい人が飛びつくPCでしょう。
それ以外の人はたぶんインテルやAMD搭載のを買ったほうが、処理性能もバッテリー持ちもベターかもしれません。
ということで、総合評価は5段階評価で3.5といったところです。
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