ラグジュアリー日本酒のパイオニアであるSAKE HUNDREDが、きわめて新奇性の高い熟成酒「礼比(らいひ)」を発売。同ブランドでは3万円台の銘柄が最も充実しているなか、500mlで16万5000円という価格にもインパクトがあります。

↑「礼比」。醸造元である、永井酒造のテイスティングルーム&醸造研究所「SHINKA」にて

 

いったいどんな土地と製法で生み出され、どんな味わいなのか。酒蔵への取材から明らかにしていきます。

↑永井酒造から約1.5km真北の上流にある水源、溝又川はやがて利根川に合流する。硬度50〜60の軟水〜中軟水となり、やわらかさのなかで輝くグリップ力に先祖が惚れ込み酒造りを始めたとか

 

ロマネ・コンティとの差を埋めたい

SAKE HUNDREDは“日本酒の未来をつくる”を掲げるスタートアップ、株式会社Clearによって2018年に誕生。代表は生駒龍史さんです。いまや累計納入は230店舗以上、世界8地域にまで拡大していますが、特徴のひとつが銘柄ごとに醸造パートナーを吟味して委託していること。

↑株式会社Clearの生駒龍史代表。同社は2014年から、日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」の運営も行っている

 

自社で酒蔵を持たない主な理由は3つ。1社だけではなく日本酒業界全体を盛り上げたいから、ラインナップにより多様性が生まれるから、設備投資費を分散できるから。そのうえで、SAKE HUNDREDの銘柄は“その道のスペシャリスト”な酒蔵がそれぞれを手掛けています。

↑例えば、ブランドを代表する「百光」や「百光 別誂」は、精⽶歩合18%という超高精白な磨きが特徴。醸造は、全酒を精米歩合50%以下の純米大吟醸に絞って醸す楯の川酒造が手掛けている

 

今回の「礼比」は、世界初の瓶内二次発酵による発泡清酒「水芭蕉ピュア」など、業界でもスパークリング日本酒の名手として知られる群馬県の永井酒造が醸造。六代目蔵元の永井則吉(のりよし)さんは一般社団法人awa酒協会の初代理事長でもありますが、熟成酒の研究に関しても先駆者であり、一般社団法人刻SAKE協会(古酒や熟成酒の価値向上を目指す)発起人のひとりでもあります。

↑永井酒造株式会社の永井則吉代表。後継者は兄の永井彰一さん(五代目)に任せて建築学を専攻していたところ、蔵を刷新する際に設計チームの一員となったのが継ぐきっかけだ

 

永井さんが日本酒熟成の研究を始めたのは1995年。大学卒業後、23歳のときに先輩が招待してくれたワイン会で、衝撃的な出会いがあったと振り返ります。

 

「『世界を目指す酒造りをしたいならワインについて知るべきだ』とお誘いいただいて飲んだのが、ロマネ・コンティ(超高級ワインの代名詞といわれる)の『モンラッシェ 1988年』です。この力強さ、しなやかさとエレガントさはなんなんだ。この差を埋めない限り、日本酒は絶対この価値にならないと痛感しましたね。同時に、熟成酒の魅力に開眼しました。でも親には『熟成させるお金なんてないでしょ』と猛反対されたので、蔵のお酒を自ら買い取って研究を始めたんです」(永井さん)

 

神秘的な味を生み出す3つのこだわり

数々の知見を得て、いまや永井酒造からも様々な熟成酒が発売されるなか、「礼比」はきわめて特別な製法で造られています。それらを紹介する前に、まずは論より証拠。お二方と一緒にテイスティングさせてもらいました。

↑まず驚くべきは、14年もの熟成を経ていながら褐色になっていないこと。イエローゴールドに輝く、洗練された液色だ

 

香りは深い円熟感を放ちながらも、重すぎず伸びやか。例えるなら熟したりんごやプルーン、干し柿のような果実味です。加えてフラワリーな華やかさも持ち合わせ、きわめて上品な熟成のフレーバー。香りだけでも異彩なキャラクターであることが実感できます。

↑中央のアンバーな熟成酒は一般的な10年ものの古酒で、右が13年熟成タイプの「礼比」(写真も2023年発売時のもの)。色の違いは年数以上に熟成温度が関係している。

 

テクスチャーはなめらかでシルキー。口に含むと、はちみつや甘栗のような甘みがジワリと。立体的な凝縮感がやわらかな酸味とともに広がり、バニラやキャラメルなどを思わせるクリーミーなニュアンスもたまりません。余韻はエレガントな妖艶さを残しながらリッチなサステインが続き、神秘的な多幸感で満たされます。

↑ラグジュアリーな香りを最大限に生かすのが、すぼまったワイングラス。凝縮された味と香りを、よりダイナミックに伝えてくれる

 

10年以上も眠り続けていながら、驚くべき透明感と躍動の息吹を持ち合わせた熟成酒「礼比」。この稀有な特徴は、ある種異例といえる3つのこだわりから生み出されています。ひとつは、14年の長期氷温熟成であること。

↑マイナス5℃以下の氷温環境で14年間熟成。低温であるためメイラード反応が抑えられて褐色にならず、新酒のようにフレッシュなタッチと極めてなめらかなテクスチャーを両立する

 

もうひとつが、フレンチオークの新樽で後熟させていること。製造元は現地コニャック地方のタランソー社で、ジャパニーズウイスキーでは「イチローズモルト」の秩父蒸溜所が採用していることでも有名な名門です。

 

具体的には、熟成期間の最後の3年をマイナス5℃の環境でフレンチオーク樽ごと貯蔵しているとのこと。これによってスムースなタッチや、バニラのような甘いニュアンスがもたらされるのです。

↑内樽の焼き加減はミディアムチャーでオーダー。なお、タランソー社に新樽を発注した日本の酒蔵は永井酒造が初めてとか

 

そして最後のひとつが、贅沢な累乗(るいじょう)仕込み。こちらは醸造の一部を水の代わりに日本酒で仕込み濃密な味を実現させる手法であり、重厚で奥行きのあるみずみずしい甘みと、立体感のあるうまみを生み出しています。

↑累乗している元も純米大吟醸。純米大吟醸酒で純米大吟醸を仕込むという、きわめて贅沢な醸し方だ

 

自社販路をもつ永井酒造がタッグを組んだワケ

この味わいを生駒さんは、「オーケストラのように反響していく余韻。存在感がとても強いので、ペアリングよりも単体での嗜み方がオススメですね。累乗酒特有の甘味が氷温熟成を経てきめ細かく、酸も上手く立っていて、ものすごくバランスが良いお酒です」と表現。

↑対談場所は、永井酒造内の直売店「古新館」にて

 

そのうえで、「氷温熟成という挑戦や永井さんの研究にかける情熱など、『礼比』はストーリーも唯一無二です。自社で売る選択肢もあったと思いますが、どういう思いで私たちに託していただいたのでしょうか?」と永井さんにあらためて質問。永井さんの答えには、SAKE HUNDREDと共通する情熱がありました。

 

「持続的に高級市場でビジネスを挑んでいる生駒さんを見て、SAKE HUNDREDだったら大事に価値を高めていただけると確信しました。僕が人生をかけてやる仕事と腹で決めているのは、日本酒文化の価値創造なんです。これを徹底的にやって、日本酒を世界的なブランドにしていきたい。いち速く実現するために、今後も協力しながら業界を盛り上げていきたいですね」(永井さん)

↑将来的には日本酒が数百万円、数千万円で嘱望されるような未来を思い描く両人。その挑戦は、ますます熱を帯びていくに違いない

 

16万5000円と「礼比」は非常に高価ですが、だからこそ贈り物や特別な一本に最適といえるでしょう。ラグジュアリー日本酒の市場では老舗が展開を始めるほか業界外からの新規参入も相次いでおり、グローバルの視点から見ても拡大中。先駆者であるSAKE HUNDREDの挑戦に、今後も注目です。

 

【BREWERY DATA】

永井酒造

住所:群馬県利根郡川場村門前713

古新館営業時間:9:00〜17:00(SHINKAは完全招待制)

古新館休業日:火曜

アクセス:JR「沼田駅」より川場循環バスで約30分

 

【BRAND DATA】

SAKE HUDNRED

礼比|RAIHI

※礼比は永井酒造では販売していません。SAKE HUNDREDブランドサイトよりお求めください。