『Stand UP!!』©TBS

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 二宮和也、山下智久、成宮寛貴、小栗旬、鈴木杏とメインキャストがじつに豪華な『Stand UP!!』(TBS系)は2003年のドラマである。彼らはまだ20代前半。山下と鈴木はまだ10代であった。改めてドラマを見返すと、この頃から5人の俳優としての才能が煌めいているのがわかる。とりわけ、20歳になったばかりの二宮和也は『Stand UP!!』が初連続ドラマ単独主演であり、難易度の高そうなイケてない役を軽々と演じている。このドラマの前に、蜷川幸雄監督映画『青の炎』で二宮は、屈折した影のある少年役で主演し、俳優として注目されていたが、ドラマでは一転、早く“DT”を卒業したいと願う高校2年生の役で、演技の幅の広さを見せつけた。

参考:二宮和也の役への“憑依”を監督・Pが絶賛 『ブラックペアン』S2に刻まれる“新たな顔”

 最近はコンプライアンスの関係かめっきり減ったが、ドラマには10代が主人公のちょっとエッチな青春もののジャンルがあった。『Stand UP!!』は品川区戸越を舞台に、二宮、山下、成宮、小栗とイケてる俳優たちがそろって「DT」を演じ(劇中ではDB4とも呼ばれる)、彼らがひと夏のうちにDTから卒業できるかという、ある種の冒険譚だ。行き過ぎた行為に発展しないよう取り締まろうとする両親や教師たちの目をかいくぐって、少年たちはどこに行き着くのかーー。

 制作発表では、のちにTBS日曜劇場『JIN‐仁‐』をヒットさせる石丸彰彦プロデューサーが「性に関する情報が蔓延する中、少年達の姿を通して、性の矛盾に真っ向からぶつかっていきたいと思います」と半ば冗談と思うが語っていた(公式サイトより)が、基本は「エロコメ」。

 ださいくらい素朴な4人の少年とひとりの少女が恋愛問題に滑稽なまでに執着し、悩みもがきながら、ひと夏の間にちょっと成長していく、笑えて最終的には爽快な気分になれるドラマに、チーフ演出・堤幸彦が味付けを加えている。登場人物におもしろいクセやビジュアルを付加することが堤演出の特性のひとつであり、俳優のイメージとのギャップを作ることによって俳優をより魅力的にすることで定評がある。『Stand UP!!』でも登場人物をちょっと滑稽でカッコわるく、でも愛らしく仕立てている。

 二宮演じる正平はガンダムマニア。部屋中ガンダムのフィギュアだらけで、大人になったらなりたいものはガンダム。操縦するほうではなく、ガンダム自身になりたいという変わり者。山下演じる健吾は鉄道や古銭マニアで、京葉線の八丁堀から東横田までの駅名を暗記している。自身を「拙者」と呼ぶ。成宮演じる隼人は、フライングVというギターを持っていて、シャ乱Qのはたけを尊敬している。小栗演じる功司は、熱血なサッカー少年だが女子の前では調子が出ない。自身を「おら」と呼ぶ。鈴木演じる千絵は、昔は美少女で4人の初恋の人だったが、成長したらメガネっ子になっていて皆を戸惑わせる。また、彼らを取り巻く大人たちも、どこかユーモラスな人たちばかりだ。正平が憧れている教師(釈由美子)は毎回違うおもしろTシャツを着ていた。

 舞台は品川区戸越界隈で、実在する商店街を中心にふんだんにロケすることで、登場人物たちがどんなに風変わりであっても、リアルな風景のなかにいることで、こんな人たちが実際に存在しているかもしれないという親近感が沸いてくる。

 堤が付与したおもしろ設定はなかなかクセが強いが、二宮をはじめとした5人は見事に演じてみせる。そんな彼らの特性を堤は見抜いていた。公式サイトのインタビューで堤はこのように語っているのだ。

「ニノは、非常に親しみやすい感じ。そのへんにいそうな男の子の感じを出すのがうまい。それでいて、決まるところは決まる顔を持っている。その感じが好きですね。『ハンドク!!!』のときも、『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』でもちょっとクールな役をやってもらって。今回も一番カッコ悪いところにいるけど、その部分をしっかり担ってくれている。いろんな人にもまれながら、ほろ苦い思いを味わいながら、カッコ悪い奴がカッコいい奴に成長していく……そんな3カ月になればと期待しています」

「山下君は、マスクが非常に甘いんだけど、本音を語らない雰囲気がある。でも、言わずとも、優しさとか熱が伝わってくるんですね。無表情だけど、うしろにまわって、ほかの3人を大きく包んでいる感じを期待しますね。」

「 (小栗が演じる功くんは)“強いのか、弱いのか、両極端にふれているが、振り子が真ん中にいるときは、殆ど何もしないでぼーっとしている」(『Stand UP!!』公式サイトより)

 二宮は『Stand UP!!』で、主役にもかかわらず、一番カッコ悪いところにいる。健吾、隼人、功司はそれなりに得意なもの(音楽とかサッカーとか雑学とか)があり披露する機会もあるが、正平にはない。それがガンダムを操縦するのではなくガンダムになりたいという超越した考えに表れて見える。ほかの3人の調整役のような立ち位置の彼が最後の最後、何を見つけ、どんな行動をとるのか、彼の変化がエモーショナルで物語を牽引する。二宮和也は物語を作りあげてしまう俳優、彼自身が物語だという俳優であり、21年後の主演作『ブラックペアン シーズン2』でも、彼が立っているだけで何か心がざわつく物語が生まれそうな気持ちにさせられるのだ。

 また、山下の“無表情だけど、うしろにまわって、ほかの3人を大きく包んでいる感じ”という堤の抱く印象は、この当時は最年少で10代だった山下に対してピンとこない表現のような気もしたが、やがて、主役を演じるようになって、しかもリーダー的な役回りが多い様子を見ると、当時からその片鱗を覗かせていたことがわかる。

 小栗の役に関しては、確かに『クローズZERO』で圧強めな役をやりながら、背中を丸めて首を前傾させるとものすごくナイーブに見えたりして極端な俳優になっていく。

  また、成宮は独特の美意識と華をもっていたが、それをださい方向に転じる力を持っていた。

 正平、健吾、隼人、功司の4人が並んで歩いている場面も興味深く、二宮、山下は役柄とは別にセンターでアイドル(スター)っぽさがあり、成宮、小栗はその傍らでちょっと小技を出し入れしながら場を盛り上げている。それぞれの個性が決して団子状態にならず、細やかに違いながら、統一感を作っているのだ。そういう意味でも豪華共演である。

 千絵役の鈴木杏は『青の炎』では二宮演じる主人公の妹役で、これもまた映画とドラマの飛距離が大きい。『Stand UP!!』の二宮と鈴木は見た目はださく、おかしなふるまいをし続けるが、最終的には見た目の印象を剥いで、本質の純粋さをほどばしらせる。演技巧者のふたりだからできることだと思う。

(文=木俣冬)