Vol.139-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新たに登場したiPad Pro。搭載されるM4が真価を発揮するであろう、「パーソナルなAI」について解説する。

 

今月の注目アイテム

アップル

iPad Pro

16万8800円〜(11インチ) 21万8800円〜(13インチ)(※)

※ いずれもWi-Fiモデル

↑13インチモデルは最薄部で5.1mmの驚異的な薄さを実現。次世代プロセッサーとなるM4プロセッサーと強力なGPUでM2プロセッサーよりも4倍の高性能なレンダリング性能、同様にCPUは約1.5倍高速化している

 

生成AIを活用するサービスは日々増えている。だが、その多くはクラウド上で動くもので、どちらかというと“業務のための大きなAI”という印象だろう。

 

ただ、個人がAIを活用する場合、それだけでは不足だ。文書の要約や画像生成も重要だし有用だが、もっと生活に密着したものが使いたい……というのが本音ではないだろうか。スケジュール管理やわからないことの検索、操作の簡便化といった形で助けてもらいたい。

 

それをいまのAIでやるにはいくつかの課題がある。もっとも重要になってくるのが“いかに利用者のことを知るか”という点だ。

 

人間のアシスタントやサポートスタッフのことを考えても、自分の事情やこれまでの活動などを知っていてくれないと、自分に合ったサポートをしてもらうのは難しい。だから人にお願いするときには、契約や信頼関係を結んだうえで“自分のことを知ってもらう”ことになる。実は企業で生成AIを使う場合にも、その企業の情報やルール、部署が持つ情報を覚えさせて、“その企業を知ったAI”を使って運用する場合が多い。個人のアシスタントにする場合にも、同様のことを“個人単位”で行なう必要が出てくる。

 

だが、AIに自分のことを知ってもらうにはどうすれば良いのだろうか? 単純にデータを提供してしまうと、プライバシー侵害につながってしまう。

 

そうすると、個人が持っている情報はクラウド上のAIには提供せず、自分が使っている機器の中で処理を完結する「オンデバイスAI」が重要になってくる。

 

OSを持つ企業、すなわちアップル・グーグル・マイクロソフトは、各種デバイスのOSにオンデバイスAIを取り込み、機器の操作方法と利便性を大きく変えることを目指している。

 

ただ、オンデバイスAIを活用することになると、問題がひとつ出てくる。プロセッサーにより高い性能が求められるようになるのだ。AIの処理はCPUだと向いておらず、一般的にはGPUもしくは「NPU」と呼ばれるAI処理向けの機能で処理される。GPUはPCにもあるが、AI処理に使うほどの性能となると、消費電力の面でノートPCへの搭載が厳しくなってくるし、価格も上がってしまう。そこで、GPU以上にAI処理に特化したNPUを搭載していく必要性が生まれてきた。特に生成AIを使う場合、NPUの性能もグッと高いものが必要になってくる。

 

AIの処理能力は、一般に「TOPS」という単位で示される。マイクロソフトの「Copilot+ PC」では40TOPS以上が求められている。これは今までのPCやハイエンドスマホが搭載しているNPUが20TOPS未満であることを思うと、かなり大規模なものだ。

 

ここでアップルは、iPhone 15 Pro用の「A17 Pro」で35TOPS、iPad Pro用の「M4」で38TOPSのNPUを搭載する形を採った。他社に比べ処理をかなり上積みしているのだ。M3はスペック上18TOPSと、M4に比べかなり小さく、1世代で大幅に数字を上げてきてはいる。

 

実のところ、スペックで示されたTOPS数はあくまで数字に過ぎない。実際に使ったときの価値は機能の側で判断すべきだろう。今日の段階では、Copilot+ PCにしろM4搭載のiPad Proにしろ、AI性能の高さを体感できるタイミングは少ない。

 

アップルがM4を投入したのは、今年秋にアメリカでテストが始まる「Apple Intelligence」で活用するためだろう。Apple Intelligence自体はM1でも使えるのだが、デバイスの持つ処理性能が高いほど有利であるのは変わりない。日本で使えるようになるのは最短でも2025年とかなり先だが、そのときには、M4やA17 Proクラスのプロセッサーを積んだ製品も増えている可能性が高い。そういう意味では、iPad Proの高価さの価値が見えるのも“もうちょっと先”ではあるのだ。

 

Apple IntelligenceではSiriの高度化や写真の内容を理解しての検索など、かなりおもしろい要素が多数ある。2023年6月の段階では実際にデモが行なわれたわけではなく、どれくらい便利なのかは、まだ検証されていない。とはいえ、機器に新しい価値をもたらすものとしては期待できる。

 

当然、同じような要素はAndroidでも模索されていくだろう。“賢いパーソナルAIによって、どれだけ便利さを追求できるのか”が、ここからの競争軸になっていく。

 

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