Jリーガーから社長になって2年目 レノファ山口・渡部博文社長が語る「クラブ経営から見たサッカーの醍醐味」
渡部博文レノファ山口FC社長インタビュー(2)
「経営に興味がありました。長いサッカー選手生活のなかで、組織はもっと"こんなマネジメントをしたら、よくなるんじゃないかな"という自分のなかでの仮説があって。それを実証する挑戦をしたかったんです」
現役引退を考え始めた時、レノファ山口FCの渡部博文社長はその思いを口にしていた。2021年には、児童向けデイサービスの会社を起業。元来、経営に興味を持っていたし、さまざまな業界の人と話すのが好きで、「孫子の兵法」を熟読するほどだ。
だから経営に携わっていることに不思議はないが、実戦の苦労と手応えはあるだろう。Jリーガーから社長になって2年目、その現状とは――。
レノファ山口FC社長就任2年目となる渡部博文氏
――柏レイソル、ヴィッセル神戸のように大企業がバックにいるクラブでプレーしてきた渡部社長は、莫大な支援が受けられない地方クラブをどう強化しようとしているんでしょうか?
「今年の新体制発表会で、『(年間の売上高を10億円から)13〜15億円にアップする』という指標は示しました。これは、なかなか難しいです。1試合あたりの平均入場者数を増やしていかないといけないですが......そもそも目指さないと辿り着かない。みんなでそこに向かっていく、というのを意識してやっていますね」
――人気向上の一環で、何か手応えを感じているものは?
「今年で言えば、末永透瑛、山本駿亮という山口県出身の選手を獲得したことですね。思った以上に期待感が高まっています。末永はユースから引き上げ、山本は鹿児島ユナイテッドFCから獲得し、現在ではチームの戦力として貢献してくれています。今までのチームは、"4、5年に1回、昇格できるかも"という感じで、応援してきた選手もすぐいなくなるのが悲しかったようで、そこで積極的に地元の選手を引き上げる体制を作っていこうと。
ふたりとも、まだスタメンは多くないですが、出た時には結果を残し、そこは想定以上の活躍をしてくれています。町の熱量が高まることで、選手自身もさらに成長していくし、刺激になりますよね。地元の友だちからも連絡が来るだろうし、その期待感も広がってクラブの力にもなり、ほかの選手のパフォーマンスにも好影響を及ぼしています」
【経営的に見た「サッカーの醍醐味」】
――5位(インタビュー時点。第22節終了現在7位)は文句のつけられない順位です。サッカーは予算規模がそのまま成績に反映される側面もあり、売上高で16位のクラブとしては大健闘ですね。
「経営の目線で言えば、サッカーの醍醐味やロマンは、そこにあるのかもしれません。その資金のなかで、それ以上の順位、勝ち点を追って、結果を残せるか。そこが重要だと思っています」
――これだけの変化を残せた理由は?
「選手の獲得の仕方、監督の選び方などあると思うんですが......。まずは、クラブとしてのサッカーの方向性を明確にすることが優先でした。今シーズンは "このサッカーでいこう"と決めて、去年までやっていたサッカーから大きく軌道を変えることにしました。
クラブとして、大事にしてきた言葉や姿勢もあったのですが、その時々で監督が残した言葉ややり方は、あくまでその監督のもの。"クラブとして残っているものは?"となった時、自分が方向性を決める必要がありました。徹底的にデータを調べて、予算規模の高いクラブにどうやって勝つかを考えましたね。結果、自分たちのやっていたサッカーは、"勝つ確率の低いことをしているよね"という結論に至ったんですよ。
逆に、勝つ確率の高いサッカーとは何か。簡単に言えば、失点をしないことと、クロス、セットプレー、ショートカウンターでのゴールを増やすこと。それが効率がよくて、勝率にも直結していました。自分たちがやっていたのは、ポゼッションサッカーと呼ばれるようなチームの完成度や難易度が高いサッカーを志向していました......。もちろん、それができるならば理想的でしたが、"今ある予算や選手層で実現可能なのか"という葛藤のなかで、社長として判断する必要がありました」
――当然、監督の選定には関わったと?
「そうですね。志垣(良)さんとは契約前に面談をしました。志垣さんは戦う準備としてのチーム構築に重きを置いているし、そこを丁寧にできる監督を自分たちも求めていたので。山口は若い選手が多く、その力を引き出せる指導者が必要だと感じていました」
【予算規模のなかでどう勝ち点を稼ぐか】
――志垣監督を選んだ決め手は?
「まずはサッカーの方向性が合致したのと、もうひとつは志垣監督の人間性ですね。たとえば彼からは、自分より年上で実績のあるコーチを招聘し、『フラットな意見を言ってくれる方と一緒にやっていきたい』という提案をいただきました。それは信頼関係を築いて指導をしていく上で重要な考え方ですし、選手ファーストな姿勢が言葉に表れていました」
――去年、監督を務めたフアン・エスナイデルもうまくはいきませんでしたが、ひとつの布石にはなっているように見えます。
「今まであった雰囲気を刷新する、というところでエスナイデル監督を招聘しました。試合ごとの修正能力はすばらしかったですね。感度は高い監督だったと思います。ただ、(日頃の練習から)準備のところで積み上げに時間がかかってしまい、これを継続することは難しいと決断しました。最終的に、選手が自発的に向かっていくというのが、自分はゴールだと思っています。だから、今いるメンバーの組み合わせで勝てる、その方程式じゃないですけど、そこまで導ける監督を求めました」
――そこを突き詰めた成果が出ているように見えます。
「レノファは過去5年、勝てない試合が続いていました。自分も2年はプレーヤーとして在籍し、渡邉晋監督(2021年)、名塚善寛監督(2021〜23年)で、敵陣へのハイプレスと自陣から丁寧にボールをつなぎながらゴールに向かっていくスタイルを目指して......正直言えば、自分自身も選手として、そのサッカーにこだわりすぎたと反省しています(苦笑)。カテゴリーが変わり、みんなと目線を合わせるよりも、"まず下からボールをつないで"という美学のほうに寄ってしまったかなと。だから、この現象が起きたのは自分のせいだな、とも思いました。
昨年は、この失点は自分のせいだ、とも責任を感じて、このままではダメだと気づき、今シーズンは予算規模のなかでどう勝ち点を稼ぐか、を徹底的に考えました。データを取りに行って、効率的に勝つところを突き詰めて......」
インタビュー(3)「渡部博文社長が考えるクラブの成長戦略」へつづく>>
■Profile
渡部博文(わたなべひろふみ)
1987年7月7日生まれ。山形県出身。山形中央高校、専修大学を経て、2010年、柏レイソル入団。その後、栃木SC、ベガルタ仙台、ヴィッセル神戸、レノファ山口でプレーし、2022年、現役引退を発表。同年12月、レノファ山口FCの運営法人である株式会社レノファ山口の代表取締役社長就任が発表された。