久野美咲が鈴木央との対談で明かしたアニメ『ライジングインパクト』制作の裏側 主人公の「勝ちたい」気持ちを表現すべく共演者と徹底討論
『ライジングインパクト』鈴木央×久野美咲 対談(後編)
6月22日からNetflixにて、『ライジングインパクト』シーズン1全12話の一挙独占配信が開始された。同作は、大人気シリーズ『七つの大罪』『黙示録の四騎士』で知られる鈴木央によって、1998年から2002年の間で『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載された人気作。連載開始から25年以上の時を経て、待望のアニメ化。8月6日にはシーズン2(全14話)の配信が決まっている。
原作者の鈴木央とガウェイン役を演じた声優・久野美咲による対談後編では、主人公の性格や生き方から垣間見える凄みやアフレコ中に起きた"ある事件"、アニメ作品に対する熱い想いやメッセージを届けてもらった。
主演のガウェイン役を務めた声優・久野美咲 photo by Murakami Shogo
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ーー『ライジングインパクト』は普段聞きなれないゴルフ用語が出てきても、わかりやすい解説が織り込まれているのも印象的な作品だと感じます。そのあたりも意識して描かれていたのですか?
鈴木:いえ、むしろほとんど意識はしていませんでした。というのも、連載当時は他誌でもゴルフ漫画が連載されていて、それは実際にプロゴルファーの方が技術指導と監修を務めている本格派の作品でしたので、僕はそういう方向では描けないなと。少年誌ってある種、内容がぶっ飛んでいるような"とんでも漫画"を描けるのが楽しい要素だなと感じていたところもありましたから。
でもあとになって、「なんてことを描いてしまったんだ......」と思ったことがあって。ガウェインは小さい体ながら、ショットで300ヤードを遥かに超える驚異的な飛距離を出すキャラクターなんですけど、コントロールが悪く、ほぼストレートしか打つことができない設定で描きました。ただ実際のゴルフだと、じつはまっすぐ飛ばすのがいちばん難しいんです。
久野:え、そうなんですか!?
鈴木:はい。ゴルフ素人だから気づかずに、ガウェインの「弱点」だと思って描いていたのが、逆にプロでも難しいことを簡単にやってしまう描き方になっていたという(笑)。リアルなゴルフだと、ショットを打つとどうしてもサイドスピンもかかってしまい、たとえ飛距離を出せても左右どちらかに曲がってしまうケースのほうが多いので。
久野:ガウェインはすごくまっすぐで、無邪気で、誰に対しても素直に裏表なく向き合うじゃないですか。だからまっすぐにしか飛ばせないというキャラクター性は、彼らしいなって私は思いますね。
鈴木:ありがとうございます。結果的にはよかったですね。ガウェインの性格にも合って、いい奥行きというか、普通のゴルフ漫画とはちょっと違った形になったかなと思います。
【ガウェインに見る「"おもしー"」が根底にある生き方】ーーそんなガウェインはもともと才能あふれるキャラクターですが、それでもものすごいスピードで成長していく過程を、久野さんはどのように感じていましたか?
久野:ガウェインは、ショットでとてつもない飛距離を出せる「ライジングインパクト(太陽の光跡)」という"ギフト"を持っていて、まわりの人がワッと驚くような類稀なる才能があります。けど、彼を演じていて思ったのは、どんなにすごい才能があっても、その裏で人知れず積み重ねられる日々の努力や、誰にも負けたくないという強い気持ちがないと、その能力は発揮できないんだなって。
ガウェインは霧亜姉ちゃん(西野霧亜)と出会ってから、手のマメが潰れていることに気づかないぐらい集中して毎日1,000回素振りをしていました。これは誰もができることではありません。その努力ができることも彼の大きな才能のひとつですし、そういったことをひとつも欠かすことなく実行に移せる行動力があるからこそ未来がひらけていけるんだなと。
それから、ガウェインは周りの人たちにも恵まれていました。まず霧亜姉ちゃんと出会わなければゴルフの面白さを知ることはなかったし、おじいちゃんもガウェインの夢を応援してくれたりと、周りに彼の才能を見込んでサポートしてくれる人たちがいてくれたから、輝くことができたんだなって思うんです。
誰と出会い、その人とどんな言葉を交わすか、自分が相手にどんな表情を見せるか、どう行動するかで、その人との関係値は変わっていくんですよね。もちろん相手の心にもよりけりですが、まず自分がどうしたいか、どう関わっていくか、っていうことが大事なんだなって。私はガウェインを演じていてものすごくハッとさせられました。人とのご縁って、人生を豊かにしていくうえで、なくてはならないものだなって改めて実感しましたね。
それから、努力を重ねているのはガウェインだけではありません。ランスロットやリーベルなど、この作品に登場するキャラクターは、みんな本当に頑張っているんです。見ている私たちも頑張ろうと、勇気をもらえますよね。
ーー鈴木央先生は、こうした才能の裏にある努力について、どのような意識を持って描かれたのでしょう?
鈴木:まず、ひとつの物事に対して、理論とか理屈で考えて動く人と、とりあえずやってみるっていう人に分かれると思うんです。僕はどちらかというと後者で、たとえば新しい漫画のネームを持ち込んで編集者にダメ出しされても、めげずに次の作品制作に取り組めるタイプです。
もう少し言うと、長い期間を費やして描き上げた作品の掲載が決まり、もし「頑張ったね」と言われたとしても、僕からすると漫画家は好きでやっていることだから、制作過程に対して自分で頑張ったなとは思いません。
ガウェインもそうで、理論で動いたり理屈を重視するのではなく、とにかくゴルフが好きだから、球を遠くに飛ばすためにひたすら練習する。その好きなことに対するあり方、向き合い方は、彼らキャラクターたちに、競技者としても、ひとりの人間としても求めた部分ではありますね。
久野:アニメの第5話で、ライザー・ホプキンスに、なんでゴルフをやっているのか聞かれた時、ガウェインの「おもしー(面白い)がら」って言うセリフは印象的ですね。
鈴木:やはり、その気持ちがないとなにもできなくなってしまうと思うので。
久野:ワクワクした気持ちのまま動いているのがガウェインで、とにかくゴルフが楽しいし、みんなと勝負するのが楽しい。それこそ、1,000回の素振りも苦じゃないんですよ。彼にとっては楽しいからやっているだけで、努力を続けることを苦としない。「楽しい」が根底にある生き方をしているから、こんなに輝いているんだなって思いますね。
【"勝ちたい気持ち"を徹底的に話し合った「1時間」】ーー夢を叶えるために「好き」を原動力に努力をすることの大切さが伝わります。久野さんもこの作品と向き合ううえで、そういう気持ちを大事にされたのでしょうか?
久野:まさに「好き」が原動力となってガウェインの演技に臨めたと思うので、本当に楽しかったです。はじめはガウェインの気持ちがあまりわからなかったりもしたんですけど。
鈴木:じつは久野さん、ガウェインの勝ちたい気持ちがわからないと言って、アフレコ中に話し合いの時間があったんです。
久野:後日「どのくらい話し合っていましたっけ?」ってスタッフさんに確認したら、1時間話し合っていたそうです(笑)。事件が起きましたね。
ーーどういうことでしょう?
久野:アニメ第4話のアフレコの時に、これは正直に言わなきゃと、音響監督の小泉紀介さんに「あの、実は......勝ちたいっていう気持ちがわからないんですけど......」ってご相談をしたら、「えっ!?」って大声で驚かれて(笑)。アフレコを急遽中断して、"勝つとはなにか"をテーマに話し合いの時間を設けてくださったんです。
私がなぜこういう疑問を抱いたかというと、4話でガウェインがランスロットに向かって「次はぜってぇおめぇに勝つ!」というようなセリフがあったんですけど、ランスロットに喧嘩を売っているような感覚になってしまって。なんでそんな宣戦布告するような言い方をするんだろうと。
鈴木:ライバルであるふたりが、ゴルフで対決するのをお互いに楽しいと思っているからですよ。
久野:そうなんですよね。今ではガウェインのその気持ちがわかるのですが、その時はハッキリとはわからなくて。私は普段、日常生活でもお仕事をしている時も、勝ち負けとかライバル関係とか、そういう考え方をあまりしたことがなくて。作品づくりも、誰かが嫌な思いや悲しい気持ちにならないように、みんなで楽しく頑張りたい。そういう考え方で毎日過ごしてきたので、ガウェインが抱く「勝ちたい」という思いを100%表現できていないなと思ってしまったんです。なんでそんなに勝ちにこだわるの!?みたいな(笑)。
それでその時、一緒にアフレコに参加していたランスロット役の花守ゆみりちゃんと、小泉祐美子役の本渡楓ちゃん、マーリン・オルブライト役の田中美央さん、そして小泉さんの5人で話し合いました。みんなに言われたのは、やっぱりゴルフという競技は、いちばんにならないと勝てないということが大前提としてあると。勝負というのは喧嘩するわけじゃなくて、相手のことを尊重して、お互い認め合って、そのうえでぶつかり合う。それが楽しいんだよっていうことを教えてくれました。
鈴木:お前がすごい選手だから勝ちたいんだよ、ということですね。
久野:はい。そういう勝負に対する想いというのを、その時に初めて理解して、自分の中でも腑に落ちました。そのあとは、試合のシーンを演じるのも楽しくって仕方なくなりましたね。ものすごく努力して自信をつけて、自分と相手を信じて熱い気持ちでぶつかり合う、その勝負することの意味を、ガウェインを演じることで体感することができました。あの時の話し合いがなければ、ガウェインの気持ちをすべては理解しきれなかったかもしれません。一緒に話し合ってくださった5人と、その話し合いの間に温かく見守ってくださったスタッフさん方には、感謝の気持ちでいっぱいですね。
【シーズン2は"激アツバトル"のオンパレードに!】ーーさて、6月22日から『ライジングインパクト』シーズン1(全12話)が配信されました。8月6日から配信開始するシーズン2(全14話)も含め、作品の見どころをお聞かせください。
鈴木:ゴルフ漫画となると、けっこう身構えてしまう人もいると思うんですけど、作り方としては、ガウェインという主人公の男の子がいろんなキャラクターと友情を育み、ときには葛藤しながら成長していく。そのきっかけとしてゴルフがあるという形の物語になっています。なので、ゴルフ好きの人はもちろんですが、そうではない人でもすんなりゴルフの世界に入っていける作品になっているので、ぜひ見てほしいです。
久野:見どころは、全部です!(笑)。央先生がお話していたように、ゴルフが好きな方、あまり詳しくない方どちらでも楽しめますし、試合のシーンで、そのホールが何ヤードで規定打数の「パー」が何打なのかも表記されていますから、わかりやすくお話も楽しめると思います。
鈴木:シーズン2では、すげぇやつが出てきます。
久野:それって、あのキャラですか?
鈴木:あのキャラです(笑)。まぁ、すでにキャラクタービジュアルが公開されているので話しますが、江口拓也さん演じるトリスタンという最強の選手です。原作でも屈指の人気キャラクターでしたので、彼の登場も期待しながら、バトルが続く熱い展開もぜひお楽しみください。
久野:まさにシーズン2からは強敵が出てくるというのもあって、空気感がちょっと変わります。「ザ・勝負!」という感じで、つねに選手同士がバチバチと火花を散らしながら、激アツバトルが繰り広げられます。ガウェインが悩み苦しみながら、どんどん勝負の世界にのめり込んでいく様子も描かれているので、そういう世界観をどっぷりと楽しんでいただけたら嬉しいです。
ーー最後におふたりからメッセージをお願いします。
鈴木:25年以上前に描いた漫画なので、やはり拙い作品ではあると思います。昔の自分に「もうちょっとちゃんと描けよ!」と言いたいぐらいです(笑)。けど、長らく支持し続けてくださった多くの関係者やファンの方々がいたからこそ、こうしてアニメ化にまで至り、すばらしい作品が出来上がりました。ただただ感謝しかないですし、本当に、素直に嬉しい。ぜひ見ていただきたいです。
久野:たくさんのスタッフ・キャストの皆さんのおかげで、こうやってアニメ作品としてお届けできることを嬉しく思います。作中のキャラクターには、それぞれ抱えている葛藤や、勝利に対する強い気持ちがあって。その熱い想いがぶつかり合うと、ものすごい迫力がありますし、思わずぐ〜っと歯を食いしばってしまうようなシーンがたくさんあります。それでいてスカッと爽快な気分も味わえるんです。本当に心を揺さぶられる作品になっているので、ぜひ見ていただけたら嬉しいです!
【Profile】
鈴木央(すずき・なかば)/1977年2月8日生まれ。福島県出身の漫画家。1998年に「週刊少年ジャンプ」誌上で『ライジングインパクト』にて連載デビュー。主な代表作は『ブリザードアクセル』、『金剛番長』、『七つの大罪』、『黙示録の四騎士』など。
久野美咲(くの・みさき)/1月19日生まれ。東京都出身の声優。2003年に映画『ボイス』の吹き替えで声優デビュー後、2010年に『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』でTVアニメ初出演。『七つの大罪』(ホーク役)、『3月のライオン』(川本モモ役)、『アイドルマスター シンデレラガールズ』(市原仁奈役)、『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(ファプタ役)など出演作多数。