宇野昌磨の引退で鍵山優真が担う日本男子トップの自覚「世界選手権で優勝を狙う」
6月28日〜30日、KOSE新横浜スケートセンターで開催された『ドリーム・オン・アイス2024』。
照明全灯で6分間練習もある競技会形式で行なわれたこのアイスショーで、鍵山優真(21歳/オリエンタルバイオ・中京大)が披露した新ショートプログラム(SP)は、彼の身体のなかにある"踊りたい気持ち"を抑えたプログラムだった。
『ドリーム・オン・アイス』で新SPを披露した鍵山優真
「振り付けのローリー・ニコル先生が、『The Sound of Silence』は『ユウマの静かなエッジワークと合うんじゃないか』と言ってくださり、この曲を選んでもらいました。前半は本当に静かな感じ。
目の前にいる観客の人たちは僕のエッジの音が聞こえると思うんですけど、静かに滑っていく曲なので、僕の技術で最大限に見せないと平坦なプログラムに見えてしまうところがすごく難しい。もっともっと頑張らなければいけないと思います」
鍵山がそう話す『The Sound of Silence』の演技。出だしは、持ち前のスケーティング技術を活かした丁寧な滑りだった。
ショー2日目の昼公演では、4回転サルコウ+2回転トーループにし、同日夜の公演では単発の4回転サルコウに。伸びのあるつなぎ滑りのなかで、昨季の四大陸選手権からフリーに入れた4回転フリップを跳び、3回転トーループをつける連続ジャンプにした。
「4回転フリップを今季のショートに入れるかどうかはまだわからないけど、『ドリーム・オン・アイス』を通して、これからできるのかどうかという手ごたえをしっかり感じていきたいなと思って挑戦してみました」
続くフライングシットスピンのあとのつなぎは、感情がたっぷりとにじみ出た滑りだった。そのあとは、トリプルアクセルも確実に決め、キレのあるステップシークエンスを滑り、最後のチェンジフットコンビネーションスピンは足替えのあと、逆回転をする挑戦を見せた。
ノーミスの演技に鍵山は、小さなガッツポーズも見せた。
【日本男子を牽引していく自覚】「表現面の挑戦で言うと、まだまだ気を抜くとエッジがガリッと鳴ってしまったり、粗い部分が出るので、避けられるようにしたいです。終盤のステップは曲がすごく盛り上がるところなので、それに負けないような体の使い方や表現をしていきたいなと思います。
今、必死に頑張っているのは、前半はとにかくエッジの音を鳴らさないこと。つなぎの動きもたくさんあるけど、しっかりと丁寧なエッジワークを見せたい。『ドリーム』はお客さんの席がすごく近いので、音が聞こえないようにちゃんとした滑りを見せたいです」
昨季の世界選手権後は、4回転フリップだけではなく4回転ルッツの練習に取り組んでいる。また、鍵山は、跳べているジャンプのクオリティーをさらに高める取り組みもしているという。一方で、表現力をさらに高めていくことも大きな課題にしている。今回のSPは、表現を突き詰めるための選択でもある。
「今季は1試合1試合の質を高めていくことを大事にしていきたいと思っています。(ケガから復帰した)昨季は本当にゼロからのスタートだったので、とにかくたくさん試合に出て、自分のできる技術の100%を少しずつ伸ばしていく作業をしました。
今季は今の段階で、練習で4回転ルッツや4回転フリップが安定している。だから本当に1試合目から300点を出せるくらいに自分の納得のいく演技ができるようにしたいです。結果としても出場するすべての試合で優勝できるようなパフォーマンスができるように頑張りたいです」
『ドリーム・オン・アイス』の演技も重要な機会ととらえていた。
「試合のようなウォーミングアップをして、ひとつの試合のようなイメージで本番に臨んでいます。見ている人たちが点数をつけたら、しっかりと100点以上を出してもらえるようにパフォーマンスをするのが目標。
今季は、世界選手権でももちろん優勝を狙っているので、ライバルたちに負けないように頑張りたいです」
宇野昌磨が現役を引退したなかで、自分が日本男子を牽引していかなければいけない立場になったことを自覚するからこその挑戦だ。
【三浦佳生は差別化で世界トップへ挑む】一方、鍵山と同じように、新フリーの『Umbrellas Of Cherbourg / Les Parapluies de Cherbourg』を披露した三浦佳生(19歳/オリエンタルバイオ・明治大)も新たな挑戦している。
「曲自体が好きで、前々からやってみたいなと思っていた。今年の世界選手権で韓国のペアが使っているのを見て、本当にいいプログラムだなと思って、自分も印象を変えたいなと思って選びました」
こう話す三浦は昨季、『進撃の巨人』で激しい滑りを見せていた。だが、その演技に不満を感じたという。
「自分の演技を見返してあらためて、フィギュアスケートをしていないなと感じました。ジャンプを跳んで盛り上がって......というのはあるけど、"男受け"のいいプログラムというか。競技的な点数面もそうだけど、自分が『フィギュアスケートをしてないな』という印象でした。
きれいに滑るところもないし、スケートで魅せるというより自分のパワーだけという感じだった。だから自分のスケートをもっともっと磨いていき、こういうプログラムを滑ればもっと点数ももらえるような気がしました。
見ている皆さんには、僕には(新フリーの)曲のイメージはあまりないかも知れないけど、自分は聞いた時から、合うんじゃないかなという感じがあって、滑っている姿も想像もできました。
他の人とは差別化できるようなプログラムをつくりたいというのもあります。世界選手権で表彰台に上がった(イリア・)マリニン選手や鍵山選手、(アダム・)シャオ イム ファ選手という3人と戦っていくために、技術面ももちろんそうだけど、そういった差別化も絶対に必要かなと」
振り付けは、昨季のフリーと同じシェイ=リーン・ボーン氏。最初はしっとりとした雰囲気のなかでも体を大きく使う、つくり込んでいるのがわかる滑り。そんななかで4回転ループと4回転サルコウを跳ぶと、音が強くなったところで4回転トーループを跳び、迫力があるフライングキャメルスピンのあとは、昨季より関節の可動域を大きくした動きで丁寧にステップシークエンスを滑り、力強さのなかに柔らかさも組み込む滑りを見せた。
昨季は世界選手権に初出場したが、調子はよかったにもかかわらず気負いから空回りし、総合8位と悔しい思いをした。まだ、ジャンプの完成度は高くないが、「今季は悔しさを晴らしたい」という強い思いを感じさせるプログラムになっている。
【新たな表現世界に挑む山本草太と佐藤駿】ほかにも、昨季は全日本選手権で3位に入った山本草太(24歳/中京大)はSPの『Split, Postcards from Far Away』を披露。ブノワ・リショー氏の振り付けで、つなぎが複雑な動きになっただけではなく、スピンやステップシークエンスも動きのなかに余韻も感じさせる深みがあり、クールな雰囲気のプログラムだった。
また、昨季の四大陸選手権で自己最高得点を出して2位になった佐藤駿(20歳/エームサービス・明治大)はSPの『Ladies In Lavender』を滑った。
北京五輪アイスダンス王者のギヨーム・シゼロン氏の振り付けで、優しい曲調の出だしは細かい動きの連続で雰囲気をつくり出し、つなぎの滑りや緩急をつけたステップシークエンスでは腕だけではなく指先の使い方にも神経を張り巡らせた丁寧な滑りだった。
新たな表現世界に意欲的に取り組んでいる山本と佐藤も、鍵山や三浦とともに今季見逃せない存在になりそうだ。