DeNA小園健太はなぜスイーパーを習得しようとしているのか? きっかけは細川成也に打たれたタイムリー
小園健太〜Aim for the ace of the Baystars 第3回
小園健太(DeNA)の最大の持ち味といえば、毎分2300〜2400回転という高スピンレートを計測するストレートだ。ホップするようなその球筋。小園自身、そのストレートを「生命線です」と語る。
一方で変化球はどうなのか。ストレートありきの変化球とはよく言われるが、小園は自分なりの見解を以下のように語る。
「自分はストレートだけで抑えられるピッチャーではないので、投球の幅を考えても変化球には重きを置いています」
新たな変化球の習得に取り組むDeANの小園健太 photo by Sankei Visual
小園は数種類の変化球を投げ分けるが、もっとも重要視しているのがカーブだという。小園のカーブは縦に鋭く割れ、カウントはもちろん、空振りも取れる大きな武器だ。ちなみに中学生の時、初めて投げた変化球もカーブだった。
「自分としては、カーブは絶対に消してはいけない球種だと思っています。やはりストレートと一番球速差がありますし、ここを消してしまうとバッターに読まれやすくなってしまいます」
またカーブは、自分の身体の状態を知るバロメーターにもなっている。
「たとえば、ストレートを引っかけたり、抜けたりしたときにカーブを使うと立て直しやすいという利点があります。自分の投球フォームの善し悪しがすぐにわかるっていうんですかね。カーブが縦にきれいに曲がるときは、腕を上から振って、ボールを叩けているということですし、腕の振りが緩んでないからこそバッターもタイミングが狂って空振りが取れる。だから非常に重要な変化球ですね」
次にカットボール。高校時代から小園の代名詞となっていたボールだが、左右の打者関係なくオールマイティーに使える変化球だ。
「じつは、カットボールはプロになってから握り方を変えたんです。高校の時の速度帯は130キロ前半だったんですけど、今は130後半から140キロに乗るぐらいなので、限りなく真っすぐに近づけているという感じですね。だからカットに関しては一番ピッチトンネルを意識しています」
そしてフォーク。以前よりもしっかりと落とし切ることができており、このあたりも改善の余地が見える。
「以前は縦落ちのツーシームというのか、右打者のインコース、左打者の外にシンカー気味にストンと落ちるイメージで投げていたんですけど、カーブを上から叩いて投げるようになってから、縦落ちするようになりました。昨年は精度が悪かった部分があってどうしても空振りが取れないこともあったんですけど、今年は空振りが取れていますし、しっかりと武器になっていると思います。理想を言えば、バッターから見て消えるような軌道を描ければいいなと考えています」
【新球種にチャレンジする理由】あらゆる面でアップデートができているようだが、4月10日のプロ初登板後に反省点も踏まえ、新たに加えた変化球がある。それがチェンジアップだ。
「フォークが落ち切らないときに、縦系の変化球がないと苦しいなと思っていたんです。実際にファームの試合でチェンジアップを投げてみると、フォークにあまり頼らなくてよくなりました。チェンジアップで奥行きを出すことで、真っすぐでバッターを差すこともできていますし、これもより精度を高めていきたいです」
チェンジアップは投手によって"抜く"のか、それとも"腕を振る"のかで大別されることがあるが、小園はどのような意識で投げているのだろうか。
「 "抜く"チェンジアップというのが苦手で、なかなかうまくいかなかったんです。そこでいろいろ自分で調べてみると、J.B.(ウェンデルケン)のチェンジアップがサイドスピンをかけて落とすようなイメージで、それをやってみたら意外としっくりときたんです。ただ、J.B.と同じようなサイドスピンをかけるとピッチングが崩れてしまうので、頭のなかではサイドスピンをかけつつも、実際そこまではかかっていないイメージですね」
速度帯は真っすぐよりも8〜10キロ程度のマイナスなので、チーム一の使い手である濱口遥大のように緩急と落差で勝負するチェンジアップというよりも、小園いわく「"チェンジ・オブ・ペース"といった感じです」とのことだ。
そしてもうひとつ、精力的にトライしている変化球がスライダーを改良したスイーパーだ。近年、MLBの影響もあり取りざたされている変化球だが、端的に言えば"横に大きく曲がり、沈まず、ある程度速度があるスライダー"である。なぜスイーパーを習得しようと思ったのかを小園に尋ねると、それもまたプロ初登板に起因しているという。
「あの中日戦で細川成也さんにタイムリーを打たれたのもスライダーだったんですけど、どうしても右バッターに対しての決め球というか、自分のなかでこれっていうものがありませんでした。カットとカーブを持っているので、その中間というか、横滑りする変化球が必要だなと思ったんです」
【東野コーチ直伝のスイーパー】そこで一役買ったのが、今季からファーム投手アシスタントコーチに就任した東野峻だ。東野コーチは、現職に就く前の2年間、投手育成アナリストを務め、小園のルーキーイヤーからのトラッキングデータを詳細に分析し、密なコミュニケーションをとってきた関係だ。小園いわく、東野コーチは「お父さんのような人」だという。
小園は東野コーチが現役時代に横滑りするスライダー(スイーパー)を投げていたことを知り、「どうやって投げているんですか?」と自ら教えを乞うたという。その時の状況を東野コーチは次のように振り返る。
「これまで小園が試合で投げてきた全球をトラッキングしてきたのですが、その中でもスライダーはすごく面白い球種だなとかねてから思っていたんです。通常スライダーって、リリースからミットに向けて落ちていくマイナス成分が大きいボールなのですが、小園の場合はホップ成分が多くてボールがあまり落ちず、なおかつ大きく曲がる。一軍登板を終えてファームに来たとき、やはりひとつでも空振りが取れるボールがないといけないね、という話になったんですけど、小園から僕のスライダーの投げ方を訊かれ、ここがタイミングかなと思いチャレンジさせているんです」
東野コーチの横滑りするスライダーは独特だ。通常、スライダーの握りは、人差し指と中指をくっつけるものなのだが、東野コーチは、その2本の指を離した状態で、ボールの縫い目を滑らすように投げていたという。
「これまでいろんな選手に教えてきたんですけど、ボールがほどけてしまうというか、抜けてしまうことが多いんです。けど小園は器用なタイプで、教えたら初球から投げられました。しっかり腕を縦振りして、チョップするように投げてみなさいって。要は曲げるのではなく、"切る"イメージですね」
ボールの質は日に日によくなっていき、ファームでの試合でも投げ、小園はもちろん東野コーチも手応えを感じている。
スイーパーの定義は「128キロ以上の球速で、25センチ以上横に曲がり、10センチ以上沈まない」というものだが、小園はこの数字をほぼクリアしているという。今後どこまで精度を上げ、大きな武器となっていくのか注目だ。
ただ、あくまでも東野コーチも声を大にして言うが「軸はストレート」である。小園は、決意するような口調で語る。
「『ストレートをゾーン内で強く』というのは絶対ですし、そこにはこだわっていきたい。変化球は、ストレートを待っていても差すという反応をさせたいので、目線を変えるためにもバッターの頭にない変化球を、意外なタイミングで投げるなど、引き出しを増やして工夫していきたいと思います」
ストレートありきの変化球ではあるが、一方で変化球ありきのストレートでもある。待ち望む2度目の一軍登板に向け、小園の研鑽は果てることなく続いていく──。
小園健太(こぞの・けんた)/2003年4月9日、大阪府生まれ。市和歌山高から2021年ドラフト1位で横浜DeNAベイスターズから指名を受け入団。背番号はかつて三浦大輔監督がつけていた「18」を託された。1年目は体力強化に励み、2年目は一軍デビューこそなかったが、ファームで17試合に登板。最速152キロのストレートにカーブ、スライダー、カットボール、チェンジアップなどの変化球も多彩で、高校時代から投球術を高く評価されている。