広島6年ぶりのペナント奪回はあるか? 佐々岡真司が挙げた後半戦「4人のキーマン」
大混戦となっている今シーズンのセ・リーグ。そんななか、現在首位を走っているのが新井貴浩監督率いる広島だ。昨年は優勝した阪神に10ゲーム差以上つけられるも、5年ぶりAクラスとなる2位。そして今年も自慢の投手力が機能し、快調に首位を走っている。広島の強さはどこにあるのか。6年ぶり優勝へのキーマンは。前広島監督の佐々木岡真司氏に解説してもらった。
※順位、成績はすべて7月1日現在
現在、故障離脱中だがチーム一の長打力を誇る末包昇大 photo by Sankei Visual
── チーム防御率2.05は12球団1位です。具体的にどこがよくなったのでしょうか。
佐々岡 まず大瀬良大地はこの2年、ヒジの調子に悩まされていましたが、手術を経て、球のキレが出てきました。これまではストレートで押し、カットボールを有効に使った組み立てだったのが、33歳にしてモデルチェンジしました。カットボールをより効果的に使うため、右打者に対してシュートを取り入れました。投げるリズムもこれまでの「1、2、3」から「1、2の3」と間(ま)が生まれたことで、ボールにキレが増し、バッターもタイミングが取りづらくなった印象です。6月7日のロッテ戦でノーヒット・ノーランを達成し、防御率0.80はリーグトップ。32歳でシュートを覚え、その年(99年)に15勝とノーヒット・ノーランを達成した自分と重ね合わせていました。
── 先発ローテーションは、大瀬良投手のほか、九里亜蓮投手、床田寛樹投手、森下暢仁投手、玉村昇悟投手、アドゥワ誠投手の6人で回しています。
佐々岡 昨年まで5年連続開幕投手だった大瀬良に代わり、今年は同い年の九里が務めました。また、床田と森下は打撃が好きで、ピッチングはもちろんですが打撃でも切磋琢磨しています。チーム内にライバルがいることが、チーム防御率1位という結果につながっているのではないでしょうか。
── アドゥワ投手についてはいかがでしょうか。
佐々岡 2018年は中継ぎで53試合に登板し6勝。19年は先発で14試合に投げて3勝を挙げるなど、経験は積んでいます。196センチの長身から放たれるストレートは、ボールが動く独特の軌道で、打者にとっては打ちづらいと思います。それに気持ちも前面に押し出して、見ていて気持ちがいいですよね。
── 中継ぎ陣は、左右2枚ずつ揃えています。
佐々岡 昨年、球団初の最優秀中継ぎ賞のタイトルを獲得した島内颯太郎、24セーブを挙げた矢崎拓也が著しい成長を見せました。また、左の塹江敦哉(ほりえ・あつや)は20年と21年に、同じく左の森浦大輔は21年と22年に20ホールドポイント以上をマークしています。塹江は投球フォームを少しサイド気味に変えましたが、それでも150キロ近くの球速が出ます。彼らがいることで、7回、8回を任せられますし、状況によっていろんなパターンの継投ができるのも強みです。
── そして守護神には、栗林良吏投手がいます。先日、「佐々岡さんの通算106セーブを超えられるのは、100セーブの時よりもうれしい」と語っていました。
佐々岡 栗林は私が監督の時に獲った投手なので、彼の活躍はうれしいですね。プロ4年目、日本人最速タイ記録となる178試合目での通算100セーブは称賛に値します。この先、150セーブ、200セーブ、250セーブと目指してほしいですね。
【プロ6年目、小園海斗の自覚】── チーム本塁打数は31本(リーグ4位)ながら、39盗塁はリーグトップ。往年の「カープ野球」を彷彿とさせます。
佐々岡 新井監督の「失敗してもいいから、どんどん思いきった走塁をするように」という方針が、常に前の塁を狙うという積極性につながっています。
── 今季、マット・レイノルズ、ジェイク・シャイナーの外国人選手を獲得しましたが、現在は「純国産打線」に近い状態です。
佐々岡 当然、4番候補として期待していたと思うのですが、ここ2、3年、外国人選手がうまく機能できていない状況が続いています。4番打者が固定されないなか、小園海斗が入るなどサプライズ采配を見せています。高校出6年目の小園は、これまで好不調の波がある選手だったのですが、自分がチームを引っ張らなくてはいけないという責任感が生まれてきたのだと思います。リーグトップの得点圏打率が示すように、勝負強い打者になりました。昨年秋、侍ジャパンに選出されたことも自信になったのでしょうね。
── 最近は矢野雅哉がショートのポジションに固定され、卓越した守備力を披露しています。
佐々岡 亜細亜大学からドラフト6位で入団して、今年で4年目。小柄(171センチ、71キロ)ながら、入団時からフィールディングと肩はすばらしいものがありました。課題だった打撃ですが、今年は"振る力"がついてきたことで急成長しました。カープにとっては"うれしい誤算"と言えるかもしれません。菊池涼介との二遊間は、今や12球団ナンバーワンと言っても過言ではありません。
── その一方で、"打てる捕手"として期待の坂倉将吾選手の調子が上がってきません。
佐々岡 坂倉は「捕手一本でやりたい」ということで、昨年出場した120試合中102試合でスタメンマスクを被りました。捕手というポジションは配球や投手とのコミュニケーションなど、やらなければいけないことがたくさんあります。不調の原因はよくわかりませんが、ただ坂倉のバッティングはあんなものではないですよ。
【6年ぶり優勝のキーマンは?】── 昨年は阪神に11.5ゲーム差をつけられ2位。とくに9月以降は9勝14敗と失速しました。
佐々岡 昨年は、シーズン終盤に故障者が出てしまいました。今年はその反省を踏まえ、ケガしないことを最優先に、選手たちに休みを与えながら戦っています。あと指揮官となって2年目の新井監督が、何がチームに合うのかを考え、いろいろな作戦を練ってやっています。とくに今年は「投高打低」の傾向が顕著で、広島も完封負けが12試合あるにも関わらず、首位に立っています。少ないチャンスで得た得点を、先発、中継ぎ、抑えと充実の投手陣が守りきる。今年の野球にマッチしているのかもしれないですね。
── 6年ぶりの優勝に向け、今後カギを握る選手は誰でしょうか。
佐々岡 セ・リーグは大混戦です。そんななか、個人的にはチームを活性化させるという意味でも、ドラフト1位の常廣羽也斗に後半戦の救世主になってほしいですね。そして開幕投手を務めた九里に、もっと勝ち星を伸ばして意地を見せてもらいです。
── 打者はいかがですか。西川龍馬選手がFAでオリックスに移籍しましたが、ここまで大きな穴にはなっていません。
佐々岡 先ほど「走る野球」と言いましたが、一方で一発長打を秘めた末包昇大(すえかね・しょうた)の打撃は魅力です。6月26日に左太ももを痛めて登録抹消され、復帰までまだしばらくかかると思いますが、彼の力が必要な時が絶対に来るはずです。そして坂倉にも調子を上げてもらいたいですね。末包が抹消された日にホームランを打ちましたが、全員が一丸となって6年ぶりのペナント奪回を期待したいですね。
佐々岡真司(ささおか・しんじ)/1967年8月26日、島根県出身。浜田商からNTT中国に進み、89年ドラフト1位で広島に指名され入団。プロ1年目から2ケタ勝利と2ケタセーブを挙げるなど活躍。2年目の91年は最多勝、最優秀防御率に輝き、MVP、沢村賞など多くのタイトルを獲得。99年にはノーヒット・ノーランを達成し、03年には史上6人目の通算100勝100セーブを記録した。07年に現役を引退し、15年から広島のコーチ、20年から22年まで監督を務めた。現在は野球解説者、評論家として活動している