2024年、都知事選のポスター掲示板(写真・アフロ)

 過去最多の56人の候補者が乱立している東京都知事選(7月7日投開票)。大人数ゆえにNHKなどが放送する「政見放送」も通常番組の編成を変えるなど、てんやわんやの模様だ。

「都知事選の政見放送は候補者1人あたりテレビ・ラジオそれぞれ5分30秒が割り当てられ、テレビはNHK総合と東京MX、ラジオはNHK第1とTBSラジオで放送されます。政見放送を辞退する候補者もいるということですが、それでもNHK総合テレビだけで放送時間は合計約11時間になる見込みです」(社会部記者)

「11時間」の放送枠を捻出する作業がいかに大変かは容易に想像がつく。今回の都知事選では掲示板に亡くなった若手俳優の似顔絵や女性の全裸写真、女性専用風俗広告、有料サイトに誘導するQRコード、動物の写真やイラストなどが貼られる問題が発生し、案の定、その流れで政見放送も“カオス”になっている。

「政策を語る候補者も多いのですが、なかにはアイドル声で『わたしのこと、可愛いと思ったでしょ』とカメラに向かって微笑み、さらには『暑いね』とシャツを脱ぎ出しチューブトップ姿になる女性候補者、ゴルフのスイングを始める候補者、ひたすら笑う候補者などがいました。政見放送は編集などが許されていないので、公序良俗を乱すなどしない限り、候補者の『主張』をそのまま放送しなければなりません」(前出・社会部記者)

 候補者がどれだけ“過激”な演説をしていても、その後ろで聴覚障害者に向けて候補者の主張を淡々と仲介する「手話通訳者」。さらには、手話通訳者にむかって怒声をあげる候補者も出てきた。今回の異常事態とも言える政見放送の映像の一部は、Xなどで取り上げられ拡散している。ネット上では、この手話通訳者に同情の声が集まっていた。

 Xにも

《奇人変人コーナーになってる都知事選の政見放送何が凄いってあの奇人変人の中でも表情崩さない鉄の手話通訳さん》

《政見放送ホントに手話通訳の方が可愛そうだからやめてほしい》

《もう手話通訳さんが気の毒で泣けてくる》

《服を脱ぐ、手話通訳の女性に近づいて大声で絡むとかありえない》

 などの声がポストされていた。

「都知事選の政見放送には『東京手話通訳等派遣センター』から派遣された手話通訳者が出演しています。国内にはおよそ4000人の手話通訳の有資格者がいますが、政見放送を担当できるのは、政治用語などの特別な講習を受けた通訳者のみです」(手話通訳会社関係者)

 そのため総理大臣や大臣の記者会見などでは、同じ顔ぶれが担当するのである。

 かつては手話通訳者に暴言を吐いたり、威嚇したりする候補者もいたという。まさに命懸けの仕事だ。改めて、頭が下がる思いである。