地震で失った子どもたちの同級生から届いた手紙を読む大間圭介さん=金沢市で2024年6月19日午後8時6分、井村陸撮影

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 「会いに来ました」。金沢市の自宅のチャイムが鳴り、大間圭介さん(42)が玄関ドアを開けると、近所の男の子が立っていた。長男の同級生で、手作りしたという銀色のブレスレットを、誕生日プレゼントとして持参していた。「お菓子も一緒に食べていいですか」。遺影が飾られた6畳間に座り、在りし日の長男の思い出を話してくれた。

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 元日の能登半島地震で、石川県珠洲(すず)市仁江(にえ)町にあった妻はる香さん(当時38歳)の実家が土砂崩れに巻き込まれた。妻だけでなく長女優香さん(同11歳)、長男泰介さん(同9歳)、次男湊介ちゃん(同3歳)が犠牲になった。家族のうち、大間さんだけが残された。

 地震からの半年で3月17日に長男、4月10日に妻、同26日に長女の誕生日が来た。子どもの誕生日には同級生らから手紙やお菓子、カチューシャなどのプレゼントが届けられた。手紙には「天国に行っても幸せでね」「これからも私たちのこと見守ってね」などと書かれている。

 「手紙を読むのはつらいですね。外出し、子どもたちの同級生を見る時も、幸せそうな家族を見たりしても……」。まだ読むことができないままの手紙もある。地震後しばらくは、外出する機会も減ったという。

 子どもたちの友人が自宅を訪れるきっかけになったのが、大間さんが1月下旬に開設したネット交流サービス(SNS)のインスタグラムだ。寝る前によく投稿している。自身の古里でもある珠洲市の海に出かけたり、夏祭りに参加したりした時の思い出だ。「写真を見返すとつらくなることがある。それでも、みんなの知らない妻と子どもたちを発信していきたい」

 春までほぼ毎日続けた投稿は約90件に上り、フォロワーは1万人を超えた。「遠い赤の他人ですが、一緒に泣いています」「ずっとパパのこと優しく見守ってくれていますよ」などと励ましのメッセージが寄せられている。

 「ずっと下を向いていても、子どもたちに申し訳ないな」。3月に県警の警察官として仕事に復帰した。

 長女と長男は昨秋、学校行事のマラソン大会を前に、前年より良い成績を目指すと言った。子どもたちに「やればできるよ」と言ったことを思い出した。

 いまは10月にある「金沢マラソン」に、久しぶりに参加しようと考えている。試しに走ってみると、体のなまりを感じた。「お父さんも有言実行しなくちゃな」。写真の中でほほえむ家族に語りかけた。【井村陸】