世界最高峰のレベルで「史上最年長」という記録を更新し続けるのは、どんな気分だろう。

 ポルトガル代表のセンターバック、ペペは41歳でピッチに立ち続ける。開催中のユーロ2024ではチームのベスト16進出に大きく貢献。バックラインでチームメイトを叱咤する姿は、凄みさえ感じさせる。

 グループステージ第2戦、トルコ戦でのパフォーマンスは際立っていた。バックラインを見事に統率、ほとんど裏を破らせていない。焦って放り込んできたロングボールなど、簡単に跳ね返した。駆け引きの時点で、敵FWを凌駕しているのだ。

 長年のプレーで培った勘か、適切なポジションを取り、パスカットにたびたび成功した。もっとも、老練なディフェンダーは、インターセプトやデュエルの勝ち負けに酔わない。チームを有利にするためだけに、その力を使える。

「トルコはエモーショナルなチームだったが、我々ポルトガルは成熟したチームだ」

 試合後、ペペはチームを自分に重ね合わせるように語ったが、まさに歴戦の猛者だろう。

 ユーロだけの話ではない。ペペは20年以上、「無事是名馬」でトップレベルでのプレーを続けてきた。ポルトでは4度のリーグ優勝、レアル・マドリードでは3度のリーグ優勝、3度のチャンピオンズリーグ(CL)優勝。代表としても139試合に出場し、4度のワールドカップ出場、4度のユーロ出場で、ユーロ2016では優勝している。

 昨シーズンも、ポルトでカップ戦も含めると34試合に出場。CLでベスト16進出に導いた。強気なディフェンスでカードをもらうこともしばしばだが、ありあまる闘争心は衰えていない。

 なぜ、ペペは41歳になっても最前線で戦えているのか?


ユーロ2024決勝トーナメント進出に大きく貢献したペペ(ポルトガル)photo by Reuters/AFLO

 2008年、ペペがブラジル人からポルトガル人になることを選び、ポルトガル代表としてユーロ2008を戦った後だった。筆者は23歳だった彼にインタビューしたことがある。

「自分の人生を振り返ってみて、恵まれていたなって思っているよ。サッカー選手として経済的に豊かになったというのはあるし、プロとして結果を残さないといけない責任はあるんだけど、なにより自分はサッカーを心の底から楽しんでいる。そうでいられる環境にいることに幸せを感じるし、自分の場合は"楽しむことができなければいいプレーはできない"と思っているから」

【貧しかった子ども時代】

 ペペはそう言って、自然な笑みを洩らしていた。もっともその笑顔は、陽気というよりは、戦い抜く覚悟をした者だけが身につけられる類のものだった。

「ブラジルのマセイオという町で生まれ育ったんだけど、僕が住んでいた地区はお世辞にも柄がいいとは言えなくて。低所得者層の住宅地というか、かなり貧しかった。でも、父からは"すべては自分の意志と努力で決まる。しっかりとした道を歩みなさい"と言われた。子どもの頃は一緒に遊んでいた友人が、薬物にはまって廃人同様になる姿は痛々しかった。でも、人生は自分で選ばないといけない。自分にはサッカーがあった......ボールを蹴ることは幸せだし、サッカー選手であることが自分の道だと思っている」

 貧しさから抜け出すハングリーさ。それはスポーツの世界では"定型"だろう。しかしペペはその精神を忘れず、サッカーに感謝しながらピッチに立ち続けた。それは彼の異能だ。

「神様に導かれたんじゃないか、と思える時がある」

 ペペは言う。

「自然に体が動いて、そのプレーをしてしまうことがある。もしかすると、周りの人にはわからない感覚かもしれない。しかし、選手はそういうとき、"自分はそのプレーをするため、ここに存在しているんだ"と思う。そうすると、力が湧きあがってくるんだよ」

 当時からペペには、「ピッチで勝ち残る。さもなければ次はない」という切迫したメンタリティがあった。だからこそ、どんなディフェンスにも適応できた。リカルド・カルバーリョ、ファビオ・カンナバーロ、セルヒオ・ラモスなど世界最高級のセンターバックとコンビを組み、鉄壁を誇っている。たとえばカンナバーロとは守りを固める速さに注意し、カルバーリョとは逆に先手を打つ守りを心掛けたという。

 ペペは、そうして今日まで勝ち続けてきた。監督の体現者として、ジョゼ・モウリーニョが率いたレアル・マドリード時代は、かなり好戦的なタイプに映るほど"求められる選手"になりきった。妥協がないのだ。

 インタビュー当時、憧れだったフェルナンド・イエロから授かったディフェンスの心得を暗唱していた。

「ディフェンスは常に注意を払い、裏のスペースを意識しなさい。重要なのは、チームメイトたちに絶えず声をかけること。選手たちがどこにポジションを取り、何をすべきか、それを明確にし、リーダーシップを取らなければならない。ピッチの中だけじゃなく、ピッチの外でも積極的に話し合うように......」

 41歳になったペペは、今もその教えを忠実に守るようなプレーを見せる。

 7月1日(日本時間2日4時〜)、ポルトガルはベスト8をかけ、スロベニアと対戦だ。