7月1日(日本時間2日1時〜)に行なわれるユーロ2024決勝トーナメント1回戦の好カード、フランス(グループD2位)対ベルギー(グループE2位)。大会前、イングランドとともにブックメーカー各社から優勝候補の本命に推されていたフランスだが、決勝トーナメントを前にした段階では、スペインに抜かれ、ドイツに並ばれ、3番手タイに人気を下げている。

 グループリーグ3試合は1勝2分けだった。唯一勝利した初戦のオーストリア戦は出来映え的には70点。引き分けたオランダ戦のほうがむしろ若干よくて75点。そして3戦目のポーランド戦は、メンバーを入れ替えたこともあり、65点ぐらいに終わった印象だ。

 ブックメーカーと同様、フランス状態を「イマイチ」と判断することもできる。しかし、全7試合を戦う決勝戦までの道のりを踏まえれば、現段階で調子が上がりきっていないことを好材料と捉えることもできる。判断は難しい。キリアン・エムバペをケガで欠きながら、内容的にやや上回ったオランダ戦を見ればわかるように、大崩れはしそうもない。高い水準で安定したチームと言える。だが、チームに火はついていない。体温は低いままで、高揚感はない。そうした意味で、ベルギーは格好の相手になるかもしれない。

 ベルギーは大会前、イタリアとともにブックメーカー各社から7番人気に推されていた。8強(フランス、イングランド、ドイツ、スペイン、ポルトガル、オランダ、イタリア、ベルギー)のなかで、フランスを最上位とするならば、ベルギーは最下位。グループリーグで消えたカタールW杯の不成績から立ち直っていない。3位に輝いた2018年ロシアW杯時の力はない――と判断されたようだ。

 スロバキア、ルーマニア、ウクライナ。旧東欧圏の3チームと同組になったグループリーグの成績も1勝1分1敗で、結果的にも内容的にも、右肩上がりに転じているようには見えない戦いぶりだった。

 とはいえ、フランス対ベルギーは決勝トーナメントで、8強同士が直接対決をする唯一のカードである。どちらが勝っても今後に勢いがつくと見られる大きな一番だ。

【欧州一のコンビ、エムバペ&デンベレ】

 フランスは初戦(オーストリア戦)の終盤、大エースのエムバペが鼻を骨折。しかし3戦目(ポーランド戦)で復帰し、マンオブザマッチ級の活躍を演じているので、今後に向けて問題はないだろう。大会ナンバーワンのスターである。その活躍とフランスの成績は比例関係にある。


ポーランド戦でケガから復帰したキリアン・エムバペ(フランス) photo by Reuters/AFLO

 1戦目、2戦目を4−2−3−1で戦ったフランスは、3戦目を4−3−3で戦っている。だが、これは1トップ下のアントワーヌ・グリーズマンを休ませるための布陣と考えるべきで、ベルギー戦は、当初の4−2−3−1で戦うのではないか。

 エムバペはマイボール時と相手ボール時とでポジションを変える。マイボール時は左ウイングとしてプレーするが、攻守が入れ替わり、相手ボールに転じると、1トップの位置に入る。エムバペと入れ替わるようにポジションを変えるのはマルクス・テュラム。マイボール時は1トップとして、相手ボール時は左ウイングとして相手のサイドバック(SB)の動きを牽制する。

 エムバペの守備への負担を軽減させようとする作戦と思われる。テュラムはストライカー兼エムバペの影武者といったところだ。ベテランのオリビエ・ジルーには、さすがにその役を任せることはできない。テュラムがジルーに代わってスタメンを張る理由のひとつだろう。

 攻撃時における最大の魅力は、そのエムバペとウスマン・デンベレが仕掛ける左右のウイング攻撃だ。両ウイングといえば、グループリーグではスペインのニコ・ウィリアムズ(左)とラミン・ヤマル(右)が、インパクトのあるプレーを披露。鮮烈な印象を与えているが、欧州一のコンビと言えばエムバペとデンベレだろう。テュラムを間に挟むこの3人を1トップ下のポジションから下支えするアントワーヌ・グリーズマンも、相変わらず技巧の粋を見せている。

 そしてさらに、このアタッカー4人を下支えするエンゴロ・カンテの存在も見逃せない。今大会で復帰した33歳のベテラン。フランスのもうひとつの顔役である。ただ、そのために21歳のエドゥアルド・カマビンガの出場機会が失われていることも事実。これをどう捉えるか。フランスに勢いが出ない理由にも見える。

 最終ラインで目につくのは左SBのテオ・エルナンデスだ。グループリーグで活躍した一番の左SBと言えばマルク・ククレジャ。彼なしにいまのスペインはないと言いたくなる貢献度大の左SBだが、それを僅差で追うのがエルナンデスだろう。この選手がボールに触れるとフランスは途端に安定する。

【ふたりがかりでも止められないドク】

 対するベルギーも最大の売りはウイングになる。

 左ウイングのジェレミー・ドクは、所属のマンチェスター・シティでは、フィル・フォーデンに出場時間で劣る。ジャック・グリーリッシュにも同じことが言えるが、同チームのなんとも言えぬ上品な体質には、彼らのほうがマッチしている。激しいアクションで動き回るドクの出場時間が増えれば、その技巧的なサッカーは暴れる感じになりがちだ。だが、ベルギー代表ではそのプレーのすべてがプラスに作用している。誰にも止められない左ウイング(右もこなすが)として、相手チームに対して圧倒的な脅威となっている。

 ふたりがかりでマークについても止まらない。縦もあれば内もある。失敗はほぼない。エムバペのウイングプレーに負けず劣らず。というより、プレー回数、登場回数では大きく勝る。まさに大車輪の活躍なのだ。

 ドクと1トップを張るロメル・ルカクとの関係も見どころのひとつだ。ドクからルカクへの足下へ差し込むようなパスから生まれるポストプレーは威力抜群。その落としをエース、ケヴィン・デ・ブライネらが狙う攻撃は、フランスを慌てさせるには十分な、可能性を感じさせる立体感のようなものがある。

 一方、右ウイングはドディ・ルケバキオ、ヨハン・バカヨコ、レアンドロ・トラサールが交代で務める。なかでも恐いのはデンベレのドリブルを彷彿とさせるルケバキオの縦突破だ。左足を駆使し、縦にグイグイと出るボール操作術、突破力をどれほど安定的に決めることができるか。

 ただしドクの左ウイングに比べ、右ウイングはプレー回数で劣るという現実がある。この崩れがちな左右のバランスをどう是正するか。好選手として先述したフランスの左SBテオ・エルナンデスの守備機会をいかに増やすことができるか。ここも見逃せない、大きなポイントのひとつになる。