ボストン・レッドソックスで2年目を迎えた吉田正尚は、決して「順調」とは言えないシーズンを過ごしている。

 現地時間6月28日まで36試合に出場し、打率.244、2本塁打、13打点、OPS.663。4月中旬から徐々に調子が上向きになり、同27日のシカゴ・カブス戦では4安打を放った。ただ、左手親指のケガで6月11日までの約1カ月半、離脱したことが痛恨だった。

 レッドソックスは6月28日で、シーズン半分の81試合を消化した。ここで吉田の今季前半戦の総括、今後の展望について、ボストンの老舗新聞社『ボストン・グローブ』のアレックス・スピアー記者に意見を求めた。

 後半戦での巻き返しは可能なのか。一部で根強く噂されるトレードはあり得るのか。ボストンでの入団時から吉田のMLBキャリアを追いかけ、今季のプレーも間近で見てきたスピアー記者の言葉からは、背番号7の現状がわかりやすく伝わってきた。


後半戦での巻き返しが期待されるレッドソックスの吉田正尚 photo by Getty Images

【好調時と今の状態の違い】

 前半戦の吉田は、打撃不振に悩まされた印象があります。やはり左手のケガが大きかったですね。故障するのに"適したタイミング"というものは存在しませんが、離脱前、好調だった4月中旬ごろの吉田と、今の彼は明らかに違って見えます。約6週間にわたって戦列から離れ、その影響を受けてしまっているように見えます。

 レッドソックスが得点力不足に苦しんでいた時期だったためか、マイナーでのごく短いリハビリ期間で復帰した印象がありました。復調に向けてしっかりとした時間が得られなかったのでしょう。そのためか、吉田の打撃のタイミングには依然として少し狂いがあるようにも見えるんです。

 今季の吉田はDHに専念していますから、今後はいい打撃成績を残さないといけません。定評があったはずの出塁率を向上させ、二塁打以上を安定して放つパワーが求められるでしょう。レッドソックスが契約した際、吉田はそういう選手だと見られていたのですから。

 どうしても本塁打の数が注目される傾向にありますが、私が注目しているのは、強烈なラインドライブの数を増やせるかどうかです。吉田はレフト方向に鋭い打球を打つ技術を持っています。今でもそういった打撃を見せる時はありますが、ややフライを打つことを意識しすぎて、ひっかけることが増えている印象もありますね。苦しんでいるときの吉田は一、二塁へのゴロが増えるのが特徴です。

 それよりも左中間、右中間に鋭い打球を飛ばし、速球にも反応して一塁線にライナーを放てる時が彼の"ベストの状態"、というのが私の見方です。安定してギャップ(右中間、左中間)にライナーを飛ばせるようになれば、チームは安心するでしょう。今は、そのための打撃フォームを模索しているように見えます。

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 5年9000万ドルの大型契約でレッドソックス入りした昨季、吉田は打率.289、15本塁打と1年目としては及第点の成績を残した。今季は厳しいスタートを切ったのは事実だが、6月24日以降の3試合では9打数4安打と復調の兆しを見せている。打撃技術は確かなだけに、これから数字を上げていくことは十分に想定できる。

 ただ、今季のレッドソックスは外野陣の層が厚く、今後DHも含めてのロースター整備を考えても不思議はない。さらに、昨秋に編成本部長に就任したクレイグ・ブレスロー氏が、『オフの間に吉田のトレードを模索した』とも報道された。今後、移籍話の再燃はあるのか。スピアー記者はその可能性にも話を巡らせた。


『ボストン・グローブ』のアレックス・スピアー記者 photo by Sugiura Daisuke

【外野陣の層が厚い中でやるべきこと】

 今季の前半戦を通じ、レッドソックスは期待以上の好成績を収めてきました。43勝38敗で折り返しを迎えるというのは大方の予想を上回ったでしょうね。

 外野陣も、ジャレン・デュラン(打率.287、20盗塁)、ウィリアー・アブレイユ(6本塁打、OPS.786)、セダンス・ラファエラ(8本塁打、10盗塁)、タイラー・オニール(16本塁打、OPS.892)、ロブ・レフスナイダー(打率.322、OPS.889)と揃っています。今後は、これらの戦力をどうフィットさせていくかに注目です。

 現状ではまだ何か抜本的な手段を考え、実行する段階ではありません。吉田がこれから復調すれば起用法もより簡単になりますが、不振が続いた場合、さまざまなことが難しくなっていくことは考えられます。特に今季の吉田は外野手ではなく、"DH限定の選手"とみなされているのであればなおさらです。プレータイムを確保するためには、成績を上げなければならないでしょう。

 オフの間、トレードのマーケットに吉田が出たということはすでに語られています。レッドソックスは興味を持つチームが出てくるかを探りましたが、残りの契約期間と年俸が考慮され、手を上げるチームは現れなかったと思われます。

 今季中に、レッドソックスのフロントが再びトレードを考慮することは想定内ですが、吉田が打たない限り、マーケットが広がることはないはずです。今の状態が続けば、吉田の将来を巡る状況は複雑になりかねません。

 ただ、こういった少し厳しい立場にあっても、クラブハウス、フィールドでの吉田の姿勢や態度が、好調だった1年前とまったく変わっていないことを私はリスペクトしています。彼は常にプロフェッショナル。そして、5年契約を結んだ選手なのだから、今後も優先的に機会を与えられるはずです。

 いずれにせよ、ベストの改善策は吉田が好成績を残すこと。それを成しえれば、チームに残って貢献するにしても、別の道を探るにしても、話はよりシンプルになっていくに違いありません。