6月30日(日本時間7月1日4時〜)、スペインはユーロ2024のベスト8進出をかけ、ジョージアと対戦する。

 グループステージのスペインは、クロアチア、イタリアという強豪を連破。第3戦のアルバニア戦は、大半の選手を入れ替えながらも完勝だった。16歳のラミン・ヤマル(バルセロナ)は大会を彩るスーパースター候補に。実績で言えば格下のジョージアを蹴散らして、準々決勝での対戦が濃厚な開催国ドイツとの決戦も視野に入る(所属は2023−24シーズン)。

「まずは、すばらしい戦いを見せるジョージアをリスペクトすべきだろう。彼らは強豪ポルトガルに勝ってノックアウトステージに進んできた。こうした試合を重ね、より危険なチームになっている」

 スペインを率いるルイス・デ・ラ・フエンテ監督が、そう言って警戒するのは本心だろう。少しでも油断すれば、寝首をかかれる。

 ジョージアは、守護神ギオルギ・ママルダシュビリ、崩し役のクヴィチャ・クヴァラツヘリアというふたりの軸がはっきりしている。ママルダシュビリは今季ラ・リーガ9位のバレンシアで、伝統の堅守速攻を堅持。クヴァラツヘリアはナポリで英雄ディエゴ・マラドーナとも重ねられるほどで、たったひとりで勝利をもたらすことができる。

 チームとして、ほかの全員がふたりにすべてを託し、身を粉にできる。そのシステムが確立されており、フィジカルの能力が高い選手が多く、士気も高まっているだけに難敵だ。

 スペインはどう戦うべきか?


ユーロ2024で一躍スーパースター候補に躍り出たラミン・ヤマル(スペイン)AP/AFLO

 ワールドカップ制覇(2010年)、ユーロ連覇(2008年、12年)を成し遂げたビセンテ・デル・ボスケ監督が退任後、スペインは代表監督の周辺がいつも騒がしかった。

 フレン・ロペテギは欧州王者として挑んだユーロ2016でベスト16と低迷し、2018年ロシアW杯では開幕2日前に解任の憂き目に。暫定監督のフェルナンド・イエロはベスト16が精いっぱいだった。後任のルイス・エンリケはマスコミとの関係が悪化し、最後は独り相撲に。2022年カタールW杯は日本に敗れたうえ、ベスト16で敗退した。

【大会屈指のサイドアタッカー】

 カタールW杯後に就任したデ・ラ・フエンテ監督は、特徴がないと言えばない。しかし、ユース年代で代表を指揮し、U−19、U−21欧州選手権で優勝、東京五輪では準優勝するなど、多くの選手を育成から知る利点を生かしている。また、自分の色よりも活躍している選手を優先。「いい守備はいい攻撃を作る」というバランス型で、そこはデル・ボスケに似ているか。2023年はユーロ予選を突破し、ネーションズリーグでも優勝。質朴な采配で強さを取り戻した。

 何より、いまのスペインは人材に恵まれている。なかでも両サイドのアタッカーの破壊力は大会屈指だ。

 右サイドのヤマルはスピード、テクニックに優れ、ウィングプレーにとどまらない。カットインしてのシュートや連係で相手ディフェンスを幻惑。クロアチア戦ではヨシュコ・グバルディオルに悪夢を見せ、ダニエル・カルバハル(レアル・マドリード)にピンポイントのクロスを合わせてゴールをアシスト。得点機会創出の精度は並外れ、年齢を考えたら、「史上最高傑作のアタッカー」と言えるだろう。

 ヤマルはバルサの下部組織「ラ・マシア」育ちで、リオネル・メッシの系譜で育てられた。しかし、ドリブルのリズムはメッシのような単騎で敵陣へ斬り込む激しさではなく、ブラジル人のサンバのようなおおらかさと自由が内在し、捉えどころのなさにスペクタクルを感じさせる。左利きにしたロナウジーニョ、ネイマールに近いか。

 一方、左サイドの21歳のニコ・ウィリアムズ(アスレティック・ビルバオ)はアスレティックの下部組織「レサマ」で兄イニャキとともに育っている。アスレティックはバスク人純血主義で知られるが、レサマで育った選手も含まれる。兄はガーナ代表を選んだが、ニコはスペイン代表を選択した。

 スプリントが武器で、高速プレーでも技術が落ちない。イタリア戦はジョバンニ・ディ・ロレンツォを圧倒。どちらかと言えば、縦を突っきるクラシックなウィングプレーが魅力だ。

【気がかりなのはセンターバック】

 このふたりにボールを供給する中盤のトリオ、ロドリ(マンチェスター・シティ)、ペドリ(バルセロナ)、ファビアン・ルイス(パリ・サンジェルマン)は、それぞれ持ち味が違う。ロドリはマンチェスター・シティで証明しているように抜群のプレーメイクで、セルヒオ・ブスケツの穴を埋めた。ペドリはライン間で魔術師の本領を発揮し、ファビアン・ルイスはラインを突き破るようなドリブルや左足シュートが出色だ。

 そしてトップも、アルバロ・モラタ(アトレティコ・マドリード)がクロアチアン戦で神がかった動き出しでゴールを決めるなど、得点力を全開させつつある。バックアッパーにはゼロトップのミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)、横からのボールにめっぽう強いホセル(レアル・マドリード)を擁する。

 両サイドバックはカルバハル、マルク・ククレジャ(チェルシー)が中盤の選手のようなセンスを持ち、ボールを運び、スペースを作る。アルバニア戦で先発したヘスス・ナバス(セビージャ)、アレハンドロ・グリマルド(レバークーゼン)もクロスなどで持ち味を出していた。

 GKはウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)が守護神として定着した。2023−24シーズンのサモーラ賞(年間最優秀GK賞)を受賞。足元のプレーに難はあるが、ほかはコンプリートな能力の持ち主で、抜群の勘と反射神経でPKストップも得意とする。ダビド・ラヤ(アーセナル)、アレックス・レミロ(レアル・ソシエダ)はリベロ的性質を持ったGKで、使い分けができるほど贅沢なメンバーだ。

 そんななかでアキレス腱はセンターバックか。エメリク・ラポルト(アル・ナスル)は左利きでフィードに定評があり、ナチョはレアル・マドリードの欧州制覇に貢献するが、ふたりとも筋肉系の違和感を抱えている。ロビン・ル・ノルマン(レアル・ソシエダ)は激しく戦えるし、ダニエル・ビビアン(アスレティック・ビルバオ)もスピードに優れたファイターだが、盤石ではない。もともとチームの特色も攻撃的だけに......。

 ジョージア戦のスペインはボールを持つ時間が長くなるだろう。昔はポゼッションに固執する傾向があり、こうした相手に苦戦していたが、今回は相手の守備陣形を破壊できるヤマル、ニコがいる。押し戻されても、ファビアン・ルイスやペドリは攻撃を組み直し、同時多発的にサイドバックもゴールに迫る。GKにシュートを防がれ、たとえ一発を食らっても、勝ちきれる陣容だろう。

 ユーロ予選でスペインはジョージアと2度戦っている。1−7(アウェー),3−1(ホーム)と、いずれも勝利した。ただし、どちらも失点を喫している。