近年、捕手併用のチームが増えている。143試合という長いペナントレースを戦ううえで、ひとりよりも複数で戦うほうが、メリットがあるということなのだろうか。捕手として日本プロ野球最多の通算3021試合に出場し、今春「野球殿堂入り」を果たした谷繁元信氏に、現在の捕手事情について語ってもらった。


今季、急成長したDeNAの山本祐大 photo by Koike Yoshihiro

【ひとりの捕手で戦う必要はない】

── 12球団を見渡すと、捕手併用のチームがほとんどです。その現状を、谷繁さんはどう見られていますか?

谷繁 各球団、「正捕手をつくりたい」「レギュラー捕手を育てたい」という思いはあるのですが、なかなかできていないというのが現状だと思います。ならば、ひとりに任せるのではなく、何人かの捕手で回していこうと。最近、私は「メイン捕手」という表現をしているのですが、それだけひとりに任せるのではなく併用が多くなったということです。近年は投手との相性で、捕手を起用するケースも増えています。

── 今のセ・リーグの捕手陣を見て、具体的にいかがですか。

谷繁 阪神は、昨年から梅野隆太郎と坂本誠志郎の併用です。広島は、坂倉将吾がもうひと皮むけてくれたら出場機会は増えてくると思うのですが、現状はベテランの會澤翼、石原貴規との併用です。會澤は先の交流戦でも、大瀬良大地のノーヒット・ノーランを陰で演出するなど、経験値の高さが際立っています。DeNAは山本祐大、ヤクルトは中村悠平がメイン。中日は木下拓哉を中心に分散しています。そして巨人は大城卓三、小林誠司、岸田行倫の3人で回している状況です。

── パ・リーグはどうでしょうか。

谷繁 オリックスは右太もも痛で一軍登録抹消されていた森友哉が復帰しましたが、去年に引き続き若月健矢との併用が続いています。ロッテは今季、佐藤都志也が頑張っていますね。もともと打撃に定評のある選手です。ソフトバンクは海野隆司が台頭してきたといっても、やはり甲斐拓也がメイン。楽天は太田光がメインで、石原彪がそれに続く存在です。西武は古賀悠斗がメインです。そして日本ハムは、田宮裕涼が完全に抜け出しました。

── 谷繁さんの現役時代は、セ・リーグは矢野燿大さん(阪神)、西山秀二さん(広島)、中村武志さん(中日)、阿部慎之助さん(巨人)、古田敦也さん(ヤクルト)、そしてパ・リーグも里崎智也さん(ロッテ)、城島健司さん(ソフトバンク)、伊東勤さん(西武)、鶴岡慎也さん(日本ハム)など、時代は多少前後しますが、各チームに絶対的な捕手がいました。

谷繁 スケジュールなどを考慮すると、ひとりの捕手にする必要はないと思います。ただ現状を見ていると、レギュラーになる可能性のある選手がちょこちょこ出てきているという印象です。

【セ・パの打てる捕手に注目】

── 現在、谷繁さんが注目している捕手は誰ですか。

谷繁 パ・リーグでは田宮です。千葉の成田高からドラフト6位入団の6年目の選手です。昨年終盤10試合に出場して、レギュラーになる可能性はあると見ていましたが、日本ハムには実績のある伏見寅威や、大学ナンバーワン捕手と呼ばれ昨年のドラフトで2位指名された進藤勇也などライバルが多い。そのなかで、今季開幕スタメンの座を勝ちとるや、首位打者争いを演じる活躍でブレイクしています。結果を出したことで、さらに成長している感じがします。

── 田宮選手の守備面はどうでしょうか。

谷繁 まず肩がすばらしい(盗塁阻止率・394=リーグ1位/6月25日現在、以下同)。キャッチングにはまだ課題が残りますが、合格点の域に近づきつつあります。リードに関しては、レギュラーを4、5年張っているわけではなく、実質まだ1年目なので、これからさらに伸びる可能性もあるし、もしかしたら成長が止まる可能性もあります。しかし、それは田宮に限ったことではなく、ほかの選手にも言えることです。これからが本当の勝負です。

── ほかに気になるパ・リーグの捕手はいますか。

谷繁 実績のある甲斐が全体的にワンランクレベルが上がったと感じています。何度も日本一を経験し、日本代表でも活躍しましたが、リード面、キャッチング面でも向上心を持って取り組んでいる姿が見てとれます。打撃も昨年(打率.202、10本塁打)よりいいです。DeNAとの交流戦でも元チームメイトの森唯斗から本塁打を打つなど、パンチ力も健在です。

── セ・リーグはいかがですか。

谷繁 ベイスターズの山本ですね。京都翔英高から独立リーグ・BC滋賀を経て、ドラフト9位入団の7年目。私もここまで急激に伸びると予想していませんでした。とくに打撃面で目を見張るものがあります。昨年は伊藤光や戸柱恭孝らと併用されていましたが、今季はメインで出場しています。

── ほかに楽しみな捕手はいますか。

谷繁 6月12日のソフトバンク戦でスタメンマスクを被ったヤクルトの鈴木叶は、高卒1年目の捕手です。この時期に一軍の試合に出るということは、起用したい何かがあるということ。将来が楽しみな選手ですね。

── そして巨人は、打撃のいい大城、経験力豊富な小林、戸郷翔征のノーヒット・ノーラン達成の試合でマスクを被った岸田の3人で、それぞれ出場を三分しています。

谷繁 昨年は原辰徳監督の最終決定で、大城がメインでマスクを被りました。ただ、昨年ヘッド兼バッテリーコーチを務めていた阿部慎之助監督が、ベンチで見ながら「自分ならこうする」という考えを持っていたと思うんです。たとえば、大城が毎年3割、30本塁打、70〜80打点という数字を残していたら、間違いなくレギュラーで使うと思います。しかし、それだけの数字を残せないのであれば、ディフェンス面なども考慮して、小林や岸田を含め競争の余地があるのではないかと。実際、チーム防御率は現時点ではありますが、昨年の3.39(リーグ5位)から2.47(リーグ3位)とよくなっています。阿部監督のなかにディフェンスを強化したいという考えがあるのでしょうね。


谷繁元信(たにしげ・もとのぶ)/1970年12月21日、広島県生まれ。江の川高(現・石見智翠館)時代に甲子園に2度出場し、3年夏はベスト8進出。88年のドラフトで大洋(現・DeNA)から1位指名を受けて入団。98年にはベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得し、日本一に貢献。2002年に中日に移籍。06年にWBC日本代表に選出され、世界一を獲得。13年に通算2000本安打達成し、14年から選手兼監督となり、15年に現役を引退、16年は監督選任となり指揮を執った。通算3021試合出場(NPB歴代1位)、27シーズン連続本塁打など、数々の記録を残した。引退後は各種メディアで評論家、解説者として活躍している