6月22日、ユーロ2024のグループFでは、前々回の欧州王者であるポルトガルが、伏兵トルコを3−0と鮮やかに撃破した。初戦はチェコを後半アディショナルタイムの逆転弾で下しており、決勝トーナメント進出を早々に決めている。

 そのポルトガルをけん引するのが、20年以上、代表でプレーするクリスティアーノ・ロナウド(アル・ナスル)である。

 39歳になったストライカー、ロナウドに、全盛期の爆発的スプリント力は失われている。しかし、点取り屋としての執念と感覚は経験で増幅され、人並外れたレベルにある。ゴールへの道筋が見えているのだ。

 2023−24シーズン、ロナウドはサウジアラビアリーグの得点王に輝いている。アジアチャンピオンズリーグなどのカップ戦も含めると、44得点を記録。トップリーグではないが、ゴールし続けることができるのは特筆すべき集中力であり、人並み外れたゴールマシンとも言える。

 昨年、ポルトガル代表として戦ったユーロの予選でも、9試合で10得点を記録している。サウジアラビアでプレーすることでコンディション的に摩耗せず、ハイレベルでのプレーへの飢餓感もあるのか、離れ業と言えるだろう。代表のセンターフォワードとしてはパリ・サンジェルマンのゴンサロ・ラモスやレアル・ソシエダのアンドレ・シルバがライバル視されていたが、まったく寄せつけないほどの活躍だ。

 そして、今回のユーロ本大会でも抜群の存在感を放っている。


トルコ戦でブルーノ・フェルナンデスの得点をアシストしたことも話題になったクリスティアーノ・ロナウド photo by Reuters/AFLO

 トルコ戦、ロナウドは開始早々からクロスにボレーで狙っている。ジョアン・カンセロのクロスを呼び込み、「大鷲が舞う」と形容される打点の高いヘディングシュート。序盤からこれだけシュートを打てるだけでも、驚くに値する。カットインからのシュートの力は衰えたが、右サイドからのシンプルなドリブルからのクロスは昔取った杵柄で、ラファエル・レオンの頭に完璧に合わせていた。

 強運を呼び込む選手としても知られるが、1点リードで迎えた前半28分の"怪現象"はそのひとつだった。カンセロからのスルーパスを足元でもらいたかったところだが、スペースに出されたことに、ロナウドは怒りを露にしていた。しかし、それに相手が混乱したのか、ディフェンダーのバックパスがそのままオウンゴールに。一転、カンセロを抱きしめて喜びの笑顔で得点を祝った。

【「育ての親」が語った少年時代】

「メンタルお化け」

 ロナウドはそう言われるが、「勝利への貪欲さ」という点で、怪物的と言える。そうでなかったら、時代を背負う選手にはなっていないだろう。

 今から20年ほど前、ロナウドが育ったスポルティング・・リスボンのアカデミーで、彼の原点を辿っていた時のことだ。

 石段のような雲が低く立ちこめた土曜日、アカデミーでは育成年代の選手たちの試合が行なわれていた。地元紙が「クリスティアーノ・ロナウド二世」と紹介したファビオ・パイムという14歳の少年のプレーを取材する予定だった。しかし、彼はベンチで試合を終えた。

 そこで「ロナウド育ての親」と言われ、当時はスポルティングのBチームのヘッドコーチを務めていたリオネル・ポンテに話を聞いた。

「パイムがロナウド二世? 似たような才能はあるけど、ホンモノはそんな簡単に見つからない」

 ポンテは、含みのある渋い笑いを浮かべて言った。

「ひとつ言えるのは、ロナウドは特別な選手、ということだよ。彼のような選手は育てられない。生まれてくる。気づくと、誰もが一目置いていた。お祭り男というか、自然に人を集める雰囲気も持っていたし、やんちゃな人間たちの心を瞬く間につかんでしまった。技術、体力はあったけど、それ以上に"生まれながらの王様"と言うかね。彼だけのルールで行動できた。

 ポルトガルサッカー史上のレジェンドと言える(ルイス・)フィーゴだって、ロナウドと比べれば凡庸な選手だった。私はフィーゴとユース時代に対戦したことがあるが、はっきり言って、ずんぐりとした普通の選手という印象だったよ。確かにフィーゴは19歳までに驚くべき進化を遂げたが、19歳のロナウドはそれを軽く凌駕していた」

 パイムはその後、チェルシーに移籍したが、各国のクラブを転々とし、目立った経歴はなく、静かに現役を終えている。彼以外にも「ロナウドの再来」は数多く現われた。しかし、同じような運命を辿っている。

 ロナウドは、不世出の選手と言える。レジェンドの中のレジェンド。リオネル・メッシと同時代に活躍した時代を彩る別格のスーパースターだ。

 トルコ戦の後半10分には、ロナウドがハイラインの裏を抜け出し、独走状態に。横を走っていたブルーノ・フェルナンデスの得点をアシストした。その選択は、"仲間の気持ちを思って"とか、"決める自信がなかったから"とか、そんな理由ではない。確実に勝利するためにはじき出した答えだ。

 だからこそロナウドは、自らのポストプレーで抜け出した選手が無理にシュートを打ち、自分にクロスを折り返さなかった場面では、大声で不満を叫んでいた。誰彼構わず高い要求をし、軋轢など屁とも思わない。妥協せず、勝利に突き進む。今も変わらぬ"ピッチの王様"だ。

 ロナウドには王冠が似合う。まずはベスト16に進出したポルトガル。ユーロ2016以来の戴冠は視野に入った。