全日本2連覇、青学大野球部の安藤寧則監督が語るチーム作りの信念「徹底の裏側には納得がある」
大学日本一を決める全日本大学野球選手権の決勝が6月16日に行なわれ、早稲田大(東京六大学)に2−1で勝利した青山学院大(東都大学)が、2年連続の日本一を成し遂げた。
全日本2連覇を果たした青学大の安藤寧則監督(左)とキャプテンの佐々木泰 photo by Sankei Visual
試合前日、「一生懸命やることが青山学院らしい姿。それができるような形で送り出してやりたい」と意気込みを語った青学大の安藤寧則(あんどう・やすのり)監督。勝利後の会見では「幸せです。自慢の後輩です」と連覇の喜びを語った。ただ、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかったという。
「完璧なゲームがほとんどなく『何をやっているんだ......』と頭を抱える場面ばかりで、勝つことの難しさを感じました」
東都3連覇を目指して挑んだ春季リーグは、開幕8連勝でスタートダッシュに成功したものの、優勝争いは中央大との最終戦(5月29日)までもつれた。勝ったほうが優勝というその試合では、不振に苦しんだキャプテンの佐々木泰(ささき・たい/4年)の3ランホームランによるリードを守り切って3−1で勝利して優勝を決めた。
「誰がチームの指揮を執ろうとも、指導者ができることには限界がある。その先の部分は選手次第なんです」と話す安藤監督は、当時2部だった青学大を率いることになった2019年から、選手の自主性に重きを置いたチームづくりを行なってきた。
2020年秋には東都2部で8季ぶりに優勝して1部に復帰を果たす(※)と、徐々に力をつけたチームは、常廣羽也斗(つねひろ・はやと/現広島)、下村海翔(しもむら・かいと/現阪神)らの投手陣を擁した2023年に17年ぶりの1部優勝を果たす。続く全日本選手権でも18年ぶりの日本一を成し遂げた。
(※)コロナ禍の影響により入れ替え戦は実際されず。
今季の部員は、全日本選手権に出場したチームのなかでは最も少ない44名で、100人以上を抱えることも珍しくない大学野球部にしては少人数の編成だった。しかし安藤監督は「試合に出て成功や失敗を繰り返しながら成長できるところが強み」と、多くの選手にチャンスを与えることでやる気を引き出し、チームの好循環に繋げてきた。
【選手たちとのコミュニケーションの悩み】青学大を1部に引き上げ、常勝チームに育て上げた安藤監督の下でプレーを希望する選手はあとを絶たなそうだが......。安藤監督は、自チームに選手を迎え入れる際の明確な基準を設けているという。
「もちろんチームの中心を担ってくれそうな選手であることも大切ですが、それと同じくらい重視しているのは『自主性があり、指示待ちをしないかどうか』なんです。あとは、周囲から声をかけられる様子、率先して荷物を運んでいる、といった野球に取り組む姿勢を見極めながら、実際に獲得する選手を決めています」
その安藤監督が「(スカウトで訪れた際に)県立岐阜商業1年生の頃に惚れ込んだ」というキャプテンの佐々木など、現在4年生の選手たちは、コロナ禍の影響で高校3年時の夏の大会が中止になった。その後、入学したあとも対面でのコミュニケーションの機会が限られ、信頼関係を築くまでにさまざまな苦労が伴ったようだ。
「本当にいいヤツらですが、大勢の人と一緒に過ごした日々が少なかったせいか、僕の思いが伝わりにくい部分があり、対話に時間がかかったことはあったように思います。お互いに真剣に向き合って、時折腹が立つことありましたけど、それでも冷静に受け止めることを意識してきた。手がかかった世代だからこそ、優勝を手にできたことが本当にうれしいです」
選手たちとの関係性を築くことに悩んだ過去を明かした安藤監督は、いまだパワハラの問題が報じられ、指導の際に若い世代とのコミュニケーションに苦労することが多いスポーツ界の現状について、次のように持論を展開した。
「もし選手が著しく成長してくれるのなら、暴力に頼ってしまうこともあるかもしれません。でも、彼らは話せばきちんとわかってくれますし、もし僕が彼らに手を出すようなことがあろうものなら、おそらく拳を使わないと思いを伝えられない自分の未熟さを情けなく感じてしまうと思うんです。
結局は、ひとりひとりと真摯に向き合っていくことでしか選手の力を伸ばすことはできない。日々、自問自答しながら、彼らと向き合ってきたからこそ今があると思います」
【「納得」があるから「徹底」できる】安藤監督が選手たちとともに目指すのは、必死なプレーで見ている者を惹きつける「応援されるチーム」だ。ドラフト上位指名候補の西川史礁(にしかわ・ みしょう/4年)はこう語る。
「打ったあとに1塁まで駆け抜けたり、フライを打ち上げた場合も全力で走ったり、"最後まで やりきる"こと。それらは野球のすべてに繋がっていると思いますし、そういったところから結果に結びついていく。普段から全力で取り組む姿勢を意識しながら、思いきってプレーすることを心がけています」
こんな言葉からも目指す野球が浸透している印象を受けたが、安藤監督は「"徹底"の裏側には"納得"がある」と選手たちに言い聞かせてきたという。
「今年は佐々木キャプテンを中心にチーム作りをしていくわけですが、チームにはさまざまなところで頑張ってきた選手たちがいて、それぞれの事情を抱えている。頭で理解していても、心から納得できていないところがあると、それをやり続けることはなかなか難しい。さまざまなことを乗り越えて、納得してやり続ける苦労はそれぞれにあったと思います」。
新チームの始動時にはA4用紙に書いた目標を共有し、4冠を目指して歩み始めたものの、シーズン開幕を前にした社会人チームとの練習試合で3連敗を喫した。佐々木は「『なぜこんなに負けるのか。このままだとヤバいかもしれない』と思いました」と、当時を振り返る。そんな状況でミーティングを実施し、課題を洗い出したことが、春季リーグの開幕8連勝に繋がったという。
「(春季リーグ決勝の)負ければリーグ優勝を逃すという、大きな壁を乗り越えた経験が生かされている」(西川)というチームは、全日本大学選手権でも安定した戦いで並いる強豪を退け、決勝では早稲田大を相手に逆転勝利を収めた。
そして、安藤監督が「口数はあまり多くないですが、本当に我慢強くて、チームを背中で引っ張ってくれる」と評価するキャプテンの佐々木は、リーグ戦の不振を脱して最高殊勲選手賞を獲得。さまざまな試練を乗り越えた選手たちの成長が連覇を引き寄せた。
厳しい戦いを経験し、課題と向き合いながら逞しく成長してきたチームは、昨年に達成できなかった史上5校目の大学野球4冠達成に向けて、歩みを進めていく。
「母校を絶対に日本一にする」
5年前に揺るぎない覚悟を持って監督に就任した指揮官と、自慢の後輩たちに実りの秋は訪れるのか。その行方を見守りたい。