グループリーグの3巡目に入ったユーロ2024。序盤の2試合を終了した段階で、下馬評と現実の姿に最も"差"を感じさせたチームがイングランドだろう。そのイングランドは6月25日(日本時間26日4時〜)、グループリーグ最終戦をスロベニアと戦う。

 大会前、イングランドは英国ブックメーカー各社からフランスと並んで優勝候補の1番人気に推されていた。彼らは地元英国人の購買意識をかき立てようと、概して英国チームに甘い予想をする。クラブサッカーの場合もそうだが、そこのところは気持ち、割り引いて考える必要がある。

 イングランドが近年、右肩上がりの傾向にあることは確かである。W杯の過去2大会はベスト4(ロシア大会)とベスト8(カタールW杯)。ユーロの過去3大会も、ベスト8(2012年)、ベスト16(2016年)、準優勝(ユーロ2021年)と高位で安定している。

 ただし筆者が知る限り、イングランドが過去に優勝候補の本命に推された試しはない。ベスト4まで進んだ自国開催のユーロ1996も、そこまで高い評価ではなかった。

 サッカーの母国である。プレミアリーグもUEFAランクで首位に立つ欧州の盟主ながら、代表チームはユーロで欧州一の座に就いたことはない。常にチャレンジャーだったチームである。それが本命サイドに立たされることになり、居心地の悪さを覚えている。それがいまのイングランドだろう。

 1−0で辛勝した初戦のセルビア戦、1−1で引き分けたデンマーク戦の戦いぶりは、いずれも相手に苦戦したと言うより、"絶対に負けられない戦い"を強いられることになった自分たち自身に戸惑う様子が見て取れた。ガレス・サウスゲート監督の采配を含め、慣れない立ち位置に戸惑っている印象なのだ。


デンマークと引き分け、ジュード・ベリンガムを迎えるガレス・サウスゲート監督(イングランド)photo by Maurizio Borsari/AFLO

 先発メンバーは1戦、2戦とも不動だった。

 GK/ジョーダン・ピックフォード(エバートン)、左SB/キーラン・トリッピアー(ニューカッスル)、CB/マーク・グエーイ(クリスタルパレス)、ジョン・ストーンズ(マンチェスター・シティ)、右SB/カイル・ウォーカー(マンチェスター・シティ)、守備的MF/トレント・アレクサンダー・アーノルド(リバプール)、デクラン・ライス(アーセナル)、トップ下/ジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)、左ウイング/フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)、CF/ハリー・ケイン(バイエルン)、右ウイング/ブカヨ・サカ(アーセナル)。

【目につく左右のバランスの悪さ】

 セルビア、デンマークに対して1勝1引き分け。相手が欧州の中堅国であることを踏まえると、特に問題のある成績ではない。決勝まで全7戦。そこから逆算すれば、無難な滑り出しに見えなくもない。しかし、試合の中身に目を凝らすと、やはり本命と呼ぶには頼りないサッカーに映る。

 初戦で戦ったドラガン・ストイコビッチ監督率いるセルビアは、同監督の現役時代のキャラとは裏腹に、極めて地味に5バックで臨んできた。後方を固める作戦で優勝候補の本命に相対した。ところが開始13分、いきなり失点を喫してしまう。セルビアの守備的な作戦はその瞬間、破綻した。

 だがイングランドは、結局、その1点に終わった。試合内容も前半こそやや優勢に進めたが、後半は時間の経過とともに、セルビアにいつ同点に追いつかれても不思議ではない、危なっかしい展開になった。

 続くデンマーク戦も似た展開だった。このチームもイングランドに対し5バックで臨んできた。そして前半18分、ケインに先制ゴールを許すことになる。守備的に出ながら早々と失点する"間"の悪さに、イングランドは再び救われることになった。

 この試合も、イングランドは時間とともに徐々に相手の攻勢を許すことになるが、セルビア戦との違いは同点弾を浴びたことだ。スポルティングで守田英正と並んでプレーするMFモルテン・ヒュルマンドにきれいなミドル弾を蹴り込まれた。逆転されてもおかしくない劣勢のなかでタイムアップの笛を聞いた。

 今後に向け、まさによくない終わり方だった。問題は、改善されそうな要素が見当たらないことだ。

 最も目につく点は左右のバランスの悪さだ。右のサカが文字通りのウイングプレーで縦突破を狙うのに対し、左のフォーデンは中盤選手然とプレーする。そのプレースタイルはアタッカーには見えない。また、フォーデンを下支えするトリッピアーは攻撃参加には非積極的だ。堅実ではあるが今日的SBとは言えない。よって、フォーデンが中に入ると左サイドはまったくの推進力不足に陥る。

【苦戦しているのに交代枠を使いきれない】

 相手は5バック。「引いて構える相手を崩すにはサイドから攻めよ」との鉄則から外れたサッカーでもある。デンマーク戦の後半9分、フォーデンが真ん中に入り込み、大きな切り返しから左足でグラウンダーのシュートを狙うと、ボールはポストを直撃した。イングランドに惜しいシーンはあった。だがそれでも、その中央攻撃は理屈から外れた強引で非効率的な攻めに見えた。

 フォーデンは初戦のセルビア戦はフル出場。さすがにデンマーク戦は後半24分、エベレチ・エゼ(クリスタルパレス)と交代でベンチに下がっている。だが、サカと交代で入ってくるジャロッド・ボーウェン(ウェストハム)、そしてそれぞれを下支えするSBウォーカーの、右サイドの関係に比べると頼りなく見える。

 フォーデンが中盤選手然とプレーする姿は、かつてのスペイン代表を想起させる。うまい中盤選手は山ほどいるが、特筆すべきウインガー不在。スペインは中盤選手を外に回し、急場を凌ごうとした。だが、最近はその中盤サッカーが限界を迎えていた。ユーロを連覇(2008年、2012年)し、その間に行なわれた南アフリカW杯と合わせて3連覇した頃の勢いは、ここ数年はなくなっていた。

 ところが今回は、ニコ・ウイリアムズ(アスレティック・ビルバオ)とラミン・ヤマル(バルセロナ)という強力な両ウイングが出現。スペインは内と外とのバランスに長けた攻撃を繰り広げる。今回のイングランドに処方したい"薬"に見えて仕方がない。

 サウスゲート監督の交代術にも懐疑的な目を向けたくなる。セルビア戦で使用した交代枠は3人で、デンマーク戦は4人だった。2試合で3枠も余したことになる。7試合を戦い抜こうとする監督の采配としては物足りなく映る。

 苦戦するにしても、一方で多くの選手を使っているなら、将来の可能性は広がる。逆に、同じメンバーで苦戦すると、将来の可能性も狭まる。要するに打開策が見えていないのだ。

 交代枠を使いきれない理由、同じメンバーで戦ってしまう理由は、その余裕がないか、控えの戦力が著しく落ちるかのどちらかだ。試合は2戦とも接戦だった。怖くて代えられなかった。これがサウスゲート監督の本音だろう。ブックメーカーから1番人気に推されている監督にのしかかる、無言のプレッシャーかもしれない。

 イングランドが3戦目を戦うスロベニアも、セルビア、デンマークと実力的に同等のチームだ。楽勝ムードにはない。すでに勝ち点3を挙げているので、ベスト16入りは問題ないが、イングランドには使っていない選手が多くいるので、ターンオーバーをすれば諸々の計算が立ちにくくなる。だが、繰り返すが、監督が心配性になるあまりその追求を怠れば、選択肢は増えない。優勝の可能性は減る。先発メンバーと交代メンバー、とりわけ左サイドに注視したい。

 今後の可能性をどれだけ残しながらグループリーグを通過するか。イングランドはもちろん、他のチームにも同じ視線を持ちながらグループリーグ3巡目の戦いを観戦したい。